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聖女と魔王と魔女編
女王陛下のお仕事6
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「ひめさまーっ! 私がんばりました」
食堂につくなりユリアに抱きつかれた。
「もう怖かったんですよ。特別報酬ください」
「お城に帰ったら、薬草園と温室作るね。調合室は新しく作って、最新機材入れよう」
「ほんとですかっ! なに買おうかなっ」
……ちょろい。
というより、全部仕事が増えるってことなんだけどいいの?
私は懐の心配もしなければいけない事は一時置いた。ユリアはそれくらいのことはやってのけた。
私がいない間に制圧し、新勢力も無力化って……呆れるというより乾いた笑いが出てくる。そして、そのユリアが主として認めているということで、私の価値が相対的にあがった。
え、この女王陛下もなにかやらかすのでは? という視線が痛い。
私は可愛い可憐な女王様。設定大事。
よしよしとユリアを宥めて、離れるように促す。
「皆も大変でしたね」
まずは労い。皆も存分に振り回されたので、もう、実感がこもってしまった。
私は先ほどまでのやり取りを思い出す。
今の現状に一番詳しかったのは自称諜報部の男だった。シィと名乗ったが偽名なのでと申告してくるふざけた男である。
話を聞けば、この砦の平和と混乱の元凶に近かった。ほどほどに皆、仲が悪く、結託しないようにしていたらしい。
まず先々代の派閥の古参と新入りが結託して女王が来た時に企んでいるようだったから、こっそり、王弟派に情報を流していた。
そして、派閥に関係なくここにいたものには女王陛下にはお気に入りの幼馴染がいてなど余計な情報で煽ったらしい。ついでに、他の派閥のものにもジニーが負傷したら陛下の護衛が薄くなるねとか何とかも言ったらしい。
ジニーがやけに突っかかられた原因はやつだった。
そして、やっぱり、ウィリアムが王にしたかった、らしい。というより、上司がそう望んでいたからそうしたっていう印象だけどね。
敵に襲われてウィリアムに助けに行ってもらって、恋にでも落ちてくれればと軽く言われ無言で殴ってしまった。そこで事情聴取が終了したのは失態だった。残り一つ、二つ聞いておきたいこともあったので後で聞いておこうと思う。
それはさておき、私の情報が漏れてないっぽい。ユリアとの身代わりは漏れていても、ジニーとの同一視はされていない。
ウィリアムが言わないのはわかる。義理堅いということもあるし、そのほうが私自身襲われたときに身を守りやすいと知っているからだ。少年たちにいたっては、言っても理解されないと達観していたし……。
諜報部というならば、そのあたりも知っていてもおかしくないのに。
知っていて、誰にも言わずに黙っていた。ということをどう思えばいいのか。
……まあ、こうなったのは私の見込みが甘かったというのはある。ものすごくある。
ウィリアムが王となったあとの手筈も整っていた、ということを見逃していた。あの男が王冠のっけて終わりとかするわけがなかった。自分がいなくなるなら、なおさら、ちゃんと準備するだろう。
言われてみれば当たり前すぎて、なにを見逃していたのだと。
なお、ウィリアムは頭を抱えて、けが人とか言わず殴っておけばよかったと言っていた。
……会ったのか。いや、それはどうでもいい。
今の状況を私に有利に、そして、ウィリアムにそれほど責を負わせないで終わりにしなければならない。
さすがに王族三人葬るとか国内のあれこれが面倒を超える。これには魔女もあてにならない。
「さて、状況を共有しましょう」
知らない情報があれこれ出てきてるから、ここでもなにか目新しいことがあるかもしれない。それに、皆が皆状況を知らないままでは疑心暗鬼となるだろう。
今は、それは困る。この中に、まだ、裏切っていないものがいたとしても、だ。裏切らせるわけにはいかない。
きちんと釘もさしておきたい。その点は、ウィリアムにも伝えてある。彼からの反対がなくて幸いだが、逆におとなしすぎて不穏でもある。
「今夜、最初に襲われたのは誰だ?」
一応、仕切りはウィリアムに任せている。気楽に座って食堂の中を観察する。推定襲撃側は部屋の一角にまとめて隔離している。ユリアが言うには、なんか、よくわかんないのでまとめて処理しておきましたと。
家柄とか、いつ来たのかとか、後でまとめて確認作業が発生すると思うとげんなりする。
小さく頭を振って気分を入れ替える。
夜間の見回りは3回に分けられている。
消灯とされる時間に戸締りやらなにやらをするのが一回目。その後、持ち場につき動くことはない。
二回目は夜中に襲撃というより、寝そうなところを体を動かして起きる目的のようなものだ。
三回目は、早番の一部と夜番の一部でするそうだ。見回りをして引継ぎをして、夜の仕事は終わる。
一回目は問題なく終わり、持ち場でも不審なことはなかった。
二回目で異変が起きたらしい。
体調不良で人員の入れ替えが一部あった。それについては、後でまとめて報告をあげることになっていたようだ。
任務を遂行できないのであれば入れ替えても構わない、というのは柔軟な対応ではあるが今回は裏目に出てしまっている。
「つまり、よく寝て元気な入れ替え人員と夜番ではない人たちが、眠いあなたたちを不意打ちで襲ったと」
「そのような事態だと思われます」
私の問いに一人が青ざめたまま肯定した。
言いわけしないところは評価していい。それからウィリアムに向けて言わないところも。少しは話せるかな。
「それにしてはいいようにやられていたみたいだけど、どうして?」
これはわりと疑問だ。暴れていたところもそれなりにあるんだけど、総数としては多くない。不意打ちされたにしても争った形跡が少なすぎる。
「最初は油断したにしても、応戦はできるでしょう?」
「それはその、あの」
なんだか微妙に言いにくそうな感じがするのはなんでだろ? 続きを大人しく待っているつもりなのだけど、焦っているように見えた。
「ゆっくりでいいのよ?」
「じっと見られては答えにくいだろう。陛下はちょっと刺激が強すぎる」
「まあ、ひどいわ」
ウィリアムのそれは茶番だとは思うけれど、付き合っておく。
拗ねたような表情75点くらいかな。
「ここには魔物しかいないから対人戦闘に慣れてない。やりすぎるかもと少しはためらう」
「確かにそうかもしれないわね」
攻撃が荒いとは思っていたのだ。とりあえずは当てりゃいいだろう、という感じで。それも、一撃が重い。あんなの普通の人が食らうとまずいだろうから一瞬迷うくらいはしそうだ。曲がりなりにも同僚ではあったわけだし。
ということは。今更気がついたことがある。じろりとウィリアムを睨んだ。
「だったら、わかっててジニーに相手させたのかな。ウィル」
「え、あー、すまん」
さらっと流された。
……あとで、説明してもらおうかな。どうせ、大丈夫だと思った、そんな弱くないと思ったとか言いだしそうだけど。
「相手をケガをさせ過ぎるかもしれないから反撃をためらったら、追撃を食らったってことかしら」
話を元にもどしておこう。
「そ、そうです。けが、怪我は問題ですよね」
おや、反応が微妙だ。
あ、わかった。つまり殺しちゃいそうになるってことで、それを女王陛下というか女性に言うにはちょっと……とためらったのか。
可憐な振りはそれなりに効果はあったらしい。
「全部がそうでもないだろう。わざと怪我した振りしていたやつもいるはずだ」
「止め刺されるのと賭けだけど、よくしたものね」
「その時は、容赦する必要はないだろ」
思ったより攻撃的な答えが返ってきた。自信も自負もあるんだろう。
「それに状況がわからないうちにやみくもに動くなとは厳命している」
「統率している人がいれば問題はなかったでしょうけどね。
ウィリアム殿は不在でよく持ちこたえというべきかしら」
その形式をとるならば、もう一人か二人くらいはウィリアムと同等の指揮権を持つ人がいないとやっていけないと思うんだよね。
この青の騎士団には今副団長がいない。
副団長は聖女が見つかったあとに戦死している。その人は赤毛で、イリューの兄であることはイリュー本人から確認している。
かけたものがあると言うのに、誰もそれを言わず、むしろ隠してさえいるようだった。
おそらく、誰も言わない何かがあるのだ。それを言わせるのは、あの自称諜報部の男がいいだろう。
推論だけで言えば、イリューの兄はたぶん……。
「あのぅ」
小さい声が聞こえた。
なにか思い出したようなことでもあるのだろうか?
「なにかしら」
「ええと、その、陛下とうちの団長はどこにいたので?」
……。
そこ、聞かれると思わなかった。
確かに、女王陛下は替え玉を用意して、不在。ウィリアムも部屋にいなかった。
じゃあ、どこにいたの? という話はある。
そもそもウィリアムが、部屋にちゃんといたら事態は違っただろう。
責任問題だとは思うのだが妙に静まり返っているし、なにかを期待しているかのような雰囲気はなんなんだろうか?
「魔女に呼ばれた」
「そ、そう。急にね、お酒が飲みたいとか言いだして」
ということにしておこう。二人きりでいたとされるよりはよほどましだ。
「その魔女様は手助けしてくださらなかったんですか?」
「砦ごと生き埋めでいい? と聞いてくるような相手に助力を求めたい?」
「……いいえ」
今、兄様の所在についても気がつかれたくないので、この話は切り上げたい。
「では、あちらの人たちについて聞きたいわ。
悪いけど分別してくれるかしら。
まず、王弟派、先々代の王派、その他にわけて。それから、いつ頃来たかも並べ直して」
ほんと、面倒。
人手が足りないどころじゃない。私はこの国の人でもないし、女王様やっているけどどの家がどの派閥とかも把握しきれていない。
ウィリアム達がそれぞれ話しているけれど、イリューが役に立っている。伊達に財務卿のところで修行していなかったらしい。
その結果、王弟派は少数だった。ユリアが姫様に成り代わるように脅されたんですよと証言している。怖かったとか言っているけど、どこまで本気かはわからない。なお、オスカーがものすごく心配そうだったので、丸投げした。
襲う側、つまり捕縛されているのは、ほぼ、その他というのが私には意外だった。
ウィリアムを支持していたのは、いわゆる中立派と思われていた家ばかりだ。シィから聞いた先々代の派閥が大部分という認識とかなりずれがある。
今、捕まえたのは先々代にも先代にもつかず淡々と職務をこなしているとされている家柄であるらしい。そう見えるように潜伏してたってことだ。誰の入れ知恵とか考えたくない……。
殴っても構わないよね? なにこのトラップの山。ウィリアム以外が即位したら発動とか遅延の罠すぎない?
王都に戻ってからが、想定以上に荒れてそうで頭が痛くなってきた。
フィンレー無事かな。
姉様、見込み間違いしちゃった。真面目に働いてるから大丈夫って思ってた。ごめんねと思念を送っておく。きっと、なにか届くはずだ。
一部、話をできるようにした疑似中立派の証言で言えば。
1.私がウィリアム様の嫁になっておけばよかったのに。
2.そうでなければ、さっさと実家帰ればよかったのに。
3.とっとと王冠返上すればよかったのに。
4.ほんと死ねばいいのに。
5.ウィリアム様もそんな女の言いなりになるには情けない。
6.なにで篭絡したんだ(以下略)
以上。それ以上の証言がきけなかった。
6でウィリアムがキレた。無言で、殺そうとするからびびった。
な、なに? 君、そんなキャラじゃないでしょ? なんなの、心臓バクバクしちゃったぞ?
もちろん殺害は止めた。負傷は止めそこなった。
「なぜ、止めたのですか」
「私のために怒ってくれてありがとう。
でも、これは他にもそう思っている人がいることだと思うの。思うだけなら好きにすればいいわ。
口に出したら、相応の対応をするけれどね」
「でしたら俺が」
「背後全部と家も家族構成もきちんと聞き取りしてからね。
これはね、王の暗殺未遂なんだ。本人だけで済ませるわけにはいかない。反省もしない、罵倒するようなやつの身内なんてのはひどいやつばかりだろうからね。
みんな、ちゃんと、一緒に連れて行ってあげるよ。寂しくないだろ」
当たり前のことを告げただけなのになぜか静まり返っていた。
おや?
「まさか、一人の責任もしくは扇動されたからと言い逃れるつもりだったの?」
私の言葉に刺激されたのか、誰が悪い、仕方なしに付き合ったのだ、家柄の違いで等々言いわけが出てくる。
計画が行き当たりばったりでも、上手くできると思い込んでいた風だ。
扇動者がいたんだな、やっぱり。というかあのシィとか言うやつだろう。
半端な下位互換だ。質がわるい。やはり、諜報部というのがあるとしたら解体だ。
「実行した時点でもう終わりだ。
生き残ったところでいいこともないだろう」
ウィリアムが冷ややかに最終宣告をしている。あれはまだ怒ってるな。勝手に何かしないようにちょっと注意がいる。
まあ、私のために怒る、というのは悪くはなかったけれどね。
「その女がいなければ」
結局そこに戻ってくるのは、私がいなければ成功の見込みが高かったと思っていたからだろう。
仕組んだ側は、私がいたからこそ始めたというのに。
「それは先々代に言うことね。彼が望んだのよ」
望んだ結果はこれではなかったと思うけど。
「私は普通の政略結婚で、そこそこ平和な日常があればよかったの」
全てなかったのだけどね。
食堂につくなりユリアに抱きつかれた。
「もう怖かったんですよ。特別報酬ください」
「お城に帰ったら、薬草園と温室作るね。調合室は新しく作って、最新機材入れよう」
「ほんとですかっ! なに買おうかなっ」
……ちょろい。
というより、全部仕事が増えるってことなんだけどいいの?
私は懐の心配もしなければいけない事は一時置いた。ユリアはそれくらいのことはやってのけた。
私がいない間に制圧し、新勢力も無力化って……呆れるというより乾いた笑いが出てくる。そして、そのユリアが主として認めているということで、私の価値が相対的にあがった。
え、この女王陛下もなにかやらかすのでは? という視線が痛い。
私は可愛い可憐な女王様。設定大事。
よしよしとユリアを宥めて、離れるように促す。
「皆も大変でしたね」
まずは労い。皆も存分に振り回されたので、もう、実感がこもってしまった。
私は先ほどまでのやり取りを思い出す。
今の現状に一番詳しかったのは自称諜報部の男だった。シィと名乗ったが偽名なのでと申告してくるふざけた男である。
話を聞けば、この砦の平和と混乱の元凶に近かった。ほどほどに皆、仲が悪く、結託しないようにしていたらしい。
まず先々代の派閥の古参と新入りが結託して女王が来た時に企んでいるようだったから、こっそり、王弟派に情報を流していた。
そして、派閥に関係なくここにいたものには女王陛下にはお気に入りの幼馴染がいてなど余計な情報で煽ったらしい。ついでに、他の派閥のものにもジニーが負傷したら陛下の護衛が薄くなるねとか何とかも言ったらしい。
ジニーがやけに突っかかられた原因はやつだった。
そして、やっぱり、ウィリアムが王にしたかった、らしい。というより、上司がそう望んでいたからそうしたっていう印象だけどね。
敵に襲われてウィリアムに助けに行ってもらって、恋にでも落ちてくれればと軽く言われ無言で殴ってしまった。そこで事情聴取が終了したのは失態だった。残り一つ、二つ聞いておきたいこともあったので後で聞いておこうと思う。
それはさておき、私の情報が漏れてないっぽい。ユリアとの身代わりは漏れていても、ジニーとの同一視はされていない。
ウィリアムが言わないのはわかる。義理堅いということもあるし、そのほうが私自身襲われたときに身を守りやすいと知っているからだ。少年たちにいたっては、言っても理解されないと達観していたし……。
諜報部というならば、そのあたりも知っていてもおかしくないのに。
知っていて、誰にも言わずに黙っていた。ということをどう思えばいいのか。
……まあ、こうなったのは私の見込みが甘かったというのはある。ものすごくある。
ウィリアムが王となったあとの手筈も整っていた、ということを見逃していた。あの男が王冠のっけて終わりとかするわけがなかった。自分がいなくなるなら、なおさら、ちゃんと準備するだろう。
言われてみれば当たり前すぎて、なにを見逃していたのだと。
なお、ウィリアムは頭を抱えて、けが人とか言わず殴っておけばよかったと言っていた。
……会ったのか。いや、それはどうでもいい。
今の状況を私に有利に、そして、ウィリアムにそれほど責を負わせないで終わりにしなければならない。
さすがに王族三人葬るとか国内のあれこれが面倒を超える。これには魔女もあてにならない。
「さて、状況を共有しましょう」
知らない情報があれこれ出てきてるから、ここでもなにか目新しいことがあるかもしれない。それに、皆が皆状況を知らないままでは疑心暗鬼となるだろう。
今は、それは困る。この中に、まだ、裏切っていないものがいたとしても、だ。裏切らせるわけにはいかない。
きちんと釘もさしておきたい。その点は、ウィリアムにも伝えてある。彼からの反対がなくて幸いだが、逆におとなしすぎて不穏でもある。
「今夜、最初に襲われたのは誰だ?」
一応、仕切りはウィリアムに任せている。気楽に座って食堂の中を観察する。推定襲撃側は部屋の一角にまとめて隔離している。ユリアが言うには、なんか、よくわかんないのでまとめて処理しておきましたと。
家柄とか、いつ来たのかとか、後でまとめて確認作業が発生すると思うとげんなりする。
小さく頭を振って気分を入れ替える。
夜間の見回りは3回に分けられている。
消灯とされる時間に戸締りやらなにやらをするのが一回目。その後、持ち場につき動くことはない。
二回目は夜中に襲撃というより、寝そうなところを体を動かして起きる目的のようなものだ。
三回目は、早番の一部と夜番の一部でするそうだ。見回りをして引継ぎをして、夜の仕事は終わる。
一回目は問題なく終わり、持ち場でも不審なことはなかった。
二回目で異変が起きたらしい。
体調不良で人員の入れ替えが一部あった。それについては、後でまとめて報告をあげることになっていたようだ。
任務を遂行できないのであれば入れ替えても構わない、というのは柔軟な対応ではあるが今回は裏目に出てしまっている。
「つまり、よく寝て元気な入れ替え人員と夜番ではない人たちが、眠いあなたたちを不意打ちで襲ったと」
「そのような事態だと思われます」
私の問いに一人が青ざめたまま肯定した。
言いわけしないところは評価していい。それからウィリアムに向けて言わないところも。少しは話せるかな。
「それにしてはいいようにやられていたみたいだけど、どうして?」
これはわりと疑問だ。暴れていたところもそれなりにあるんだけど、総数としては多くない。不意打ちされたにしても争った形跡が少なすぎる。
「最初は油断したにしても、応戦はできるでしょう?」
「それはその、あの」
なんだか微妙に言いにくそうな感じがするのはなんでだろ? 続きを大人しく待っているつもりなのだけど、焦っているように見えた。
「ゆっくりでいいのよ?」
「じっと見られては答えにくいだろう。陛下はちょっと刺激が強すぎる」
「まあ、ひどいわ」
ウィリアムのそれは茶番だとは思うけれど、付き合っておく。
拗ねたような表情75点くらいかな。
「ここには魔物しかいないから対人戦闘に慣れてない。やりすぎるかもと少しはためらう」
「確かにそうかもしれないわね」
攻撃が荒いとは思っていたのだ。とりあえずは当てりゃいいだろう、という感じで。それも、一撃が重い。あんなの普通の人が食らうとまずいだろうから一瞬迷うくらいはしそうだ。曲がりなりにも同僚ではあったわけだし。
ということは。今更気がついたことがある。じろりとウィリアムを睨んだ。
「だったら、わかっててジニーに相手させたのかな。ウィル」
「え、あー、すまん」
さらっと流された。
……あとで、説明してもらおうかな。どうせ、大丈夫だと思った、そんな弱くないと思ったとか言いだしそうだけど。
「相手をケガをさせ過ぎるかもしれないから反撃をためらったら、追撃を食らったってことかしら」
話を元にもどしておこう。
「そ、そうです。けが、怪我は問題ですよね」
おや、反応が微妙だ。
あ、わかった。つまり殺しちゃいそうになるってことで、それを女王陛下というか女性に言うにはちょっと……とためらったのか。
可憐な振りはそれなりに効果はあったらしい。
「全部がそうでもないだろう。わざと怪我した振りしていたやつもいるはずだ」
「止め刺されるのと賭けだけど、よくしたものね」
「その時は、容赦する必要はないだろ」
思ったより攻撃的な答えが返ってきた。自信も自負もあるんだろう。
「それに状況がわからないうちにやみくもに動くなとは厳命している」
「統率している人がいれば問題はなかったでしょうけどね。
ウィリアム殿は不在でよく持ちこたえというべきかしら」
その形式をとるならば、もう一人か二人くらいはウィリアムと同等の指揮権を持つ人がいないとやっていけないと思うんだよね。
この青の騎士団には今副団長がいない。
副団長は聖女が見つかったあとに戦死している。その人は赤毛で、イリューの兄であることはイリュー本人から確認している。
かけたものがあると言うのに、誰もそれを言わず、むしろ隠してさえいるようだった。
おそらく、誰も言わない何かがあるのだ。それを言わせるのは、あの自称諜報部の男がいいだろう。
推論だけで言えば、イリューの兄はたぶん……。
「あのぅ」
小さい声が聞こえた。
なにか思い出したようなことでもあるのだろうか?
「なにかしら」
「ええと、その、陛下とうちの団長はどこにいたので?」
……。
そこ、聞かれると思わなかった。
確かに、女王陛下は替え玉を用意して、不在。ウィリアムも部屋にいなかった。
じゃあ、どこにいたの? という話はある。
そもそもウィリアムが、部屋にちゃんといたら事態は違っただろう。
責任問題だとは思うのだが妙に静まり返っているし、なにかを期待しているかのような雰囲気はなんなんだろうか?
「魔女に呼ばれた」
「そ、そう。急にね、お酒が飲みたいとか言いだして」
ということにしておこう。二人きりでいたとされるよりはよほどましだ。
「その魔女様は手助けしてくださらなかったんですか?」
「砦ごと生き埋めでいい? と聞いてくるような相手に助力を求めたい?」
「……いいえ」
今、兄様の所在についても気がつかれたくないので、この話は切り上げたい。
「では、あちらの人たちについて聞きたいわ。
悪いけど分別してくれるかしら。
まず、王弟派、先々代の王派、その他にわけて。それから、いつ頃来たかも並べ直して」
ほんと、面倒。
人手が足りないどころじゃない。私はこの国の人でもないし、女王様やっているけどどの家がどの派閥とかも把握しきれていない。
ウィリアム達がそれぞれ話しているけれど、イリューが役に立っている。伊達に財務卿のところで修行していなかったらしい。
その結果、王弟派は少数だった。ユリアが姫様に成り代わるように脅されたんですよと証言している。怖かったとか言っているけど、どこまで本気かはわからない。なお、オスカーがものすごく心配そうだったので、丸投げした。
襲う側、つまり捕縛されているのは、ほぼ、その他というのが私には意外だった。
ウィリアムを支持していたのは、いわゆる中立派と思われていた家ばかりだ。シィから聞いた先々代の派閥が大部分という認識とかなりずれがある。
今、捕まえたのは先々代にも先代にもつかず淡々と職務をこなしているとされている家柄であるらしい。そう見えるように潜伏してたってことだ。誰の入れ知恵とか考えたくない……。
殴っても構わないよね? なにこのトラップの山。ウィリアム以外が即位したら発動とか遅延の罠すぎない?
王都に戻ってからが、想定以上に荒れてそうで頭が痛くなってきた。
フィンレー無事かな。
姉様、見込み間違いしちゃった。真面目に働いてるから大丈夫って思ってた。ごめんねと思念を送っておく。きっと、なにか届くはずだ。
一部、話をできるようにした疑似中立派の証言で言えば。
1.私がウィリアム様の嫁になっておけばよかったのに。
2.そうでなければ、さっさと実家帰ればよかったのに。
3.とっとと王冠返上すればよかったのに。
4.ほんと死ねばいいのに。
5.ウィリアム様もそんな女の言いなりになるには情けない。
6.なにで篭絡したんだ(以下略)
以上。それ以上の証言がきけなかった。
6でウィリアムがキレた。無言で、殺そうとするからびびった。
な、なに? 君、そんなキャラじゃないでしょ? なんなの、心臓バクバクしちゃったぞ?
もちろん殺害は止めた。負傷は止めそこなった。
「なぜ、止めたのですか」
「私のために怒ってくれてありがとう。
でも、これは他にもそう思っている人がいることだと思うの。思うだけなら好きにすればいいわ。
口に出したら、相応の対応をするけれどね」
「でしたら俺が」
「背後全部と家も家族構成もきちんと聞き取りしてからね。
これはね、王の暗殺未遂なんだ。本人だけで済ませるわけにはいかない。反省もしない、罵倒するようなやつの身内なんてのはひどいやつばかりだろうからね。
みんな、ちゃんと、一緒に連れて行ってあげるよ。寂しくないだろ」
当たり前のことを告げただけなのになぜか静まり返っていた。
おや?
「まさか、一人の責任もしくは扇動されたからと言い逃れるつもりだったの?」
私の言葉に刺激されたのか、誰が悪い、仕方なしに付き合ったのだ、家柄の違いで等々言いわけが出てくる。
計画が行き当たりばったりでも、上手くできると思い込んでいた風だ。
扇動者がいたんだな、やっぱり。というかあのシィとか言うやつだろう。
半端な下位互換だ。質がわるい。やはり、諜報部というのがあるとしたら解体だ。
「実行した時点でもう終わりだ。
生き残ったところでいいこともないだろう」
ウィリアムが冷ややかに最終宣告をしている。あれはまだ怒ってるな。勝手に何かしないようにちょっと注意がいる。
まあ、私のために怒る、というのは悪くはなかったけれどね。
「その女がいなければ」
結局そこに戻ってくるのは、私がいなければ成功の見込みが高かったと思っていたからだろう。
仕組んだ側は、私がいたからこそ始めたというのに。
「それは先々代に言うことね。彼が望んだのよ」
望んだ結果はこれではなかったと思うけど。
「私は普通の政略結婚で、そこそこ平和な日常があればよかったの」
全てなかったのだけどね。
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