【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい

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第10章 暦石のペンダント

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 朝の光がやさしく差し込んでいました。  
 昨日までの吹雪がまるで嘘のように空は澄みわたり、屋敷の庭には新しい春の息吹が広がっています。

「……春ですね」

 窓を開けると、冷たい風の代わりに花の香りが入り込みました。  
 雪の重みから解き放たれた木々が、どこか嬉しそうに枝を伸ばしています。

 ふと、指先に光を感じました。  
 首もとのペンダント――あの“暦石”が、朝の光を受けて柔らかく輝いています。

「昨日はあんなに冷たかったのに……」

 光の反射に思わず微笑んでしまいます。  
 まるで石が「もう寒くないね」と言っているようでした。


~~~~~~~~~~


 食堂へ降りると、既にライナルト様が席に座っていました。  
 鎧ではなく、軽装のシャツ姿。いつもより柔らかな印象です。

「おはようございます、ライナルト様」
「よく眠れたか?」
「はい。あの……昨日のこと、本当にありがとうございました」

「礼を言うな。むしろ迷惑をかけたのは俺の方だ」

 彼は湯気の立つカップを取り上げながら、ほんの少し苦笑しました。

「戦場より吹雪の方が手強いとはな。……少し、油断した」
「もう、そんなことを。あなたはいつも自分を責めすぎです」

「癖だ。部下にもよく言われるよ」

 そう言って、わたしを見る目が一瞬だけ穏やかになりました。  
 その目に映る自分の姿が、少し誇らしくも感じます。

「花壇の芽がきれいに出ていたな」
「え? 見てくださったんですか?」
「ああ。朝の巡回ついでにな。もう少しすれば花が咲くだろう。……お前のように」

「え……い、いま、なんと……!」

 熱いものが顔にのぼり、思わず俯きました。  
 けれど彼は気づかぬふりをして、紅茶を口に運びながら言葉を継ぎます。

「お前が来てから、この屋敷にも色がついた。感謝している」

 静かに告げられたその言葉は、どんな宝石よりも尊く響きました。  
 わたしは胸の前でペンダントを握りしめ、そっと微笑みました。

「……この石も、喜んでいる気がします」
「暦石か?」
「はい。不思議なんです。あなたに拾われた夜から、時々こうして光るんです」

 ライナルト様は、少し興味深そうにわたしの胸元を見つめました。  
 その視線がわたしの心臓のすぐ上に触れる気がして、呼吸が浅くなります。

「たしかに、古代王家に伝わる暦石には“感応”の力があると聞いた。  
 持ち主の情が強くなるほど、光の色が深くなる――」

「情……ですか?」

「……まあ、信じるかどうかは自由だがな」

 彼の声がわずかに掠れていて、なぜだか心臓の奥がきゅっと縮まりました。  
 胸のあたりの光が、ほんの少し強くなる。まるで心拍に応じて脈動しているようでした。


~~~~~~~~~~


 昼過ぎ。  
 庭で花の手入れをしていると、遠くから馬の蹄の音が響きました。  
 乾いた雪を踏みしめながら、屋敷の門前に兵士たちが現れます。

「王都からの使者だ!」

 兵士たちの声に、胸がざわつきました。

「まさか……もうそんな……」

 わたしが呟くより早く、ライナルト様は玄関へ出ていきました。  
 冷たい風が再び頬を撫でます。心の奥にしまったはずの不安が、呼び起こされるようでした。

 王家の紋章を掲げた印章旗。  
 馬を降りた使者が、重々しい声で告げます。

「国王陛下の御勅命を伝える。――ライナルト=ヴァイスベルク将軍、王太子妃セリーナ殿下の護衛官として、王都に戻られたし。」

 耳がおかしくなったのではと思いました。  
 言葉を理解するまで、少し時間がかかりました。

 セリーナ。  
 義妹の、あの名前。

 彼女が王太子妃として、王都に――。  
 そして、ライナルト様が、その護衛に……?

「……どうして……」

 呆然とする私の耳に、静かな声音が届きました。

「陛下の命ならば、従うしかない」

 いつもの落ち着いた声。けれど、その瞳の奥にはわずかな苦悩が見えました。

 カーラさんがそっとわたしの肩に手を置きました。

「アメリア様……」

「……ええ、大丈夫です」

 笑おうとしたけれど、うまくできませんでした。  
 ほころんだ花びらのように、気持ちが静かに崩れていく。

 ライナルト様が屋敷を出る準備を進めているあいだ、私は震える手で花壇の土を揉みしめました。

 白い花の根元に、光を反射する石の欠片が埋まっていました。  
 掘り出してみると、それはわたしのペンダントと同じ、25の文字を刻んだ暦石の欠片。

「……暦の神さま、教えてください。  
 この石は祝福ですか、それとも試練ですか」

 風に乗って、遠くの鐘の音が響きます。  
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