貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田

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アベル、戦場にて-3

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「私、知ってるのよ。あなたが皇帝陛下の命令で私を篭絡させようとしてたってこと」

その言葉にアベルは頭が真っ白になった。

(なぜ? どうしてフィリア様が・・・どうしてロウラクのことを知ってるんだ・・・?)

「フィリアを籠絡せよ」という命令はアベルが皇帝と2人きりでいた時に発せられたもの。

他人が・・・それもフィリアが知る由など無いはずなのに。

一方フィリアの表情はいつの間にか、冷たく恐ろしいものに変貌していた。

それはさながら絵物語に出てくる魔女か泣き女バンシーのよう。

凍りつくようなかんばせの中で激情をたたえた双眸が炎のように燃えている。

(――――犯される)

尻もちをつき、フィリアに覆いかぶさられたアベルは何故かそう確信した。

自分は男で、相手は女だというのに、フィリアの静かな気迫にアベルは完全に圧倒されていた。


それにしても、その後の行動はアベル自身本当に酷かったと思う。何度思い出しても自己嫌悪が沸き上がるほどに酷い。

「キャアッ!?」

気づくとアベルの右手はフィリアを突き飛ばしていた。

軽く浮いたフィリアの体は、そのまま後ろ向きに倒れこむ。

(俺、なんてことを・・・フィリア様・・・一体どうすれば・・・?!)

恐怖と驚愕と罪悪感に呑まれて、アベルは言葉を失った。

謝罪すればいいのか、弁解すればいいのか、それとも別の何かをするべきなのか。

混乱を極めたアベルが選択したのは遁走だった。

体をしたたかに打ったフィリアを置いて走り去る。

これではいけない・・・そう思いながらも逃げる足を止められなかった。


自室に帰ったアベルは寝床に飛び込んだ。

深呼吸を繰り返して気持ちが落ち着いてくると、改めてフィリアとのやりとりが思い返された。


何度も反芻するなかでアベルは少しずつフィリアの言動の真意を紐解いていく。


恐ろしかった表情は怒りの表出であると同時に心を傷つけられたことの裏返しだと。

秘部をさすり、唇を寄せてきたのは、自らの貞淑すらどうでもよく思わせるほどに失望させてしまったからなのだと。


そしてアベルからの裏切りによってフィリアは著しく傷心した―――それはつまりフィリアもまたアベルに心を寄せてくれていたということ。

(ああ、そうか。ロウラクって・・・篭絡するってこういうことか・・・俺はフィリア様の心を弄んでしまったのか)

ようやくアベルは篭絡という言葉の意味を真に理解した。

己の過ちに歯ぎしりしながらアベルは年明けの夜をすごした。


寝不足のまま新年最初の朝を迎えたアベルであったが、これからどうすればいいのかについては検討もつかなかった。


そもそも単にフィリアとアベルの関係だけでは終わらない話なのだ。

皇帝がフィリアの不義を口実にモールド王国に攻め込もうとしている以上は、アベルがフィリアを篭絡しなければ、皇帝は遅かれ早かれ何か別の策を繰り出すだろう。

それに皇帝の意思に背くのは、騎士であるアベルの望むところではない。

アベルの思考は完全に袋小路に入ってしまう。


答えのでない問に悶々としながら2日を過ごすも、何も進展せずに終わってしまった。


そして新年3日目。


この日、アベルに2つの知らせが入った。

1つは北方で大規模な反乱が起こったこと。

そして、もう1つはフィリアが食事も水も断ってしまったことだった。
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