悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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七頁 クレマチスの願い

100話 密会を枯らす②

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 あれからあっという間に密会が行われる日を迎えた。と言っても俺たちが現場に行くことはない。というかそれが当たり前なんだけど。まあ現場には向かわないというだけでエヴェイユからは今回の件に関わる別の案件の対応を任されてしまいましたけど。と言っても内容は攻略中のキャラ以外が対応していたものだからそこまで大きな変化はない、はずだ。面倒なことに変わりはないけどな!

「…………はあ、なぜ私がこんなことを」
「現場に行けと言われなかっただけましだろう。ここまで来たんだ、腹を括れ」
「面倒だな」
 
 まあこっちの案件も重要っちゃ重要だからな。なんせ奴らの使っている物置……というには立派な建物だがそれを抑えれば奴らにとってもいい打撃になる。そっちも騎士団を向かわせればいいと思うのだがこの建物の特徴を考慮すると下手に騎士団を送り込むこともできない。なんせここは……高位貴族がお忍びでやってくることもある高級宿屋だから。当然それ相応の対応が求められる上、もし冤罪など起こした日には悲惨なことになりかねない。それに騎士団員とてそれぞれは貴族に該当するから身分による弊害もあるだろう。そうなると本来の権限を身分によって妨害されかねないのだ。……だから俺が派遣されることになったんだけど。実家が公爵家であり個人としては身分を持たない俺を。まあだからアウルもつけたんだろうけど。
 ……ああもう! ここまできたんだから腹括るっきゃない!!! ちゃっちゃと終わらせてさっさと帰ろう!
 俺は面倒な空気を隠すことなくアウルと共に堂々と宿屋の中に入っていった。

「いらっしゃいませ。アウル・オルニス様、シュヴァリエ・アクナイト様。お待ちしておりました」

 受付の人は優雅な笑みで俺たちを迎える。一見普通の受付に見えるこの男はゲーム内では連中の仲間の一人だったがいろいろ変わってしまっているこの世界でのこいつはどっちだろうな。まあ後になればわかるか。どちらにせよ警戒しておくに越したことはない。一旦取った部屋に行き、アウルと作戦を詰める。

「殿下の思惑通り宿屋に入れたが……証拠はどこにあるのか」
「この宿屋は貴族階級が利用する宿。隠し通路の一つや二つあったところで驚かないが、一番可能性がありそうなのはやはり地下だな。この宿屋の見取り図でも手に入ればいいんだが」
「それならば風魔法と水魔法で応用できるぞ」

 ……どうやって? 訳が分からず首を傾げる俺をよそにアウルは紙とペンを取り出し俺に手渡してきた。

「……何をする気だ?」
「俺が言うとおりに書いてくれ」

 紙とペンと見取り図……ってことは俺が書くのか!? 言う通りって……風、水……見取り図…………あ、わかったかも。これはあれだ、某まいりましたのアニメで騒動を起こした先輩のもとに主人公が辿り着いた方法と似ている。風魔法ということは風の流れでこの内部を把握、水魔法はおそらく鏡の役割だ。例えるなら天然のドローンだろう。すごいな~俺の魔法は一見チートに思えて制約ありすぎなんだよね。どうしても向こうの世界基準になる上この世界の無属性魔法の制約もあって趣味以外ではほっとんど使う機会がないという……。なんで魔法でレジンもどきを作らなかったか? 俺の魔法のことはサリクスも知らないからだ。無属性の制約もあったし多分……サリクスのことだけは信頼していたシュヴァリエが余計なことを打ち明けて変に負担がかかるのを避けていたんじゃないかと思う。公爵がシュヴァリエに付けたのは侍従であるサリクスひとりだけ。以前シュヴァリエの部屋を掃除していた下男下女が冷遇されているシュヴァリエの部屋から物を盗んだり掃除のふりをして逆に汚したりと好き放題していたことがあった。しかも掃除の時間には彼らのことを知った公爵夫人が自分の息のかかった使用人を使い下らない用事でサリクスを引き留めるというやり方をしていた。そのことを突き止めたサリクスが掃除などもすべて自分がやると言い出して以降本来なら下男下女がやる仕事までサリクスが担っている状態だった。まあ今はまた下男下女が掃除をするようになったらしいが。…………ほんっとマジあの害悪駆除できてよかったわ。
 ……話が逸れすぎた。風は気圧の変化による空気の流れのことって習った気がするけど、空気はどこにだってあるからな。属性の中で最も使いどころが豊富な魔法だと思う。……俺も風魔法がよかったな。

「この建物は地下を含めて六階建てだ、が……どうやらさらに下があるらしい」
「……やはり普通の建物ではなかったか」
「ああ。しかもその地下室はこの建物に比べて相当新しい。この建物ができてからかなり後に作られた場所のようだ」

 このセリフはゲームでもあったな。密会現場を潰した後の報告会でそんな話をしていたっけ。ほんとよくやるよね。密会の場を摘み取るのは向こうがうまくやるだろうけど、別に個々の制圧自体はそう難しいものじゃない。こっちの情報をもとに騎士団に踏み込んでもらえればそれでいい。地下にそんな場所を作るということは十中八九そのまま地上に出られる道もあるんだろうな。出入り口は外から見ても判らないようになっているはずだ。ならそれを突き止めて建物の外からと中からで挟み撃ちにすれば逃げられることはないだろう。

「その地下室から地上に直通の道があるはずだ。探せるか?」
「ああ。物資をちょうど地下二階から建物の外に続く道を見つけたところだ。これを辿って行けば……」

 ほんっとうに有能ですね。どこぞの馬鹿と交換してほしい。愛国心もない国を壊し余所者の侵略を許す余所者政府、国民の声を無視してグローバリズム・多様化の奴隷に成り下がった公務員、他国の侵略に気づいていない国民……。数百年前の鎖国化は正しい選択だったのだとしみじみ感じている。あの美しい日の出る国は今どうなっているのやら。まあいいや、もう戻れない世界を気にしてもしょうがない。
 

「…………見張りがいるな」
「見張り?」
「ああ、俺たちの部屋の前に二人」
「怪しまれているということか」
「どうする?」
「…………扉の外にいるうちは放置でいいだろう。焦って動けば向こうの思うつぼだ」
「それもそうか。……隠し通路の出口は…………ん?」
「どうした?」

 不自然に言葉を切ったアウルに俺は言葉を返す。残念ながら風属性を持っていない俺はアウルがどのようになっているか把握することができないけどかなり困惑した様子だ。こいつがこんな反応をするなんてよっぽどなんだろうな。

「…………騎士団が、出口を囲っている」
「……なぜ?」

 え? ゲーム内でそんなお話ありませんでしたが? ストーリー齟齬がありすぎるんですけど!? ……て、今更か。だけど騎士団がそこにいるのかは本当に疑問だ。騎士団、と言ったということはそうとわかる格好をしているということになるけど、知らなかったらそこにはいられない。最初から知っていたか、あるいはこの場所を知っていた誰かが情報を流したかのどちらかと考えるのが自然だけど……誰か、ねえ?

「…………この場所を最初から知っていたのか?」
「どちらにせよ、私たちがやるべきことに変わりはない。……地図は完成した」
「……正確なものだな。図形を書き起こすのが得意なのか?」
「そんなことはどうでもいい。あとは一緒に物証を用意して騎士に届ければ私たちの役目は終わりだ。すぐ近くにいるというのなら少しはやりやすいだろうが……」

 アウルの話を聞くに俺たちの部屋の前に見張りを置いているということは向こうも警戒しているという証拠だ。この分だと俺たちの部屋は窓の外からも見張りがつけられていそうだ。さてまずはこの部屋からどうやって出るか。

「窓と扉の外にいる見張りをどうにかしないとならないな」
「……ああ、やはり窓の外にもいたんだな。物証を得るには地下二階に向かわないといけないが、どうする?」

 どうすると言いながら随分と楽しげなのはなんでしょうね? ……はあ、最近荒事ばっかに関わっていませんかね俺。あらかじめ懐に入れておいた護身用の武器を取り出す。そんな俺を見たアウルも懐剣を取り出して扉の前で構えた。……もういっそシュヴァリエの魔法でスタンガンみたいなの作ろうかな。
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