悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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八頁 愛国のナスタチウム

114話 精霊神の神子と聖女

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 アストラの案内で事件現場から少し離れたところにある小さな東屋で事情聴取が始まった。さっきよりはましになったらしいクラルテがしどろもどろになりながら経緯を話し出した。まあこの展開はゲームでもあった。あったから今とっても憂鬱なんだけどね? ここは精霊神を信仰している宗教国家。そしてクラルテは聖女でもないのに精霊神の聲を聴いたのだ。そんなことをこの人たちに話せばどうなるか……。
 そんな俺の心情をよそにクラルテは経緯を話していく。

「大聖堂の掃除をしていたらいきなり頭の中に声が響いたんです。精霊の泉の近くで人が殺されるって」
「声、ですか?」
「はい。最初は気のせいだと思ったんですが体が勝手に動いて気づいたら精霊神の像の前に立っていて、人が殺されるって教えてくれて、それで僕言われた場所まで走ったんです。そしたら……そこで、ひとが……」

 思い出したのかまた青褪めてぶるぶると震え出したクラルテを見てアストラと騎士の人は顔を見合わせた。

「失礼ですが本当に精霊神様のお聲を聴いたと?」
「は、はい。聴きました」

 二人はしばらく何かを話した後真剣な表情でアウルと俺に視線を向けた。

「クラルテさんが仰っていることは本当でしょうか?」

 まあそりゃ確認するよな。もし虚偽の内容だったらこの場で拘束されて問答無用で牢獄にぶち込まれることになるんだから。……俺たちも含めて。アウルと目を合わせて俺たちはありのままをアストラに報告する。

「俺たちは聲を聴いてはいないがクラルテがまるで吸い寄せられるように精霊神の像まで歩いて行ったのは見ていた」
「同じく。その後弾かれたように飛び出した編……クラルテを不審に思い後を追った先でヴェント伯爵子息の遺体を見つけた次第です」

 俺たちの報告を聞いたアストラはしばし目を閉じた後静かにクラルテを見つめた。

「申し訳ありませんがクラルテ殿。この後聖女様と神官長にお会いいただきます」
「え!?」
「それってつまり……」
「ええ。クラルテ殿の話が事実ならば精霊神の神子として正式に認定しなければなりませんから」
「えええ!? ぼ、僕が精霊神の神子、ですか~~~!!!??」

 やっぱりこういう展開になったか。シュヴァリエ・アクナイトが断罪されルートによっては処刑までされたのがまさにこの出来事が関係している。精霊神ハルモニアの神子となればそれこそ精霊神を祀る国や民にとっては王族よりも貴ばれる存在だ。王族と同等かつ独立した権限を持つ特別な存在。そんな存在に危害を加え国さえも揺るがしたシュヴァリエ・アクナイトが重罪人として極刑に処されるのは当然の帰結だったのだ。むしろ死罪にならなかっただけありがたいと思えみたいな扱いになるんだろう。ゲームではかなり悲惨だと思ったけどこの世界の住人というか精霊神を祀る者たちにとってはそれでも足りないくらいなんだろうな。だからって今の俺がそれを受けるなんて冗談じゃないわけでして。
 ゲーム通りになっている以上俺はクラルテとは何が何でも関わりたくないです。……今どこからかもう遅い諦めろと聞こえた気がするがきっと幻聴だ。

「ええ。詳しいお話は事情聴取の後に。まずは先にヴェント伯爵子息の件を片付けましょう」
「そうは言っても俺たちもこれ以上話すことはないが」
「そうですね。駆け付けた先で何か不審なものを見ていないかについては?」

 あの件を話すわけにもいかないんだよな。話すにしてもアストラ以外には話したくない。

「あるにはありますがその件をお話しするには我が国の第二王子殿下の許可が必要になりますのでこの場ではご容赦ください」

 アストラの目が冷ややかに細められ静かに俺を威圧する。そんな顔されましてもねえ……というか美人の睨みは本当に怖いからやめていただきたい。アストラはしばらく無言で俺を見つめ……いや睨みつけた後ふっと息を吐いた。

「わかりました。エヴェイユ殿下からも伺っていますし構いませんよ。それではこれにて事情聴取は終わりです。解散して結構ですよ。それではクラルテさんは神官長と聖女様の了承を得られ次第お呼びしますので」
「は、はい」
「それでは皆様お疲れさまでした」

 そう言ってアストラは一礼をして聖騎士と共に東屋を去って行った。

「ど、どどど、どうしよう~!? ぼ、僕が神子なんて無理だよ~……!」
「大聖堂で聲を聴いてしまった以上は誤魔化しようがないだろう。諦めるんだな」
「そんなぁ~……」
「まあ名誉なことではあるし俺もシュヴァリエも証人になっているんだ。高位貴族が二人も証言している以上嘘だと言う者も滅多に出ないだろう。堂々としていろ。なにかあればフォローする」
「…………う、はい」
「話が終わったのなら私は行く。事情聴取も終わったのだからこのような場所に長居は無用だ」

 そう言ってさっさと歩きだした俺の後ろをアウルは苦笑ししながらクラルテはやや焦りながら続き再び大聖堂の清掃へと戻った。


   ♦♦♦♦♦♦♦


 その日の深夜。俺はこっそりと部屋を抜け出しヴェント伯爵子息が殺害された現場の近くにある精霊の泉までやってきた。その畔に一人の女性が立っていた。

「お久しぶりですわね。シュヴァリエ・アクナイト公爵子息様?」
「ああ。久しぶりだな。ティアーナ・ナスタチウム嬢。それとも今は聖女ティアと呼んだ方がいいか?」

 白を基調とした淡い青色の礼服を纏い
「やめてくださいな。私は聖女という名ではありませんしナスタチウム伯爵令嬢でもありませんので。どうぞ、ティアとお呼びください」
「……わざわざ私を呼び出した理由はなんだ?」
「あら? 貴方ならば見当がついているんじゃなくて?」

 朗らかに笑ってはいるがその言葉は明らかに棘を含んでいる。まあシュヴァリエが彼女にしたことを考えたら当然だけどな。でもシュヴァリエになってから一つだけ気づいたことがある。確かにシュヴァリエは忌み嫌われるような行いをしてきてはいたけど……。それをここで言うのは違う気がする。

「貴方が少し変わったようだと聞かされていたけど、どこが変わったんだか。謝罪の一つもしないの?」
「私がそんなものをすると思うのか?」
「ほんっと最低な人ね。私たち一家にエヴェイユ殿下暗殺未遂の濡れ衣を着せて国から追い出しておいて今でもせせら笑っているんでしょ」
「君がツヴィトークを出た時点で興味はなくなっている」
「……私たちは憶える価値もないってわけ!?」

 激高するティアを見ながら俺はシュヴァリエの記憶を辿る。……覚える価値どころかシュヴァリエ・アクナイトはナスタチウム一家のことを忘れていない。

「私が憶えているのはティアーナ・ナスタチウムのことで聖女ティアではないからな」

 俺の言葉に彼女は息を詰まらせ顔を歪ませると俺の傍までやってきて——

 バチンっ!!!

俺の頬を思い切り引っ叩いた。シュヴァリエのやらかしはどんな理由があったとしても赦されることではないと理解しているから甘んじて受け入れた。平手ってこんなに痛いんだな。

「ほんとうにそういうところが昔から嫌いよ! いつもいつも人を見下しているくせに顔色を窺って他人の気持ちなんてお構いなしじゃない! 私とエヴェイユ殿下が婚約者だったことも知っていたのにあんな仕打ちをして……仕えるべき殿下までも傷つけて! 私は本気で殿下を愛していたのよ! それなのにっ……! 私はあんたを赦さないわ! 臣下としても婚約者としても!」
「君に許されても困る。それに……二人まとめて命を落とすよりもましだろう」
「どういう意味よ!」
「知ったところで意味はない。どうしても知りたいというのなら……本人に直接聞いたらどうだ?」

 そう言って俺は泉の傍の木の陰に視線を向ける。つられるようにティアも視線を向けた先には——

「気づいていたのですね。シュヴァリエ公子」

 エヴェイユとリヒトが月明かりの中、悠然と佇んでいた。
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