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アベル、戦場にて-2
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「フィリア様。お荷物、持たせていただきます」
モールド王国の馬車から現れたフィリアに手を差し出しながら、アベルはこれから自身が篭絡する相手を観察した。
(フィリア様・・・綺麗な女性だな)
正直な感想だった。そして同時に別の印象も覚えていた。
(何というか儚げっていうのかな・・・下手に触れたら壊れてしまいそうな感じだ)
アベルの知る限り王侯貴族の類というのは自尊心に満ち満ちた良くも悪くも唯我独尊な人間達だ。
しかし、目の前にいる女性は、何故か怯えているように見えた。
周囲をさりげなく警戒するようなフィリアの雰囲気にアベルは今後を心配する。
(あくまで1人の騎士見習いでしかない俺が、皇帝陛下の命令どおりにフィリア様をロウラクするなんて出来るだろうか・・・)
フィリアを乗せた馬車に並走しながらアベルは心の中でつぶやいた。篭絡するということの意味も知らぬまま。
優しくして気に入られると言っても早々うまくフィリアに接する機会に出会えるとは思えない・・・そんなアベルの懸念は早々に悪い意味で杞憂だったと判明する。
拡大路線をとるサドゥーク帝国の宮殿は上昇志向に満ちていて、それ故に弱い立場にいる者を顧みない雰囲気ができあがっていた。
能力・権力・地位のある者を褒めそやす一方で、日陰者を平然と見捨てる場所だった。
厨房の料理人は王侯貴族の美食家たちの目に留まりたい一心で人質同然の側妃の食事を用意することなどすぐに忘れるようになってしまったし、使用人たちはより権威のある者たちに気に入られるために奔走しフィリアへの最低限の連絡すら欠かす有様だった。
アベルはフィリアに関わる使用人たちと言葉を交わし、折を見てフィリアの様子を見に行けばよかった。
それだけでアベルはフィリアが困りごとに直面したタイミングで颯爽と登場し、フィリアを手助けすることで信頼を積み上げることができた。
時間の経過とともにアベルとフィリアの距離は順調に縮まっていった。
数か月もすれば用事がないのにアベルが部屋を訪れても、フィリアは自然と彼を中に招きいれるになっていた。
それは一介の騎士と皇帝の側妃としては、あまりにも近しい関係。
一方アベルも予期せぬ感情を抱きつつあった。
会うたびに心を開き、表情が柔らかくなっていくフィリアと出会うのが楽しみになってしまった。
あくまでロウラクのためでしかなかった優しさが本心からの行動になっている。
それだけならまだいい。
いつの間にかアベルの中でフィリアを他の女性よりも特別な存在になっていた。
はっきり自覚したのは舞踏会でのこと。
フィリアのために飲み物を取りに行ったアベルは見知らぬ女性からダンスに誘われた。
体が空いている以上は騎士として明確な理由もないのに貴婦人からの誘いを拒むこともできない。
「こちらの御令嬢から踊りに誘われまして・・・行っても大丈夫でしょうか?」
「構わないわよ、私は大丈夫だから行ってらっしゃい」
フィリアに確認をとると一瞬拒絶するような表情ののち普段の笑顔になったフィリアは了承してくれた。
アベルは後ろ髪をひかれながらも見知らぬ相手と一時ダンスをした。
それは実に無機質な時間だった。
先ほどフィリアと踊ったときは心から楽しんでいたのに、見知らぬ相手との踊りはまるで作業のように空虚に感じる。
舞踏会の後、その理由を考え、そして理解したアベルは頭を抱えそうになった。
(俺・・・フィリア様に恋しちゃってるんだ)
こうして恋心を自覚したものの、アベルは今以上に深い関係になることを望まなかった。
皇帝の騎士としての立場と1人の恋した男としての想いを両立するには親愛とも恋愛ともつかない曖昧な今の状態が1番だと感じたからだった。
(陛下にロウラクの進捗を尋ねられても適当に誤魔化そう。そして、この心地よい関係をずっと続けていければいい・・・)
そう願っていた。
しかし、それは叶わなかった。
未だにはっきりとアベルの脳裏にこびりついている。
冷たい笑みとともに放たれたフィリアの言葉。
「私、知ってるのよ。あなたが皇帝陛下の命令で私を篭絡させようとしてたってこと」
安穏とした間柄は唐突に断ち切られることになった。
モールド王国の馬車から現れたフィリアに手を差し出しながら、アベルはこれから自身が篭絡する相手を観察した。
(フィリア様・・・綺麗な女性だな)
正直な感想だった。そして同時に別の印象も覚えていた。
(何というか儚げっていうのかな・・・下手に触れたら壊れてしまいそうな感じだ)
アベルの知る限り王侯貴族の類というのは自尊心に満ち満ちた良くも悪くも唯我独尊な人間達だ。
しかし、目の前にいる女性は、何故か怯えているように見えた。
周囲をさりげなく警戒するようなフィリアの雰囲気にアベルは今後を心配する。
(あくまで1人の騎士見習いでしかない俺が、皇帝陛下の命令どおりにフィリア様をロウラクするなんて出来るだろうか・・・)
フィリアを乗せた馬車に並走しながらアベルは心の中でつぶやいた。篭絡するということの意味も知らぬまま。
優しくして気に入られると言っても早々うまくフィリアに接する機会に出会えるとは思えない・・・そんなアベルの懸念は早々に悪い意味で杞憂だったと判明する。
拡大路線をとるサドゥーク帝国の宮殿は上昇志向に満ちていて、それ故に弱い立場にいる者を顧みない雰囲気ができあがっていた。
能力・権力・地位のある者を褒めそやす一方で、日陰者を平然と見捨てる場所だった。
厨房の料理人は王侯貴族の美食家たちの目に留まりたい一心で人質同然の側妃の食事を用意することなどすぐに忘れるようになってしまったし、使用人たちはより権威のある者たちに気に入られるために奔走しフィリアへの最低限の連絡すら欠かす有様だった。
アベルはフィリアに関わる使用人たちと言葉を交わし、折を見てフィリアの様子を見に行けばよかった。
それだけでアベルはフィリアが困りごとに直面したタイミングで颯爽と登場し、フィリアを手助けすることで信頼を積み上げることができた。
時間の経過とともにアベルとフィリアの距離は順調に縮まっていった。
数か月もすれば用事がないのにアベルが部屋を訪れても、フィリアは自然と彼を中に招きいれるになっていた。
それは一介の騎士と皇帝の側妃としては、あまりにも近しい関係。
一方アベルも予期せぬ感情を抱きつつあった。
会うたびに心を開き、表情が柔らかくなっていくフィリアと出会うのが楽しみになってしまった。
あくまでロウラクのためでしかなかった優しさが本心からの行動になっている。
それだけならまだいい。
いつの間にかアベルの中でフィリアを他の女性よりも特別な存在になっていた。
はっきり自覚したのは舞踏会でのこと。
フィリアのために飲み物を取りに行ったアベルは見知らぬ女性からダンスに誘われた。
体が空いている以上は騎士として明確な理由もないのに貴婦人からの誘いを拒むこともできない。
「こちらの御令嬢から踊りに誘われまして・・・行っても大丈夫でしょうか?」
「構わないわよ、私は大丈夫だから行ってらっしゃい」
フィリアに確認をとると一瞬拒絶するような表情ののち普段の笑顔になったフィリアは了承してくれた。
アベルは後ろ髪をひかれながらも見知らぬ相手と一時ダンスをした。
それは実に無機質な時間だった。
先ほどフィリアと踊ったときは心から楽しんでいたのに、見知らぬ相手との踊りはまるで作業のように空虚に感じる。
舞踏会の後、その理由を考え、そして理解したアベルは頭を抱えそうになった。
(俺・・・フィリア様に恋しちゃってるんだ)
こうして恋心を自覚したものの、アベルは今以上に深い関係になることを望まなかった。
皇帝の騎士としての立場と1人の恋した男としての想いを両立するには親愛とも恋愛ともつかない曖昧な今の状態が1番だと感じたからだった。
(陛下にロウラクの進捗を尋ねられても適当に誤魔化そう。そして、この心地よい関係をずっと続けていければいい・・・)
そう願っていた。
しかし、それは叶わなかった。
未だにはっきりとアベルの脳裏にこびりついている。
冷たい笑みとともに放たれたフィリアの言葉。
「私、知ってるのよ。あなたが皇帝陛下の命令で私を篭絡させようとしてたってこと」
安穏とした間柄は唐突に断ち切られることになった。
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