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舞踏会-1
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寒波が過ぎ去り、一転して例年よりも温かくなった12月上旬。
皇帝が主催する舞踏会が催されることになり、数合わせながらも参加することになったフィリアの姿が宮殿の大広間にあった。
恰好はパレードの時と同じ濃緑のドレスだった。
もっとも、お飾りの側妃に積極的に話しかける物好きはいなかったし、フィリア自身も華やかなイベントを積極的に楽しめる性格ではないので目立たないよう大広間の壁の花になる。
大広間の中、楽団の演奏に合わせて踊る無数の男女のペアが作り出す渦のはずれでフィリアは浮かない表情で立ち続けた。
時折グラスを傾けてアルコールを喉に流し込みながら、何を考えるでもなくボウッとして時間が過ぎるのを待つ。
何気なく視線をさまよわせていると、入り口から誰かが入ってくるのが見えた。
「・・・アベル」
思わず、その名が口からこぼれ出ていた。
今夜は騎士ではなく舞踏会の参加者の1人として来ているらしく、普段の鎧姿ではなく青色を基調にした礼服を着ていた。
真夏の青空を思わせるような青は、アベルにとても似合っている。
不意に周囲を見渡していたアベルの視線とフィリアの視線とが重なった。
アベルはフィリアを見据えると、まっすぐに歩いきた。
思わずフィリアは後ずさりをしそうになるが後ろは壁。
「こんばんはフィリア様。今はお1人ですか?」
「ええ・・・そうよ」
先日アベルへの恋心を自覚してしまったフィリアの言葉は以前よりもぎこちない。
そんなフィリアの内心に気づかずに、アベルは距離を詰めるとフィリアの左手に立った。
アベルとの接近に比例してフィリアの心拍数が上がる。
「踊りには行かないの?」
「俺、ダンスはからっきしでして・・・」
アベルはやや恥ずかしそうにしながら、フィリアの問に答えた。
「・・・そう」
何か気を紛らわせるような会話がしたいフィリアだったが、いい話題が思いつかず口調は尻すぼみになってしまった。
「フィリア様もダンスは苦手なんですか?」
「そういうわけではないけど・・・何せ相手がいないから」
アベルは少し考え込むような表情をすると、片手をこちらに差し出してきた。
「では、一曲お相手願えませんか?」
そう言ってアベルはフィリアに手を差し出してきた。
「え、ええ?」
目を見開いたフィリアは困惑を隠せない。
「よろしければダンスのやり方を教えていただけないかと思いまして・・・俺では、お気に召さないでしょうか?」
「いえ・・・そんなことは無いわ」
アベルとひと時を共に踊って過ごせる・・・それはフィリアにとっては間違いなく望外の喜びである。
でも、躊躇と恥じらいが首を縦に振ることを許してくれない。
その時だった――演奏のペースが落ち、ゆったりとしたなだらかな曲調に変化した。
それは一定時間ごとに挟まれる間奏であり、疲れたペアが抜け、新しくペアが加わるための小休止。
偶然にも誰かと踊りを始めるのに絶好のタイミングが来てしまった。
ここまで状況が出来上がってしまえば、もうフィリアには逆らいようは無い。
「・・・こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
フィリアはアベルの手を取った。
皇帝が主催する舞踏会が催されることになり、数合わせながらも参加することになったフィリアの姿が宮殿の大広間にあった。
恰好はパレードの時と同じ濃緑のドレスだった。
もっとも、お飾りの側妃に積極的に話しかける物好きはいなかったし、フィリア自身も華やかなイベントを積極的に楽しめる性格ではないので目立たないよう大広間の壁の花になる。
大広間の中、楽団の演奏に合わせて踊る無数の男女のペアが作り出す渦のはずれでフィリアは浮かない表情で立ち続けた。
時折グラスを傾けてアルコールを喉に流し込みながら、何を考えるでもなくボウッとして時間が過ぎるのを待つ。
何気なく視線をさまよわせていると、入り口から誰かが入ってくるのが見えた。
「・・・アベル」
思わず、その名が口からこぼれ出ていた。
今夜は騎士ではなく舞踏会の参加者の1人として来ているらしく、普段の鎧姿ではなく青色を基調にした礼服を着ていた。
真夏の青空を思わせるような青は、アベルにとても似合っている。
不意に周囲を見渡していたアベルの視線とフィリアの視線とが重なった。
アベルはフィリアを見据えると、まっすぐに歩いきた。
思わずフィリアは後ずさりをしそうになるが後ろは壁。
「こんばんはフィリア様。今はお1人ですか?」
「ええ・・・そうよ」
先日アベルへの恋心を自覚してしまったフィリアの言葉は以前よりもぎこちない。
そんなフィリアの内心に気づかずに、アベルは距離を詰めるとフィリアの左手に立った。
アベルとの接近に比例してフィリアの心拍数が上がる。
「踊りには行かないの?」
「俺、ダンスはからっきしでして・・・」
アベルはやや恥ずかしそうにしながら、フィリアの問に答えた。
「・・・そう」
何か気を紛らわせるような会話がしたいフィリアだったが、いい話題が思いつかず口調は尻すぼみになってしまった。
「フィリア様もダンスは苦手なんですか?」
「そういうわけではないけど・・・何せ相手がいないから」
アベルは少し考え込むような表情をすると、片手をこちらに差し出してきた。
「では、一曲お相手願えませんか?」
そう言ってアベルはフィリアに手を差し出してきた。
「え、ええ?」
目を見開いたフィリアは困惑を隠せない。
「よろしければダンスのやり方を教えていただけないかと思いまして・・・俺では、お気に召さないでしょうか?」
「いえ・・・そんなことは無いわ」
アベルとひと時を共に踊って過ごせる・・・それはフィリアにとっては間違いなく望外の喜びである。
でも、躊躇と恥じらいが首を縦に振ることを許してくれない。
その時だった――演奏のペースが落ち、ゆったりとしたなだらかな曲調に変化した。
それは一定時間ごとに挟まれる間奏であり、疲れたペアが抜け、新しくペアが加わるための小休止。
偶然にも誰かと踊りを始めるのに絶好のタイミングが来てしまった。
ここまで状況が出来上がってしまえば、もうフィリアには逆らいようは無い。
「・・・こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
フィリアはアベルの手を取った。
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