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八頁 愛国のナスタチウム
115話 夜、二つの解へ
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木の陰から姿を見せたエヴェイユはリヒトを伴いながらいつもの笑みを浮かべていた。その後ろで鋭くこちらを睨んでいるリヒトと目が合う。……ああ、了解。
「いけませんねシュヴァリエ公子。時間は厳守するようにと言われていたでしょう?」
「ではなぜ殿下はこの場におられるのですか?」
「ふふ……それもそうですね。ですがせっかく彼女に会えるのですから抜け出すくらいはよいでしょう?」
「……そうですか」
エヴェイユの登場にティアは一瞬動揺したようだがすぐにその場に跪いた。
「不肖、ティアがツヴィトーク第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
「挨拶は結構ですよ。……お久しぶりですねティアーナ。いえ、今は聖女ティアでしたか」
「……はい。すでにナスタチウムの名は捨ててございますので、どうかティアとお呼びください」
「ええ、そうでしたね。それでは改めて、ティアお久しぶりです」
「はい。こうして再びお会いできて光栄ですわ」
「…………変わっていないようで安心しました。いつまでも跪いていないで立ってください」
「ありがとうございます」
赦しを得て立ち上がったティアの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。彼女は本気でエヴェイユ・イル・ツヴィトークを愛していた。エヴェイユを支えることを誉れといい、愛せることを喜びと言ったティアーナ。そしてエヴェイユもそこまで言ってくれたティアーナを心の支えにしていた。そんな二人の関係を壊し双方に塞がることのない傷を与えたのはシュヴァリエ・アクナイトだ。
「殿下、先ほどアクナイト公子が二人まとめて命を落とすよりはと言ったのはどういう意味でしょうか?」
「……そうですね。私もあとからわかったことなのですが……」
ちらりと俺を見る。
「私は今から彼女へ真相を話しますがシュヴァリエ公子、貴方はどうしますか?」
これは同席して話を聞くかってことだよな? だけど俺がいたところで何になると言うんだ? どんな真相であれこの女がシュヴァリエ・アクナイトを赦すわけないのに。ここで離れたら俺が逃げたみたいになるかもしれないけどだからって居たところで何すんの? エヴェイユの話に適当に相槌打てばいいわけ?
「私は向こうへ行っています。せっかくの再会を邪魔するほど無粋ではないので」
「お逃げになるのですか?」
「そう思いたければ思えばいい」
「本当にムカつく男ね。アクナイト邸でのお茶会でこっそりと会っていた時から何一つ変わっていない。アクナイト第一公子が気を利かせてくれたことも忘れているようね」
「兄上は関係ないだろう。そもそも君と会話をしたのは殿下やリヒトと比べ半分にも満たなかっただろう。兄上を持ち出してまで恩着せがましいことを言われるのは非常に不愉快だ」
俺のことが嫌いなのは勝手だがシエルを出してくるのは卑怯だと思う。思っていたよりも冷たい声だったようでティアーナが怯んだ。
「シュヴァリエ公子、女性を怯えさせるものではありませんよ」
「それは申し訳ございません。ですが私にも逆鱗はありますので」
「……そうですね。ですが彼女はこの国における聖女です。下手を打てば貴方が不利になります」
それはそうだな。面倒だしこの辺にするか。そもそも俺はこの場から離れるところだったんだし。
「それでは今度こそ私は失礼いたします」
「殿下、私はシュヴァリエ様に同行してもよろしいでしょうか? またお二方に危害を加えるような計画を立てられては困りますので私がシュヴァリエ様を見張ります。せっかくシュヴァリエ様が珍しく殊勝な心掛けをみせてくださったんですから存分にご利用なさればよいかと」
そう言ってリヒトは半ば引きずるようにしてその場をあとにした。
♦♦♦♦♦♦♦
二人からある程度離れたところでリヒトは掴んでいた俺の腕を離した。
「大丈夫だったか?」
「ああ。まさかあの女が接触してくるとは思わなかったしなんでエヴェイユがいるんだよ」
「ティアーナに呼び出されたんだよ。話があるって」
「お前も?」
「ああ。何考えてんだかと思ったけどそういうことだったんだな」
二人で向かっている先は俺たちが泊っているところではない。
「……で? わざわざ二人から離れたってことは、そういうことでいいんだよな?」
「ああ。もっとも聖女に三人まとめて呼び出されたのは想定外だけど」
「……それは俺も思った。まあゲームじゃそもそもシュヴァリエは選ばれていないから言いたいことがあっても言えなかったんだろう」
「シュヴァリエのやったことはさすがになぁ……」
「だけどお前のあの言い方だとあれにも意味があったってことになるが、話してくれる気はあるのか?」
「ああ。お前には知る権利があるだろ。それでもシュヴァリエ・アクナイトがやったことに変わりはないから擁護とかそういうのは一切いらない」
「了解した」
リヒトから風車の口調になり俺もシュヴァリエから紅夏の口調に変えた。話しているのは当然ゲームの内容。ゲームの流れだとクラルテが夜中に突然精霊神からの神託を聞いて飛び起き神に導かれるまま向かった先でこの章のクライマックスに突入していくというもの。ただしエヴェイユルートとリヒトルートだと追加でシュヴァリエとの因縁も明らかになるんだけど……今その因縁についてはティアーナとエヴェイユが話している最中だろう。だから俺たちはこっちを片付けようと思う。本当なら俺は関わりたくないんだけど当事者になっちゃいましたからねぇ。さすがにムカついてんだわ。
「一応聞くけど認めると思うか? ゲームの時は『精霊神に導かれて』っつー自白を促す最強の切り札があったけど今のお前はただの状況証拠しか持っていないだろ?」
「なんとかする。それに物的証拠なら……本人も意図しないところに持っている」
「……! ならいいか」
そうして辿り着いたのは昼間にいた東屋でそこには想定内と想定外が同時に存在していた。
「シュヴァリエにリヒト!? 君たちまで来たのか!?」
「おやおや……規則違反が一度に三人とは……」
その東屋にいた想定内この国の第一王子アストラ・ディ・アーダ。そして想定外のほうは——マジでなんでお前がいるんだよ。
「アウル……なぜ君がここにいる?」
「それはこっちのセリフだ。なぜかこんな時間に抜け出したからおかしいと思って追いかけたんだが、その途中で思わぬ人を見かけてな」
そう言ってアウルがむけた視線の先ではアストラが無表情でこちらを見ていた。
「お話は終わりましたか? 違反者三名の皆さん。言い訳があるのならお聞きしますが?」
交流会での優しい態度とは打って変わった冷ややかな様子に俺とリヒトは一瞬だけ視線を合わせる。規約違反に対する詰問をするつもりのようだが残念なことに俺があんたに詰問するほうが先だ。
「それを言うのならば貴方も該当するのでは?」
「……私は本日の見回り当番ですので何も問題ございません。それで答えられますよね?」
「そうですね……答えられないことを行いその隠蔽をしようとしている方を現行犯として聴取するため、と言ったら?」
「ご自分たちの現状報告でしょうか?」
……暗にお前らのことだよなって言われてしまった。俺ら現代人に言い換えるとブーメラン乙、だと思うの。その証拠にリヒトから冷た~い視線が向けられている。アウルからも呆れた視線を寄こしているのも気のせいじゃないんだろうな。ごめんなさい言葉のチョイス間違えました。
「貴方から見ればそうなのでしょうし関わるつもりはなかったのですよ? ……ですが私自身でも意図せず当事者になってしまいましたので、このまま何もせずにいることはできないと判断いたしました」
「そう仰るということはあの事件に関してですね。貴方に助けていただいたのにも関わらずお礼も言えていませんでしたね。改めて命を助けていただき感謝申し上げます」
そんなアストラを俺は無言で眺める。お礼を受け取るのは構わないが、そこで話を終わらせられても困るんだわ。
「そのお礼は謹んで受け取らせていただきます。ですがそれは別の形で示していただけませんか?」
「私にできることでしたら」
「それでは昼間起こった事件の答え合わせを行ってもよろしいでしょうか——ヴェント伯爵子息殺害事件の黒幕である、アストラ・ディ・アーダ第一王子殿下?」
「いけませんねシュヴァリエ公子。時間は厳守するようにと言われていたでしょう?」
「ではなぜ殿下はこの場におられるのですか?」
「ふふ……それもそうですね。ですがせっかく彼女に会えるのですから抜け出すくらいはよいでしょう?」
「……そうですか」
エヴェイユの登場にティアは一瞬動揺したようだがすぐにその場に跪いた。
「不肖、ティアがツヴィトーク第二王子殿下にご挨拶申し上げます」
「挨拶は結構ですよ。……お久しぶりですねティアーナ。いえ、今は聖女ティアでしたか」
「……はい。すでにナスタチウムの名は捨ててございますので、どうかティアとお呼びください」
「ええ、そうでしたね。それでは改めて、ティアお久しぶりです」
「はい。こうして再びお会いできて光栄ですわ」
「…………変わっていないようで安心しました。いつまでも跪いていないで立ってください」
「ありがとうございます」
赦しを得て立ち上がったティアの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。彼女は本気でエヴェイユ・イル・ツヴィトークを愛していた。エヴェイユを支えることを誉れといい、愛せることを喜びと言ったティアーナ。そしてエヴェイユもそこまで言ってくれたティアーナを心の支えにしていた。そんな二人の関係を壊し双方に塞がることのない傷を与えたのはシュヴァリエ・アクナイトだ。
「殿下、先ほどアクナイト公子が二人まとめて命を落とすよりはと言ったのはどういう意味でしょうか?」
「……そうですね。私もあとからわかったことなのですが……」
ちらりと俺を見る。
「私は今から彼女へ真相を話しますがシュヴァリエ公子、貴方はどうしますか?」
これは同席して話を聞くかってことだよな? だけど俺がいたところで何になると言うんだ? どんな真相であれこの女がシュヴァリエ・アクナイトを赦すわけないのに。ここで離れたら俺が逃げたみたいになるかもしれないけどだからって居たところで何すんの? エヴェイユの話に適当に相槌打てばいいわけ?
「私は向こうへ行っています。せっかくの再会を邪魔するほど無粋ではないので」
「お逃げになるのですか?」
「そう思いたければ思えばいい」
「本当にムカつく男ね。アクナイト邸でのお茶会でこっそりと会っていた時から何一つ変わっていない。アクナイト第一公子が気を利かせてくれたことも忘れているようね」
「兄上は関係ないだろう。そもそも君と会話をしたのは殿下やリヒトと比べ半分にも満たなかっただろう。兄上を持ち出してまで恩着せがましいことを言われるのは非常に不愉快だ」
俺のことが嫌いなのは勝手だがシエルを出してくるのは卑怯だと思う。思っていたよりも冷たい声だったようでティアーナが怯んだ。
「シュヴァリエ公子、女性を怯えさせるものではありませんよ」
「それは申し訳ございません。ですが私にも逆鱗はありますので」
「……そうですね。ですが彼女はこの国における聖女です。下手を打てば貴方が不利になります」
それはそうだな。面倒だしこの辺にするか。そもそも俺はこの場から離れるところだったんだし。
「それでは今度こそ私は失礼いたします」
「殿下、私はシュヴァリエ様に同行してもよろしいでしょうか? またお二方に危害を加えるような計画を立てられては困りますので私がシュヴァリエ様を見張ります。せっかくシュヴァリエ様が珍しく殊勝な心掛けをみせてくださったんですから存分にご利用なさればよいかと」
そう言ってリヒトは半ば引きずるようにしてその場をあとにした。
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二人からある程度離れたところでリヒトは掴んでいた俺の腕を離した。
「大丈夫だったか?」
「ああ。まさかあの女が接触してくるとは思わなかったしなんでエヴェイユがいるんだよ」
「ティアーナに呼び出されたんだよ。話があるって」
「お前も?」
「ああ。何考えてんだかと思ったけどそういうことだったんだな」
二人で向かっている先は俺たちが泊っているところではない。
「……で? わざわざ二人から離れたってことは、そういうことでいいんだよな?」
「ああ。もっとも聖女に三人まとめて呼び出されたのは想定外だけど」
「……それは俺も思った。まあゲームじゃそもそもシュヴァリエは選ばれていないから言いたいことがあっても言えなかったんだろう」
「シュヴァリエのやったことはさすがになぁ……」
「だけどお前のあの言い方だとあれにも意味があったってことになるが、話してくれる気はあるのか?」
「ああ。お前には知る権利があるだろ。それでもシュヴァリエ・アクナイトがやったことに変わりはないから擁護とかそういうのは一切いらない」
「了解した」
リヒトから風車の口調になり俺もシュヴァリエから紅夏の口調に変えた。話しているのは当然ゲームの内容。ゲームの流れだとクラルテが夜中に突然精霊神からの神託を聞いて飛び起き神に導かれるまま向かった先でこの章のクライマックスに突入していくというもの。ただしエヴェイユルートとリヒトルートだと追加でシュヴァリエとの因縁も明らかになるんだけど……今その因縁についてはティアーナとエヴェイユが話している最中だろう。だから俺たちはこっちを片付けようと思う。本当なら俺は関わりたくないんだけど当事者になっちゃいましたからねぇ。さすがにムカついてんだわ。
「一応聞くけど認めると思うか? ゲームの時は『精霊神に導かれて』っつー自白を促す最強の切り札があったけど今のお前はただの状況証拠しか持っていないだろ?」
「なんとかする。それに物的証拠なら……本人も意図しないところに持っている」
「……! ならいいか」
そうして辿り着いたのは昼間にいた東屋でそこには想定内と想定外が同時に存在していた。
「シュヴァリエにリヒト!? 君たちまで来たのか!?」
「おやおや……規則違反が一度に三人とは……」
その東屋にいた想定内この国の第一王子アストラ・ディ・アーダ。そして想定外のほうは——マジでなんでお前がいるんだよ。
「アウル……なぜ君がここにいる?」
「それはこっちのセリフだ。なぜかこんな時間に抜け出したからおかしいと思って追いかけたんだが、その途中で思わぬ人を見かけてな」
そう言ってアウルがむけた視線の先ではアストラが無表情でこちらを見ていた。
「お話は終わりましたか? 違反者三名の皆さん。言い訳があるのならお聞きしますが?」
交流会での優しい態度とは打って変わった冷ややかな様子に俺とリヒトは一瞬だけ視線を合わせる。規約違反に対する詰問をするつもりのようだが残念なことに俺があんたに詰問するほうが先だ。
「それを言うのならば貴方も該当するのでは?」
「……私は本日の見回り当番ですので何も問題ございません。それで答えられますよね?」
「そうですね……答えられないことを行いその隠蔽をしようとしている方を現行犯として聴取するため、と言ったら?」
「ご自分たちの現状報告でしょうか?」
……暗にお前らのことだよなって言われてしまった。俺ら現代人に言い換えるとブーメラン乙、だと思うの。その証拠にリヒトから冷た~い視線が向けられている。アウルからも呆れた視線を寄こしているのも気のせいじゃないんだろうな。ごめんなさい言葉のチョイス間違えました。
「貴方から見ればそうなのでしょうし関わるつもりはなかったのですよ? ……ですが私自身でも意図せず当事者になってしまいましたので、このまま何もせずにいることはできないと判断いたしました」
「そう仰るということはあの事件に関してですね。貴方に助けていただいたのにも関わらずお礼も言えていませんでしたね。改めて命を助けていただき感謝申し上げます」
そんなアストラを俺は無言で眺める。お礼を受け取るのは構わないが、そこで話を終わらせられても困るんだわ。
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