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アベル、戦場にて-4
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新年3日目のこと、アベルは他の騎士たちともに帝国軍の関係者たちに埋め尽くされた宮殿の大広間にいた。
その場の全員が一方向を見つめて直立不動の姿勢だった。
皆の視線の先にはサドゥーク皇帝が演説台の上に立っている。
「既に諸君らも聞き及んでいるかもしれんが、年明け早々に北方辺境伯が愚かにも我が帝国に反旗を翻した! これは由々しき事態であり、何としても・・・」
アベルも皇帝に視線を向けながらも、心は他所にあった。
大広間へと向かう途中で女中たちが話しているのを聞いてしまったからだ。
『フィリア様、閉じこもっちゃって食事も何も一切受け付けないのよ~』
その場で女中を問い詰めるも、部屋の中からの応答が一切ないということしか分からなかった。
そして、そうなってしまったのは年が明けてから・・・間違いなく原因は自分だとアベルは確信する。
「・・・であるからして、この戦は極めて重大なものであり手柄を挙げたものには、相応の報奨をもって報いよう!」
皇帝の声にアベルが目を見開いた。
(ああ、そうか・・・その手があったか)
アベルは気づいてしまった。騎士としての忠義とフィリアへの想いを両立しうる方法に。
その瞬間、アベルの瞳にこれまでにない覇気が宿ったのだった。
皇帝の長い演説が終わった後、厨房に頼んで消化の良い麦粥を作ってもらってフィリアの部屋に向かう。
鍵がかかっていたのを蹴破って無理矢理踏み込んだ。
やせ細ったフィリアの姿は衝撃だった。
元々ほっそりとした体形だったが、数日見ない間に病的なまでに肉が落ちていた。
拒むフィリアに対して無理矢理に食事と水を摂らせる。
ここで自分の目論見を伝えておくべきか迷ったが、あえて曖昧に仄めかすだけに留めることにした。
都合よく事を成し遂げられるとは限らないし、そもそも生きて帰れる保証だってない。
「戻ってきたときには必ず貴女を迎えにここに来ます・・・ですから、それまでご健勝でいてください。どうか、お願いします」
それはアベルにとっては誓いに等しい言葉だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヒュン!! と頬をかすめた矢の風切り音がアベルを回想から現実の戦場へと引き戻した。
すでに敵の防衛線ははるか後方に抜き去り、ここは敵陣奥深く。
剣や槍を持った兵士よりも衛生兵や伝令兵の姿の方がはるかに多い。
もはやアベルを止められる者はいなかった。
(ここからどうする・・・誰を狙えばいい?)
周囲を見渡したアベルの両目がやたら豪華な兜をかぶった小太りの男を捉えた。
周囲に控える参謀らしき書類を抱えた人物に慌てた様子で指示を出している。
(あれが敵将か!)
標的を定めたアベルは鞍を蹴り、さらに馬を加速させた。
驚く敵兵たちの隙間を縫い、風のように突き進む。
雑兵に用は無い。狙うはただ敵の大将のみ。
「その首・・・頂戴する!」
両手で剣の柄を強く握りしめて、白く輝く鋼が一閃。
滑らかに斬り開かれる肉の感触と首の骨を砕く感触。
ドンッ
くぐもった質感の音とともに首が地に落ちた。
アベルは馬上で身をかがめて剣先で首を突き刺し高々と掲げた。
途端に周囲は蜂の巣をついたような狂騒に陥った。
反乱軍の兵士たちが混乱し我先にと遁走していく。
10秒ほどしてから追いついてきた帝国軍の騎士たちが喜びの声をあげながらアベルを取り囲んだ。
「よくやったぞアベル!」
「すげえな、お前!」
騎士たちが口々にアベルをもてはやす。
しかし、アベルの顔はまだ晴れない。
(フィリア様・・・もう少しだけお待ちください)
味方の歓声に包まれながらも心晴れないアベルは愛する女性に心の中で呼びかけた。
その場の全員が一方向を見つめて直立不動の姿勢だった。
皆の視線の先にはサドゥーク皇帝が演説台の上に立っている。
「既に諸君らも聞き及んでいるかもしれんが、年明け早々に北方辺境伯が愚かにも我が帝国に反旗を翻した! これは由々しき事態であり、何としても・・・」
アベルも皇帝に視線を向けながらも、心は他所にあった。
大広間へと向かう途中で女中たちが話しているのを聞いてしまったからだ。
『フィリア様、閉じこもっちゃって食事も何も一切受け付けないのよ~』
その場で女中を問い詰めるも、部屋の中からの応答が一切ないということしか分からなかった。
そして、そうなってしまったのは年が明けてから・・・間違いなく原因は自分だとアベルは確信する。
「・・・であるからして、この戦は極めて重大なものであり手柄を挙げたものには、相応の報奨をもって報いよう!」
皇帝の声にアベルが目を見開いた。
(ああ、そうか・・・その手があったか)
アベルは気づいてしまった。騎士としての忠義とフィリアへの想いを両立しうる方法に。
その瞬間、アベルの瞳にこれまでにない覇気が宿ったのだった。
皇帝の長い演説が終わった後、厨房に頼んで消化の良い麦粥を作ってもらってフィリアの部屋に向かう。
鍵がかかっていたのを蹴破って無理矢理踏み込んだ。
やせ細ったフィリアの姿は衝撃だった。
元々ほっそりとした体形だったが、数日見ない間に病的なまでに肉が落ちていた。
拒むフィリアに対して無理矢理に食事と水を摂らせる。
ここで自分の目論見を伝えておくべきか迷ったが、あえて曖昧に仄めかすだけに留めることにした。
都合よく事を成し遂げられるとは限らないし、そもそも生きて帰れる保証だってない。
「戻ってきたときには必ず貴女を迎えにここに来ます・・・ですから、それまでご健勝でいてください。どうか、お願いします」
それはアベルにとっては誓いに等しい言葉だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヒュン!! と頬をかすめた矢の風切り音がアベルを回想から現実の戦場へと引き戻した。
すでに敵の防衛線ははるか後方に抜き去り、ここは敵陣奥深く。
剣や槍を持った兵士よりも衛生兵や伝令兵の姿の方がはるかに多い。
もはやアベルを止められる者はいなかった。
(ここからどうする・・・誰を狙えばいい?)
周囲を見渡したアベルの両目がやたら豪華な兜をかぶった小太りの男を捉えた。
周囲に控える参謀らしき書類を抱えた人物に慌てた様子で指示を出している。
(あれが敵将か!)
標的を定めたアベルは鞍を蹴り、さらに馬を加速させた。
驚く敵兵たちの隙間を縫い、風のように突き進む。
雑兵に用は無い。狙うはただ敵の大将のみ。
「その首・・・頂戴する!」
両手で剣の柄を強く握りしめて、白く輝く鋼が一閃。
滑らかに斬り開かれる肉の感触と首の骨を砕く感触。
ドンッ
くぐもった質感の音とともに首が地に落ちた。
アベルは馬上で身をかがめて剣先で首を突き刺し高々と掲げた。
途端に周囲は蜂の巣をついたような狂騒に陥った。
反乱軍の兵士たちが混乱し我先にと遁走していく。
10秒ほどしてから追いついてきた帝国軍の騎士たちが喜びの声をあげながらアベルを取り囲んだ。
「よくやったぞアベル!」
「すげえな、お前!」
騎士たちが口々にアベルをもてはやす。
しかし、アベルの顔はまだ晴れない。
(フィリア様・・・もう少しだけお待ちください)
味方の歓声に包まれながらも心晴れないアベルは愛する女性に心の中で呼びかけた。
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