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知ってしまう
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あっという間に日は過ぎて行って、年の最後の日を迎えた。
何度目だろうか。夜空を見上げると天頂近くまで登った月がフィリアを見下ろしている。
もう真夜中も近い。
けれどもアベルが来る気配はなかった。
「まさか忘れられちゃった、とか・・・?」
アベルに限って約束を反故にすることは無いだろうと思いつつも、フィリアは不安を漏らさずにはいられなかった。
「いっそのこと、こっちから探しに行っちゃおうかしら・・・」
扉をあけて顔を出すけど、人気のない暗い廊下しか見えない。
意を決してフィリアは部屋の外へと踏み出した。
嫁いできてから半年以上たつけど、出歩くことがないものだから未だに宮殿の地理には疎い。
そもそも今現在アベルが宮殿にいる保証もない。
それでもフィリアは探し求めずにはいられなかった。この宮殿でたった1人、心からの笑顔を向けてくれた相手のことを――。
年末の、夜も遅い時間ということもあって人と出くわすことはなかった。
静かな宮殿にフィリアの靴音が微かに響く。
どれくらい歩いたろうか、いくつかの通路が交わる小さな広間のような空間の近くにたどりつく。
すると、聞き覚えのある声がした。
「陛下・・・陛下! 起きてください、廊下なんかで寝たら風邪ひいちゃいますよ!」
そこにいたのはアベルとサドゥーク皇帝だった。
とっさにフィリアは物陰に身を隠し、2人の様子をうかがった。
真っ赤な顔をしてへたりこんでいる皇帝をアベルが立たせようとしている。
アルコールの匂いがフィリアの鼻腔をくすぐった。
「うりゅさいぞ、我は眠いのりゃ! 皇帝にょ眠りを邪魔をしゅるな、アベル!」
「陛下、寝るなら寝室でお願いします! ほら肩を貸しますから行きますよ!」
床に寝ころんだ皇帝をアベルがなだめすかしている。
駄々をこねる皇帝と素面のアベルを見比べると、どっちが大人なのか分からなくなりそうだった。
(そういうことだったのね・・・)
アベルが来れなかった理由を理解したフィリアは微笑んだ。
皇帝の相手なら仕方ない。
先ほどまでの不安は消え、年末に酔っ払いの相手をしなければならないアベルへの同情をフィリアは感じた。
(偶然を装って出て行って、アベルを手伝ってあげることにしましょう)
仮にも成人男性である皇帝を1人で運ぶのは大変だろうと判断し、フィリアはアベルを助けることにした。
気の利いた挨拶を考えつつ、物陰から出ようとした・・・その時、聞き捨てならないセリフを皇帝が放った。
「そういえばアベルぅぅ。お前、いつになったらフィリアを篭絡できるのだぁ?」
ろうらく――篭絡ですって? どういうこと?
2人の声を聞き逃すまいとフィリアは両耳に全神経を集中させた。
「おみゃあにフィリアを落とせと言ってきゃら半年以上たちゅが、まぁだ乳のひとつも揉めておらぬのかぁ?」
「恐れながら陛下・・・以前も言いましたがフィリア様は仮にも一国の王女で、陛下の側妃です。年下で身分も低い俺なんかに惚れるだなんてあり得ませんよ・・・」
「だぁから分かっておらにゅというのら! 舞踏会の時におみゃあとフィリアが踊ってりゅのを見かけちゃが、フィリアがお前を見る目はまひがいなく恋する女の目だったぢょぅ!」
ろれつが回っていない皇帝の言葉だけど、言ってることはよく分かった。
「前にみょ言ったがなぁ、女というのはな、ちょっと特別あちゅかいされれびゃ、すぐに惚れてしみゃう生き物なのら。だぁからお前には、フィリアのことをとくべちゅ気に掛けてやるように命じたのらぞぉ」
もう聞かない方がいい――フィリアはそう思ったが、どうしてか耳をふさぐことができない。
「もう何度も言っへるがなぁ、とっととフィリアを誘ってぇ、いっぱちゅヤってしまえぇ。ほうしたら、浮気のきせいじじちゅができて、あいつの国に遠慮なく攻めこめりゅ」
「・・・努力します」
全身から力が抜けてフィリアは崩れ落ちそうになった。
まさか、アベルの優しさが仕組まれていたことだったなんて――。
(最初から私は踊らされていたっていうの・・・!?)
思い返せば、出会った当初から、やけにアベルは甲斐甲斐しかった。
いつのまにか疑問にも思わなくなっていたけど、単に皇帝の騎士とお飾りの王妃という2人の関係にしては異常なまでにアベルはフィリアに対して踏み込んできた・・・アベルが優しいからだと思い込んでしまっていたけど、ここにきて、その裏にあったものを知ってしまった。
(ダメよ、まだ、へたりこんじゃ駄目・・・せめて部屋まで戻らないと・・・)
その場で靴を脱いで手に持ったフィリアは、足音をさせないように、しかし可能な限りの速さで逃げ出した。
皇帝もアベルも、結局フィリアの存在に気づくことはなかった。
何度目だろうか。夜空を見上げると天頂近くまで登った月がフィリアを見下ろしている。
もう真夜中も近い。
けれどもアベルが来る気配はなかった。
「まさか忘れられちゃった、とか・・・?」
アベルに限って約束を反故にすることは無いだろうと思いつつも、フィリアは不安を漏らさずにはいられなかった。
「いっそのこと、こっちから探しに行っちゃおうかしら・・・」
扉をあけて顔を出すけど、人気のない暗い廊下しか見えない。
意を決してフィリアは部屋の外へと踏み出した。
嫁いできてから半年以上たつけど、出歩くことがないものだから未だに宮殿の地理には疎い。
そもそも今現在アベルが宮殿にいる保証もない。
それでもフィリアは探し求めずにはいられなかった。この宮殿でたった1人、心からの笑顔を向けてくれた相手のことを――。
年末の、夜も遅い時間ということもあって人と出くわすことはなかった。
静かな宮殿にフィリアの靴音が微かに響く。
どれくらい歩いたろうか、いくつかの通路が交わる小さな広間のような空間の近くにたどりつく。
すると、聞き覚えのある声がした。
「陛下・・・陛下! 起きてください、廊下なんかで寝たら風邪ひいちゃいますよ!」
そこにいたのはアベルとサドゥーク皇帝だった。
とっさにフィリアは物陰に身を隠し、2人の様子をうかがった。
真っ赤な顔をしてへたりこんでいる皇帝をアベルが立たせようとしている。
アルコールの匂いがフィリアの鼻腔をくすぐった。
「うりゅさいぞ、我は眠いのりゃ! 皇帝にょ眠りを邪魔をしゅるな、アベル!」
「陛下、寝るなら寝室でお願いします! ほら肩を貸しますから行きますよ!」
床に寝ころんだ皇帝をアベルがなだめすかしている。
駄々をこねる皇帝と素面のアベルを見比べると、どっちが大人なのか分からなくなりそうだった。
(そういうことだったのね・・・)
アベルが来れなかった理由を理解したフィリアは微笑んだ。
皇帝の相手なら仕方ない。
先ほどまでの不安は消え、年末に酔っ払いの相手をしなければならないアベルへの同情をフィリアは感じた。
(偶然を装って出て行って、アベルを手伝ってあげることにしましょう)
仮にも成人男性である皇帝を1人で運ぶのは大変だろうと判断し、フィリアはアベルを助けることにした。
気の利いた挨拶を考えつつ、物陰から出ようとした・・・その時、聞き捨てならないセリフを皇帝が放った。
「そういえばアベルぅぅ。お前、いつになったらフィリアを篭絡できるのだぁ?」
ろうらく――篭絡ですって? どういうこと?
2人の声を聞き逃すまいとフィリアは両耳に全神経を集中させた。
「おみゃあにフィリアを落とせと言ってきゃら半年以上たちゅが、まぁだ乳のひとつも揉めておらぬのかぁ?」
「恐れながら陛下・・・以前も言いましたがフィリア様は仮にも一国の王女で、陛下の側妃です。年下で身分も低い俺なんかに惚れるだなんてあり得ませんよ・・・」
「だぁから分かっておらにゅというのら! 舞踏会の時におみゃあとフィリアが踊ってりゅのを見かけちゃが、フィリアがお前を見る目はまひがいなく恋する女の目だったぢょぅ!」
ろれつが回っていない皇帝の言葉だけど、言ってることはよく分かった。
「前にみょ言ったがなぁ、女というのはな、ちょっと特別あちゅかいされれびゃ、すぐに惚れてしみゃう生き物なのら。だぁからお前には、フィリアのことをとくべちゅ気に掛けてやるように命じたのらぞぉ」
もう聞かない方がいい――フィリアはそう思ったが、どうしてか耳をふさぐことができない。
「もう何度も言っへるがなぁ、とっととフィリアを誘ってぇ、いっぱちゅヤってしまえぇ。ほうしたら、浮気のきせいじじちゅができて、あいつの国に遠慮なく攻めこめりゅ」
「・・・努力します」
全身から力が抜けてフィリアは崩れ落ちそうになった。
まさか、アベルの優しさが仕組まれていたことだったなんて――。
(最初から私は踊らされていたっていうの・・・!?)
思い返せば、出会った当初から、やけにアベルは甲斐甲斐しかった。
いつのまにか疑問にも思わなくなっていたけど、単に皇帝の騎士とお飾りの王妃という2人の関係にしては異常なまでにアベルはフィリアに対して踏み込んできた・・・アベルが優しいからだと思い込んでしまっていたけど、ここにきて、その裏にあったものを知ってしまった。
(ダメよ、まだ、へたりこんじゃ駄目・・・せめて部屋まで戻らないと・・・)
その場で靴を脱いで手に持ったフィリアは、足音をさせないように、しかし可能な限りの速さで逃げ出した。
皇帝もアベルも、結局フィリアの存在に気づくことはなかった。
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