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【第1章】救国の英雄、褒美を望む
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魔物の咆哮が止んでから、まだ一日しか経っていないというのに、王宮はまるで何事もなかったかのように静まり返っていました。
けれど、わたしの胸の奥には、まだあの戦いの余韻が残っています。焼け焦げた大地の匂い、魔力を使いすぎたせいで震える指先、そして――。
(……ああ、眠いです)
そんなことを思いながら、わたしは玉座の間の中央に立っていました。
深紅の絨毯がまっすぐに伸び、その先にはこの国の主――アルバート王陛下が鎮座しておられます。
「アリア・フェルディナンドよ。我が国を救ってくれたこと、国主として心からの礼を述べる」
王陛下の声は、いつもより少しだけ柔らかく聞こえました。
それだけ、今回の魔物討伐が国にとって重大だったということでしょう。
「恐れ入ります、陛下。わたしはただ、できることをしただけです」
そう答えると、王陛下はふっと目を細められました。
その視線には、わたしの魔力の強さや功績だけでなく、どこか“扱いに困っている”ような色が混じっています。
(……まあ、そうでしょうね)
わたしは異国の魔術師で、家名も持たず、どこにも属していません。
だからこそ、国を救った英雄としての扱いに、王宮は少し戸惑っているのです。
「そなたには、なんでも褒美を取らせよう。望むものを言うがよい」
その言葉を聞いた瞬間、わたしの胸はどきりと跳ねました。
(……来ましたね)
実は、戦いの最中からずっと考えていたのです。
魔物を倒したら、王宮に呼ばれるだろう。
褒美を与えると言われるだろう。
その時、わたしは――。
「陛下。わたし、望むものがございます」
玉座の間に、わたしの声が静かに響きました。
王陛下は興味深そうに眉を上げられます。
「ほう。申してみよ」
わたしは深呼吸をして、胸に手を当てました。
緊張しているわけではありません。
ただ、これから口にする願いが、あまりにも“わたしらしい”ので、少しだけ恥ずかしかったのです。
「――国一番の美男子を、夫にくださいませ」
玉座の間が、しん、と静まり返りました。
王陛下の目がまん丸になり、側近たちがざわつき、侍女たちが息を呑む音が聞こえます。
(……あ、やっぱり驚かれましたね)
でも、わたしは真剣です。
魔術師としての旅もそろそろ終わりにしたい。
落ち着ける場所がほしい。
そして――。
(どうせなら、毎日美しい顔を眺めて暮らしたいです)
わたしのささやかな、しかし切実な願いでした。
「……そなた、いま……なんと?」
「国一番の美男子を、夫にいただきたいのです」
もう一度、はっきりと申し上げました。
王陛下は額に手を当て、しばらく天井を仰いでおられました。
「……アリアよ。そなたは、金でも地位でもなく、美男子を望むのか?」
「はい。顔がよければ、他は問いません」
玉座の間の空気が、さらにざわつきました。
でも、わたしは本気です。
「そなた……本当にそれでよいのか?」
「はい。わたしは強いですし、生活に困ることもありません。愛を求めているわけでもありません。ただ、美しい顔を毎日見られれば、それで十分です」
王陛下は、なんとも言えない表情でわたしを見つめられました。
呆れているような、感心しているような、複雑な顔です。
「……わかった。そなたの望み、叶えてやろう」
その瞬間、わたしの胸はぱっと明るくなりました。
「ありがとうございます、陛下!」
「ただし……国一番の美男子となると、選定が難しい。そなたの目で確かめる必要があるだろう」
「もちろんです!」
わたしは思わず前のめりになってしまいました。
王陛下は苦笑されます。
「では、数日後に“婿候補サロン”を開こう。身分は問わず、独身で年頃の男を集める。そなたが選ぶがよい」
「はい、陛下。楽しみにしております」
そう答えた瞬間、胸の奥がふわりと温かくなりました。
(……ついに、わたしの旅も終わるのですね)
そして、わたしの人生に“夫”という存在が加わるのです。
(どんな方が来るのでしょう……)
美しい黒髪の方でしょうか。
それとも、金の瞳を持つ異国の方でしょうか。
筋肉質の方も素敵ですし、儚げな美青年も捨てがたいです。
(ああ……楽しみです)
わたしは胸を高鳴らせながら、玉座の間をあとにしました。
けれど、わたしの胸の奥には、まだあの戦いの余韻が残っています。焼け焦げた大地の匂い、魔力を使いすぎたせいで震える指先、そして――。
(……ああ、眠いです)
そんなことを思いながら、わたしは玉座の間の中央に立っていました。
深紅の絨毯がまっすぐに伸び、その先にはこの国の主――アルバート王陛下が鎮座しておられます。
「アリア・フェルディナンドよ。我が国を救ってくれたこと、国主として心からの礼を述べる」
王陛下の声は、いつもより少しだけ柔らかく聞こえました。
それだけ、今回の魔物討伐が国にとって重大だったということでしょう。
「恐れ入ります、陛下。わたしはただ、できることをしただけです」
そう答えると、王陛下はふっと目を細められました。
その視線には、わたしの魔力の強さや功績だけでなく、どこか“扱いに困っている”ような色が混じっています。
(……まあ、そうでしょうね)
わたしは異国の魔術師で、家名も持たず、どこにも属していません。
だからこそ、国を救った英雄としての扱いに、王宮は少し戸惑っているのです。
「そなたには、なんでも褒美を取らせよう。望むものを言うがよい」
その言葉を聞いた瞬間、わたしの胸はどきりと跳ねました。
(……来ましたね)
実は、戦いの最中からずっと考えていたのです。
魔物を倒したら、王宮に呼ばれるだろう。
褒美を与えると言われるだろう。
その時、わたしは――。
「陛下。わたし、望むものがございます」
玉座の間に、わたしの声が静かに響きました。
王陛下は興味深そうに眉を上げられます。
「ほう。申してみよ」
わたしは深呼吸をして、胸に手を当てました。
緊張しているわけではありません。
ただ、これから口にする願いが、あまりにも“わたしらしい”ので、少しだけ恥ずかしかったのです。
「――国一番の美男子を、夫にくださいませ」
玉座の間が、しん、と静まり返りました。
王陛下の目がまん丸になり、側近たちがざわつき、侍女たちが息を呑む音が聞こえます。
(……あ、やっぱり驚かれましたね)
でも、わたしは真剣です。
魔術師としての旅もそろそろ終わりにしたい。
落ち着ける場所がほしい。
そして――。
(どうせなら、毎日美しい顔を眺めて暮らしたいです)
わたしのささやかな、しかし切実な願いでした。
「……そなた、いま……なんと?」
「国一番の美男子を、夫にいただきたいのです」
もう一度、はっきりと申し上げました。
王陛下は額に手を当て、しばらく天井を仰いでおられました。
「……アリアよ。そなたは、金でも地位でもなく、美男子を望むのか?」
「はい。顔がよければ、他は問いません」
玉座の間の空気が、さらにざわつきました。
でも、わたしは本気です。
「そなた……本当にそれでよいのか?」
「はい。わたしは強いですし、生活に困ることもありません。愛を求めているわけでもありません。ただ、美しい顔を毎日見られれば、それで十分です」
王陛下は、なんとも言えない表情でわたしを見つめられました。
呆れているような、感心しているような、複雑な顔です。
「……わかった。そなたの望み、叶えてやろう」
その瞬間、わたしの胸はぱっと明るくなりました。
「ありがとうございます、陛下!」
「ただし……国一番の美男子となると、選定が難しい。そなたの目で確かめる必要があるだろう」
「もちろんです!」
わたしは思わず前のめりになってしまいました。
王陛下は苦笑されます。
「では、数日後に“婿候補サロン”を開こう。身分は問わず、独身で年頃の男を集める。そなたが選ぶがよい」
「はい、陛下。楽しみにしております」
そう答えた瞬間、胸の奥がふわりと温かくなりました。
(……ついに、わたしの旅も終わるのですね)
そして、わたしの人生に“夫”という存在が加わるのです。
(どんな方が来るのでしょう……)
美しい黒髪の方でしょうか。
それとも、金の瞳を持つ異国の方でしょうか。
筋肉質の方も素敵ですし、儚げな美青年も捨てがたいです。
(ああ……楽しみです)
わたしは胸を高鳴らせながら、玉座の間をあとにしました。
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