貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田

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アベル、戦場にて

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舞台は戦場、季節は真冬の2月。雪が舞う北方の地。

しかし、今や大地の色彩は降り積もった雪の白よりも血の赤色と土煙の茶色の割合の方が大きい。

理由はサドゥーク皇帝率いる帝国軍と北方辺境伯率いる反乱軍の激しい戦闘。

年明けとほぼ同時に起こった反乱に対して帝国側は速やかに軍を招集し、北方のとある雪原で衝突していた。

戦況はほぼ互角。しかし、反乱軍の中を単騎で突き進む帝国の騎士がいた。

アベルである。

成長期で日々伸びてはいるものの、いまだ成人男性よりは頭1つ分以上低い身長が、今は有利に働いていた。

身をかがめたまま馬を操れば、周囲の人垣に紛れてしまって敵はどうしても一瞬対応が遅れてしまう。

その僅かな遅れをついて、時に斬りつけ、時に抜き去ることでアベルは誰よりも速く反乱軍の本陣に迫っていく。

激しい戦いの中でありながら、その瞳はどこか虚ろだ。

敵陣の中にも関わらず、心の片隅でアベルは過去を思い返している―――



―――それはアベルとフィリアが出会う少し前のこと。

始まりはサドゥーク皇帝の唐突な発言だった。

「アベル、お前、いま幾つだ?」

「先日15歳になりましたが・・・どうかしましたでしょうか?」

「お前を戦場で拾ってからもう2年経つわけか・・・ふむ、そろそろ女の扱い方を知ってもいい年ごろだな」

「はい?」

怪訝な表情のアベルに皇帝は無遠慮に問いかける。

「今つきあっている女はいるか?」

「いいえ」

「今まで女とつきあったことは?」

「ありません」

「身近で気になっている女はいないのか?」

「いません」

よく分からないまま皇帝の問に答えていく。

一通り訊き終えた皇帝はニヤリと笑った。

「ならば丁度よいな! 命令だ、今度我の妃になる女の気を惹き、篭絡してみせよ!」

「・・・陛下、ロウラクって一体何でしょうか?」

「・・・そこからか、アベルよ」

皇帝は呆れ顔になった。

そして皇帝による恋愛指南という名の自らの女性歴の開陳と目論見の解説が始まった。


ーーーーーーーーーーーーー


「・・・要はモールド王国から嫁いでくるフィリアという方から好かれるように優しく接するようにすればいい、ということでしょうか?」

「その通りだ。本当はもっと高等な駆け引きのやり方もあるが、お前に求めるにはまだ酷だろう」

一通り話を聞き終えたが、未だアベルは皇帝の考えが腑に落ちない。

「しかし、俺にはよく分かりません。モールド王国の領土が欲しいのなら普通に攻め込んでしまえばいいのではないでしょうか? 帝国の軍事力はあの国の20倍以上だったはずです。難しいことではないと思いますが・・・」

「そうもいかんのだ、アベルよ。向こうが早々に服従の態度を示し、なおかつ王女の1人を差し出してきた以上、こちらから攻め込んでしまうと周辺諸国から我が帝国が不義理な国とみなされてしまう・・・それは政治的に大きな損害なのだ」

「なるほど」

「だが、嫁いできた王女が我を何らかの形で裏切った・・・例えば他の男に目移りしたというのなら話は別。むしろ堂々とモールド王国に帝国軍を差し向けることができる」

「わかりました・・・正直に言うとまだ理解できていない点がありますが、精いっぱいロウラクしてみます」

こうしてアベルはフィリアに接近することになった。

この数日後、アベルは護送の騎士としてフィリアと出会うことになる。
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