【完結】顔が良ければそれでいいと思っていたけれど、気づけば彼に本気で恋していました。

朝日みらい

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【第3章】 美形、困惑する

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 ルシアン・クロードさまとの婚約話が正式に進むと決まった翌日、わたしは王宮の応接室に呼ばれました。

 重厚な扉を開けると、そこには王陛下と、そして――。

 昨日、庭園の片隅でひとり紅茶を飲んでおられた、あの黒髪の青年が立っていました。

(……近くで見ると、さらに顔がいいですね)

 胸がどくんと跳ね、思わず息を呑みました。

 深い黒髪は光を受けて青く揺れ、長い睫毛の影が頬に落ちています。  
 伏せられた瞳はどこか憂いを帯び、唇は薄く、形がよく――。

(……これは、反則です)

 わたしが内心で悶えていると、王陛下が咳払いをされました。

「ルシアンよ。こちらが、そなたの婚約者となるアリア・フェルディナンドだ」

 その言葉に、ルシアンさまはゆっくりと顔を上げられました。

 その瞬間、視線が絡み――胸の奥が、きゅうっと締めつけられました。

 彼の瞳は、思っていたよりもずっと深く、そしてどこか怯えたような色をしていました。

「……俺なんかで、よろしいのですか」

 低く、かすれた声でした。

 その声音には、驚きと戸惑いと、少しの諦めが混じっていて――  
 わたしの胸は、なぜか痛みました。

「もちろんです。わたしは、あなたの……その、お顔が、とても好きです」

 言いながら、耳まで熱くなりました。  
 王陛下が横で「はあ……」とため息をつかれたのが聞こえます。

 しかし、ルシアンさまは目を瞬かせ、わずかに眉を寄せられました。

「……顔、ですか」

「はい。とても、素敵です」

 わたしが正直に答えると、彼は困ったように視線を逸らしました。

 その仕草すら美しくて、わたしは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じました。

(……ああ、やっぱりこの方がいいです)

 わたしが見惚れていると、ルシアンさまはゆっくりと息を吐き、わたしのほうへ歩み寄ってこられました。

 距離が縮まるたびに、胸がどきどきと騒ぎます。

「アリアさま」

「は、はい」

「俺は……評判の悪い男です。女遊びも、賭博も、夜の街での噂も……全部、本当です」

 その告白は、まるで自分を突き放すためのもののようでした。

 けれど、わたしは微笑みました。

「構いません。わたしは、あなたの顔が好きなのですから」

「…………」

 ルシアンさまは、言葉を失ったようにわたしを見つめられました。

 その瞳の奥に、驚きと、戸惑いと、ほんの少しの――安堵のようなものが揺れた気がしました。

「……そんな理由で、俺を選ぶ人がいるとは思いませんでした」

「理由は、顔で十分です」

 わたしがきっぱりと言うと、ルシアンさまはふっと笑われました。

 その笑みは、昨日庭園で見たものとは違い、どこか弱々しくて、儚くて――。

(……守りたい、と思ってしまいました)

 自分でも驚くほど自然に、そう思ったのです。

「アリアさま」

 ルシアンさまはそっと手を伸ばし、わたしの手を取られました。

 その指先は少し冷たくて、でも優しくて――胸が跳ねました。


「俺のような男と結婚して、後悔しませんか?」

「はい。あなたのお顔を一年間、毎日見られるのなら、それだけで十分です」

 ルシアンさまは、また言葉を失われました。

 そして――。

 そっと、わたしの頬に触れられたのです。

「……そんなふうに言われたのは、初めてです」

 その指先は、驚くほど優しくて。  
 胸の奥がじんわりと熱くなり、息が詰まりました。

(……これは、ずるいです)

 こんなふうに触れられたら、惹かれてしまうに決まっています。

 わたしが固まっていると、ルシアンさまはふっと手を離し、少しだけ距離を取られました。

「では、準備を進めましょう。……アリアさま」

 その声は、どこか照れたようで、でも優しくて。

 わたしの胸は、またどきどきと騒ぎ始めました。
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