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舞踏会-2
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礼服のアベルと、ドレス姿のフィリアは向かい合った。
フィリアはアベルの肩に左手を置き、アベルの右手をフィリアの左わき腹に添えさせる。
続いてフィリアの右手とアベルの左手が組み合わさった。
フィリアはアベルを優しく押し出しながら、一緒になって移動しダンスの輪の中に入り込む。
「まずは簡単でもいいからステップを踏めればいいの。私に合わせて動いてちょうだい」
「・・・これでいいでしょうか? フィリア様」
「そう、上手よ。その調子・・・」
時に右手を引いてアベルを引き寄せ、時に左手を伸ばしてアベルと共にステップを踏む――この繰り返しで音楽のリズムにのって2人は踊った。
アベルは従順にフィリアの動きに合わせてくれたので、2人の動きは瞬く間に一体となっていった。
楽団の演奏は小休止を終えて徐々にピッチが上がっていくが、フィリアとアベルの一体感は変わらない。
ぎこちなかったアベルの動きは瞬く間に滑らかになっていって、フィリアは内心で舌を巻く。
時間の経過とともに従うばかりだったアベルは徐々に自分から動くことも覚えていった。
そんな時フィリアはそれに逆らわず、アベルを追うように体を動かした。
始めはフィリアがイニシアチブを執っていたいたダンスは、今や2人の相互のやり取りになっていた。
キャッチボールのようにフィリアとアベルの間で目まぐるしく主従が入れ替わる。
アベルがフィリアを動かしたかと思えば、次の瞬間にはアベルがフィリアの意図を読み取って踊っている。
激しく体を動かしながらも、2人の目線は見つめあったまま。
どちらが主導権を持っているのか、最早フィリアには分からない――今この瞬間、2人が言葉で理解するよりも深く通じ合っていることだけが明らかだった。
心臓が高鳴り、頭の中はとろけるような感覚で満ちていく。
(ずっと、この時間が続けばいいのに・・・)
どのくらい時間がたっただろうか・・・音楽は一巡し、再び小休止に入った。
するとアベルは流れの外側へとフィリアを誘導していく。
(アベル・・・どうして?)
間もなく2人はダンスの輪から外れ、壁際へとたどり着いた。
「お顔が真っ赤です、フィリア様。大丈夫ですか?」
フィリアが疑問を発する前に、アベルが心配そうに問いかけた。
「え?」
とっさに両手を頬に当てると熱でもあるのかというほどに熱くなっていた。
「きっと久しぶりに体を動かしたからよ、あはは」
アベルを心配させたくなくて・・・そして内心を悟られたくなくて、笑って誤魔化す。
「・・・では、冷たい飲み物を持ってきましょうか?」
「そうね、お願いするわ」
アベルが足早に給仕のもとに向かい、フィリアは壁にもたれかかると長いため息をついた。
「ふーーっ」
途中でやめてしまったのは残念だったが、フィリアの心は満たされていた。
これまでの人生で感じたことのないほどの充足感でフィリアは天に昇るような心地だった。
「あの、フィリア様」
「ありがとう、アベル・・・」
戻ってきたアベルのすぐ後ろに一目で高位の身分だと分かるフィリアと同年代の貴婦人が立っていた。
少なくとも侯爵以上の家柄の令嬢、お飾りの妃でしかない自分よりも遥かに力がある相手だろう・・・雰囲気や衣装の豪華さからフィリアは瞬時に悟る。
「こちらの御令嬢から踊りに誘われまして・・・行っても大丈夫でしょうか?」
気まずそうなアベルの言葉に、舞い上がっていたフィリアの心は一瞬で地に引きずり落とされた。
『行かないで』
喉元まで出かけた言葉を無理矢理飲み込む。
ここで我が儘を言ってアベルを引き留めてどうなる?
きっとアベルは求めに応じてフィリアの側に留まってくれるだろう。
でも、それは騎士であるアベルに対してやんごとなき令嬢からの求めを無下にするよう強いるということだ・・・それがアベルの今後において不利な事実になることは想像に難くない。
だからフィリアは強がりの笑顔を絞り出した。
「構わないわよ、私は大丈夫だから行ってらっしゃい」
飲み物をアベルから受け取ると、軽く手を振って送り出す。
アベルはフィリアに向かって軽く頭を下げると貴婦人と向かい合い、間もなく踊り始めた。
先ほどまで素人だったのが信じられないほどにスムーズに踊る姿・・・しかし、その相手はフィリアではない。
再び壁の花になったフィリアの胸は言いようのない感情で満たされていく。
目を逸らそうとしても、いつの間にかアベルの姿を追ってしまう――間もなく居たたまれなくなったフィリアは給仕からとびきりアルコール度数の高い酒を受け取って、一息で飲み干すと逃げるように退出した。
フィリアはアベルの肩に左手を置き、アベルの右手をフィリアの左わき腹に添えさせる。
続いてフィリアの右手とアベルの左手が組み合わさった。
フィリアはアベルを優しく押し出しながら、一緒になって移動しダンスの輪の中に入り込む。
「まずは簡単でもいいからステップを踏めればいいの。私に合わせて動いてちょうだい」
「・・・これでいいでしょうか? フィリア様」
「そう、上手よ。その調子・・・」
時に右手を引いてアベルを引き寄せ、時に左手を伸ばしてアベルと共にステップを踏む――この繰り返しで音楽のリズムにのって2人は踊った。
アベルは従順にフィリアの動きに合わせてくれたので、2人の動きは瞬く間に一体となっていった。
楽団の演奏は小休止を終えて徐々にピッチが上がっていくが、フィリアとアベルの一体感は変わらない。
ぎこちなかったアベルの動きは瞬く間に滑らかになっていって、フィリアは内心で舌を巻く。
時間の経過とともに従うばかりだったアベルは徐々に自分から動くことも覚えていった。
そんな時フィリアはそれに逆らわず、アベルを追うように体を動かした。
始めはフィリアがイニシアチブを執っていたいたダンスは、今や2人の相互のやり取りになっていた。
キャッチボールのようにフィリアとアベルの間で目まぐるしく主従が入れ替わる。
アベルがフィリアを動かしたかと思えば、次の瞬間にはアベルがフィリアの意図を読み取って踊っている。
激しく体を動かしながらも、2人の目線は見つめあったまま。
どちらが主導権を持っているのか、最早フィリアには分からない――今この瞬間、2人が言葉で理解するよりも深く通じ合っていることだけが明らかだった。
心臓が高鳴り、頭の中はとろけるような感覚で満ちていく。
(ずっと、この時間が続けばいいのに・・・)
どのくらい時間がたっただろうか・・・音楽は一巡し、再び小休止に入った。
するとアベルは流れの外側へとフィリアを誘導していく。
(アベル・・・どうして?)
間もなく2人はダンスの輪から外れ、壁際へとたどり着いた。
「お顔が真っ赤です、フィリア様。大丈夫ですか?」
フィリアが疑問を発する前に、アベルが心配そうに問いかけた。
「え?」
とっさに両手を頬に当てると熱でもあるのかというほどに熱くなっていた。
「きっと久しぶりに体を動かしたからよ、あはは」
アベルを心配させたくなくて・・・そして内心を悟られたくなくて、笑って誤魔化す。
「・・・では、冷たい飲み物を持ってきましょうか?」
「そうね、お願いするわ」
アベルが足早に給仕のもとに向かい、フィリアは壁にもたれかかると長いため息をついた。
「ふーーっ」
途中でやめてしまったのは残念だったが、フィリアの心は満たされていた。
これまでの人生で感じたことのないほどの充足感でフィリアは天に昇るような心地だった。
「あの、フィリア様」
「ありがとう、アベル・・・」
戻ってきたアベルのすぐ後ろに一目で高位の身分だと分かるフィリアと同年代の貴婦人が立っていた。
少なくとも侯爵以上の家柄の令嬢、お飾りの妃でしかない自分よりも遥かに力がある相手だろう・・・雰囲気や衣装の豪華さからフィリアは瞬時に悟る。
「こちらの御令嬢から踊りに誘われまして・・・行っても大丈夫でしょうか?」
気まずそうなアベルの言葉に、舞い上がっていたフィリアの心は一瞬で地に引きずり落とされた。
『行かないで』
喉元まで出かけた言葉を無理矢理飲み込む。
ここで我が儘を言ってアベルを引き留めてどうなる?
きっとアベルは求めに応じてフィリアの側に留まってくれるだろう。
でも、それは騎士であるアベルに対してやんごとなき令嬢からの求めを無下にするよう強いるということだ・・・それがアベルの今後において不利な事実になることは想像に難くない。
だからフィリアは強がりの笑顔を絞り出した。
「構わないわよ、私は大丈夫だから行ってらっしゃい」
飲み物をアベルから受け取ると、軽く手を振って送り出す。
アベルはフィリアに向かって軽く頭を下げると貴婦人と向かい合い、間もなく踊り始めた。
先ほどまで素人だったのが信じられないほどにスムーズに踊る姿・・・しかし、その相手はフィリアではない。
再び壁の花になったフィリアの胸は言いようのない感情で満たされていく。
目を逸らそうとしても、いつの間にかアベルの姿を追ってしまう――間もなく居たたまれなくなったフィリアは給仕からとびきりアルコール度数の高い酒を受け取って、一息で飲み干すと逃げるように退出した。
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