貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田

文字の大きさ
8 / 24

舞踏会-1

しおりを挟む
寒波が過ぎ去り、一転して例年よりも温かくなった12月上旬。

皇帝が主催する舞踏会が催されることになり、数合わせながらも参加することになったフィリアの姿が宮殿の大広間にあった。

恰好はパレードの時と同じ濃緑のドレスだった。

もっとも、お飾りの側妃に積極的に話しかける物好きはいなかったし、フィリア自身も華やかなイベントを積極的に楽しめる性格ではないので目立たないよう大広間の壁の花になる。

大広間の中、楽団の演奏に合わせて踊る無数の男女のペアが作り出す渦のはずれでフィリアは浮かない表情で立ち続けた。

時折グラスを傾けてアルコールを喉に流し込みながら、何を考えるでもなくボウッとして時間が過ぎるのを待つ。

何気なく視線をさまよわせていると、入り口から誰かが入ってくるのが見えた。

「・・・アベル」

思わず、その名が口からこぼれ出ていた。

今夜は騎士ではなく舞踏会の参加者の1人として来ているらしく、普段の鎧姿ではなく青色を基調にした礼服を着ていた。

真夏の青空を思わせるような青は、アベルにとても似合っている。


不意に周囲を見渡していたアベルの視線とフィリアの視線とが重なった。

アベルはフィリアを見据えると、まっすぐに歩いきた。

思わずフィリアは後ずさりをしそうになるが後ろは壁。

「こんばんはフィリア様。今はお1人ですか?」

「ええ・・・そうよ」

先日アベルへの恋心を自覚してしまったフィリアの言葉は以前よりもぎこちない。

そんなフィリアの内心に気づかずに、アベルは距離を詰めるとフィリアの左手に立った。

アベルとの接近に比例してフィリアの心拍数が上がる。

「踊りには行かないの?」

「俺、ダンスはからっきしでして・・・」

アベルはやや恥ずかしそうにしながら、フィリアの問に答えた。

「・・・そう」

何か気を紛らわせるような会話がしたいフィリアだったが、いい話題が思いつかず口調は尻すぼみになってしまった。

「フィリア様もダンスは苦手なんですか?」

「そういうわけではないけど・・・何せ相手がいないから」

アベルは少し考え込むような表情をすると、片手をこちらに差し出してきた。

「では、一曲お相手願えませんか?」

そう言ってアベルはフィリアに手を差し出してきた。

「え、ええ?」

目を見開いたフィリアは困惑を隠せない。

「よろしければダンスのやり方を教えていただけないかと思いまして・・・俺では、お気に召さないでしょうか?」

「いえ・・・そんなことは無いわ」

アベルとひと時を共に踊って過ごせる・・・それはフィリアにとっては間違いなく望外の喜びである。

でも、躊躇と恥じらいが首を縦に振ることを許してくれない。


その時だった――演奏のペースが落ち、ゆったりとしたなだらかな曲調に変化した。

それは一定時間ごとに挟まれる間奏であり、疲れたペアが抜け、新しくペアが加わるための小休止インターバル


偶然にも誰かと踊りを始めるのに絶好のタイミングが来てしまった。

ここまで状況が出来上がってしまえば、もうフィリアには逆らいようは無い。

「・・・こちらこそ、よろしくお願いしますわ」

フィリアはアベルの手を取った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

卒業の日、秘密の恋は終わった――はずだった。伯爵令嬢メルローズの初恋

恋せよ恋
恋愛
メルローズは、真面目で不器用な伯爵家の跡取り娘。 想いを告げた相手は、美貌と悪名を併せ持つ侯爵令息アデルだった。 告白を受け入れた彼の条件は、 「他の女の子とも遊ぶけどいいよね?」 ――ならば、とメルローズも条件を出す。 「私たちが付き合っていることは、誰にも言わない。秘密の付き合いで」 こうして始まった、誰にも知られない恋人関係。 学園で過ごした三年間。 身体はつながっても、心はすれ違ったままだった。 卒業を機に、メルローズは初恋に終止符を打ち、新たな一歩を踏み出した……はずだった。 けれど―― 彼女の恋の行方は? 義姉への初恋を拗らせ続けたアデルは、何を選ぶのか。 秘密から始まった恋の、切なくも歪な結末。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

英雄たちのその後は?

しゃもん
恋愛
騎士と聖女と王子は喜々として、庶民は嫌々ながらも協力して魔王を討伐しました。討伐し終わった四人の英雄のうち聖女と王子は結婚し騎士はそのまま王族に仕え、庶民はやっと三人と離れて念願の市井で商売をしています。そんな英雄たちのその後のお話です。

王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。 ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。 クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は 否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは 困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

伯爵令嬢の恋

アズやっこ
恋愛
落ち目の伯爵家の令嬢、それが私。 お兄様が伯爵家を継ぎ、私をどこかへ嫁がせようとお父様は必死になってる。 こんな落ち目伯爵家の令嬢を欲しがる家がどこにあるのよ! お父様が持ってくる縁談は問題ありの人ばかり…。だから今迄婚約者もいないのよ?分かってる? 私は私で探すから他っておいて!

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...