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【第2章】 運命の“顔面”との遭遇
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王宮の庭園に、あれほど多くの若い殿方が集まる光景を、わたしは初めて目にしました。
その日は朝から、胸の奥がそわそわして落ち着きませんでした。
王陛下が「婿候補サロン」と称して、国中から“見目麗しい独身男性”を集めてくださるというのです。
わたしの望み――国一番の美男子を夫に、という無茶な願いを叶えるために。
(……本当に、こんなことをしていただいてよいのでしょうか)
そう思いながらも、わたしは庭園の隅に置かれた白い東屋に腰を下ろし、両手で双眼鏡を握りしめていました。
王陛下は隣で腕を組み、庭園の中央に集まる殿方たちを眺めておられます。
「アリアよ。そなたの好みの男は見つかりそうか?」
「ええと……皆さま、たいへん整ったお顔立ちで……」
双眼鏡を覗くたびに、視界に飛び込んでくるのは、彫刻のように整った横顔や、陽光に映える金髪、涼やかな瞳。
(……これは、目移りしますね)
わたしは思わず頬を押さえました。
魔物と戦うより、こちらのほうがよほど心臓に悪い気がします。
「そなた、顔がよければ身分は問わぬと言っていたな」
「はい。顔がよければ、すべて許せます」
「……そなたの価値観は、実に清々しいな」
王陛下は呆れたように笑われましたが、わたしは真剣です。
そんな時でした。
双眼鏡の先に、ふと、ひときわ目を引く影が映り込みました。
(……あれは)
庭園の右端。
他の殿方たちから少し離れ、木陰のベンチに腰掛けている青年がいました。
黒髪。
それも、ただの黒ではありません。
陽の光を受けて青みが差すような、深い夜の色。
長い睫毛の影が頬に落ち、伏せられた瞳はどこか物憂げで――。
(……きれい)
思わず、息を呑みました。
顔立ちは、まるで絵画の中から抜け出してきたように整っています。
高い鼻梁、形のよい唇、すらりとした首筋。
座っているだけなのに、どこか艶めいた雰囲気を纏っていました。
わたしは双眼鏡を握る手に力が入り、目の周りに丸い跡がつきそうになりました。
「陛下……あちらの方は、どなたでしょうか」
わたしが震える声で問うと、王陛下は視線を向け、すぐに渋い顔をされました。
「あれか……。バディア伯爵家の長男、ルシアン・クロードだ」
「ルシアン……さま」
名前を口にしただけで、胸がどくんと跳ねました。
「そなた、あやつが気に入ったのか?」
「はい。それはもう……」
わたしは正直に答えました。
だって、あの顔は――。
(老後まで絶対に崩れないタイプの顔です)
毛根も強そうですし、あの黒髪は年を重ねても美しいままでしょう。
あの目元の色気は、年齢を重ねるほど深みを増すに違いありません。
わたしが内心で涎を垂らしていると、王陛下は深いため息をつかれました。
「アリアよ。あやつは……問題児だぞ」
「問題児、ですか?」
「女をとっかえひっかえし、賭博にのめり込み、夜の街では“帝王”と呼ばれておる。家督は弟が継ぐ予定だ。あやつは私生児でな、素行も悪い」
「……なるほど」
「つまり、どクズだ」
「どクズ」
わたしは双眼鏡を下ろし、王陛下を見つめました。
「アリアよ。そなたの婿としては、あまりにも――」
「陛下」
わたしはそっと、胸に手を当てました。
「わたし、ルシアンさまと結婚したいです」
「……正気か!?」
「はい。あんなに顔がいいのですから」
王陛下は頭を抱えられましたが、わたしは確信していました。
(あの顔を毎日見られるなら、わたしは幸せです)
愛を求めているわけではありません。
経済力も必要ありません。
わたしは強いですし、魔術師としての収入もあります。
ただ――。
(あの美しい顔が、わたしの隣にあればいいのです)
それだけで、心が満たされるのです。
「アリアよ……あやつは、そなたを困らせるぞ」
「構いません。愛人が百人いても構いません。犯罪さえしなければ」
「それは構え」
王陛下は額を押さえながらも、やがて観念したように肩を落とされました。
「……わかった。バディア伯爵家に話を通してみよう」
「ありがとうございます、陛下!」
わたしは深く頭を下げました。
その瞬間、胸の奥がふわりと温かくなりました。
(……ついに、運命の人を見つけました)
わたしは再び双眼鏡を覗き込みました。
その日は朝から、胸の奥がそわそわして落ち着きませんでした。
王陛下が「婿候補サロン」と称して、国中から“見目麗しい独身男性”を集めてくださるというのです。
わたしの望み――国一番の美男子を夫に、という無茶な願いを叶えるために。
(……本当に、こんなことをしていただいてよいのでしょうか)
そう思いながらも、わたしは庭園の隅に置かれた白い東屋に腰を下ろし、両手で双眼鏡を握りしめていました。
王陛下は隣で腕を組み、庭園の中央に集まる殿方たちを眺めておられます。
「アリアよ。そなたの好みの男は見つかりそうか?」
「ええと……皆さま、たいへん整ったお顔立ちで……」
双眼鏡を覗くたびに、視界に飛び込んでくるのは、彫刻のように整った横顔や、陽光に映える金髪、涼やかな瞳。
(……これは、目移りしますね)
わたしは思わず頬を押さえました。
魔物と戦うより、こちらのほうがよほど心臓に悪い気がします。
「そなた、顔がよければ身分は問わぬと言っていたな」
「はい。顔がよければ、すべて許せます」
「……そなたの価値観は、実に清々しいな」
王陛下は呆れたように笑われましたが、わたしは真剣です。
そんな時でした。
双眼鏡の先に、ふと、ひときわ目を引く影が映り込みました。
(……あれは)
庭園の右端。
他の殿方たちから少し離れ、木陰のベンチに腰掛けている青年がいました。
黒髪。
それも、ただの黒ではありません。
陽の光を受けて青みが差すような、深い夜の色。
長い睫毛の影が頬に落ち、伏せられた瞳はどこか物憂げで――。
(……きれい)
思わず、息を呑みました。
顔立ちは、まるで絵画の中から抜け出してきたように整っています。
高い鼻梁、形のよい唇、すらりとした首筋。
座っているだけなのに、どこか艶めいた雰囲気を纏っていました。
わたしは双眼鏡を握る手に力が入り、目の周りに丸い跡がつきそうになりました。
「陛下……あちらの方は、どなたでしょうか」
わたしが震える声で問うと、王陛下は視線を向け、すぐに渋い顔をされました。
「あれか……。バディア伯爵家の長男、ルシアン・クロードだ」
「ルシアン……さま」
名前を口にしただけで、胸がどくんと跳ねました。
「そなた、あやつが気に入ったのか?」
「はい。それはもう……」
わたしは正直に答えました。
だって、あの顔は――。
(老後まで絶対に崩れないタイプの顔です)
毛根も強そうですし、あの黒髪は年を重ねても美しいままでしょう。
あの目元の色気は、年齢を重ねるほど深みを増すに違いありません。
わたしが内心で涎を垂らしていると、王陛下は深いため息をつかれました。
「アリアよ。あやつは……問題児だぞ」
「問題児、ですか?」
「女をとっかえひっかえし、賭博にのめり込み、夜の街では“帝王”と呼ばれておる。家督は弟が継ぐ予定だ。あやつは私生児でな、素行も悪い」
「……なるほど」
「つまり、どクズだ」
「どクズ」
わたしは双眼鏡を下ろし、王陛下を見つめました。
「アリアよ。そなたの婿としては、あまりにも――」
「陛下」
わたしはそっと、胸に手を当てました。
「わたし、ルシアンさまと結婚したいです」
「……正気か!?」
「はい。あんなに顔がいいのですから」
王陛下は頭を抱えられましたが、わたしは確信していました。
(あの顔を毎日見られるなら、わたしは幸せです)
愛を求めているわけではありません。
経済力も必要ありません。
わたしは強いですし、魔術師としての収入もあります。
ただ――。
(あの美しい顔が、わたしの隣にあればいいのです)
それだけで、心が満たされるのです。
「アリアよ……あやつは、そなたを困らせるぞ」
「構いません。愛人が百人いても構いません。犯罪さえしなければ」
「それは構え」
王陛下は額を押さえながらも、やがて観念したように肩を落とされました。
「……わかった。バディア伯爵家に話を通してみよう」
「ありがとうございます、陛下!」
わたしは深く頭を下げました。
その瞬間、胸の奥がふわりと温かくなりました。
(……ついに、運命の人を見つけました)
わたしは再び双眼鏡を覗き込みました。
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