貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田

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約束

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舞踏会の翌日。太陽が地平線に近づき、でもまだ日没には早い時間帯。

ベッドに腰かけていたフィリアは来訪者を告げるノックの音に立ち上がった。

何度となく来てくれた相手だから、いつの間にかノックの音で他の人達と区別できるようになってしまっている。

浮足立つ心を静めながら、扉を開けた。

「こんにちはフィリア様、今お時間よろしいですか?」

予想通り。そこには金髪の少年騎士アベルが立っていた。手には何やら皮の袋を下げている。

「ええ、もちろんよ。入ってちょうだい」

できる限りの上品な笑顔を浮かべながらアベルを招き入れて、たった1つの椅子に座らせる。

「それで、今日はどうしたのかしら?」

ベッドに腰かけアベルに問いかけた。少しでも長く話ができるような要件ならいいのに、と思いながら。

「フィリア様に改めて昨日の舞踏会でダンスを教えていただいた礼を言っておきたくて来ました」

「そんな、大したことじゃないわよ」

「いえ、本当に感謝してるんです。なかなかダンスを覚える機会がなくて、舞踏会に呼ばれるたびに憂鬱だったんですけど、フィリア様が手取り足取り教えてれたおかげで、これからは何とかやっていけそうです」

満面の笑みとともにかけられるアベルの感謝の言葉に胸がキュンとなる。

「そ、それはよかったわ。それにしても意外だったわ。騎士だからてっきり体を動かすのは得意だと思っていたのだけれど」

「ああ、俺はそもそも貴族の生まれですらないんです。ですからダンスなんて習ったことも無くて・・・」

「あら、そうなの?」

てっきり相当な貴族の子息だと思っていたフィリアは軽く驚く。

「ええ、元は田舎の男爵家の使用人の息子だったんです。戦場で味方が全滅してしまって、1人でさまよっていたところを巡回していた皇帝陛下に拾われまして・・・3年前のことです。以来、気に入っていただいて騎士見習いとしてお側に置いてもらっています」

「・・・ごめんなさい。辛い思い出を話させてしまったわよね」

「いえ、そんな!」

謝罪を笑顔で受け流したアベルは、話題を切り替える。


2人で他愛のないお喋りをするうちに時は経過していった。

「それじゃあ、俺はそろそろお暇しますね」

ふと窓の外をみたアベルが腰を上げる。

いつのまにか夕日が半分以上沈んでいた。

「そ、そういえばアベル、その革袋は何かしら?」

まだ会話を終わらせたくなかったフィリアはとっさにアベルの持ち物を指さし質問した。

「ああ、これですか? 今年醸造された葡萄酒ですよ。フィリア様ももらったでしょう?」

そう言うとアベルは革袋の中身を出して見せた。

濃い色のガラス瓶の中では赤色の液体が揺れていた。

「・・・え? 何のことかしら?」

葡萄酒なんてもらった覚えがなかった。

すると、アベルが怪訝そうに眉をひそめた。

「えっと・・・我が国の風習で年の最後の晩に、その年に収穫されたブドウで造られた葡萄酒を飲んで新年を祝うんです。宮殿では皇帝陛下から全員に葡萄酒が1ビン贈られるんですが・・・もしかしてフィリア様には届いていないんですか?」

「・・・」

始めて聞いた話にフィリアは言葉が出せず、沈黙で返してしまった。

哀れみとも同情ともつかないアベルの青い瞳がじっと私を見つめてくる。

「気にしないでちょうだい、私は元々この国の人間ではないから、葡萄酒なんて無くたって年は越せるから・・・」

いたたまれなくなってアベルの視線から隠すように顔を伏せたフィリアはせめてもの強がりを言ってみせた。

「フィリア様・・・」

アベルは何か言おうとしたようだけど、口ごもってしまった。


そのまま2人とも言葉を発することができなくなって、気まずい沈黙が帳をおろした。



「あの、フィリア様・・・」

沈黙を破ったのはアベルだった。

「フィリア様。よかったら年の終わりの夜、俺と一緒にこれを飲みませんか?」

「え?」

顔を上げるとアベルが葡萄酒のビンをかざしていた。

「でも、あなた、騎士としての用事とかがあるんじゃないの?」

「確かに騎士団の年越しの宴はありますけど、みんなグデングデンに酔っぱらっちゃいますから1人くらい抜けても誰も気にはしないはずです」

「でも、いいの? せっかくの年末に私なんかと一緒で・・・」

「フィリア様とでしたら、喜んで!」

屈託のない笑顔と言葉にフィリアの頬が熱くなる。

年末の夜に会う約束をすると、アベルは去っていった。

(年の最後の晩もアベルとグラスを交わして過ごせるなんて・・・!)

考えるだけでフィリアの表情は緩んでしまう。

それから年末まで日を追うごとにフィリアの胸は高鳴っていった。
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