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第10章 暦石のペンダント
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朝の光がやさしく差し込んでいました。
昨日までの吹雪がまるで嘘のように空は澄みわたり、屋敷の庭には新しい春の息吹が広がっています。
「……春ですね」
窓を開けると、冷たい風の代わりに花の香りが入り込みました。
雪の重みから解き放たれた木々が、どこか嬉しそうに枝を伸ばしています。
ふと、指先に光を感じました。
首もとのペンダント――あの“暦石”が、朝の光を受けて柔らかく輝いています。
「昨日はあんなに冷たかったのに……」
光の反射に思わず微笑んでしまいます。
まるで石が「もう寒くないね」と言っているようでした。
~~~~~~~~~~
食堂へ降りると、既にライナルト様が席に座っていました。
鎧ではなく、軽装のシャツ姿。いつもより柔らかな印象です。
「おはようございます、ライナルト様」
「よく眠れたか?」
「はい。あの……昨日のこと、本当にありがとうございました」
「礼を言うな。むしろ迷惑をかけたのは俺の方だ」
彼は湯気の立つカップを取り上げながら、ほんの少し苦笑しました。
「戦場より吹雪の方が手強いとはな。……少し、油断した」
「もう、そんなことを。あなたはいつも自分を責めすぎです」
「癖だ。部下にもよく言われるよ」
そう言って、わたしを見る目が一瞬だけ穏やかになりました。
その目に映る自分の姿が、少し誇らしくも感じます。
「花壇の芽がきれいに出ていたな」
「え? 見てくださったんですか?」
「ああ。朝の巡回ついでにな。もう少しすれば花が咲くだろう。……お前のように」
「え……い、いま、なんと……!」
熱いものが顔にのぼり、思わず俯きました。
けれど彼は気づかぬふりをして、紅茶を口に運びながら言葉を継ぎます。
「お前が来てから、この屋敷にも色がついた。感謝している」
静かに告げられたその言葉は、どんな宝石よりも尊く響きました。
わたしは胸の前でペンダントを握りしめ、そっと微笑みました。
「……この石も、喜んでいる気がします」
「暦石か?」
「はい。不思議なんです。あなたに拾われた夜から、時々こうして光るんです」
ライナルト様は、少し興味深そうにわたしの胸元を見つめました。
その視線がわたしの心臓のすぐ上に触れる気がして、呼吸が浅くなります。
「たしかに、古代王家に伝わる暦石には“感応”の力があると聞いた。
持ち主の情が強くなるほど、光の色が深くなる――」
「情……ですか?」
「……まあ、信じるかどうかは自由だがな」
彼の声がわずかに掠れていて、なぜだか心臓の奥がきゅっと縮まりました。
胸のあたりの光が、ほんの少し強くなる。まるで心拍に応じて脈動しているようでした。
~~~~~~~~~~
昼過ぎ。
庭で花の手入れをしていると、遠くから馬の蹄の音が響きました。
乾いた雪を踏みしめながら、屋敷の門前に兵士たちが現れます。
「王都からの使者だ!」
兵士たちの声に、胸がざわつきました。
「まさか……もうそんな……」
わたしが呟くより早く、ライナルト様は玄関へ出ていきました。
冷たい風が再び頬を撫でます。心の奥にしまったはずの不安が、呼び起こされるようでした。
王家の紋章を掲げた印章旗。
馬を降りた使者が、重々しい声で告げます。
「国王陛下の御勅命を伝える。――ライナルト=ヴァイスベルク将軍、王太子妃セリーナ殿下の護衛官として、王都に戻られたし。」
耳がおかしくなったのではと思いました。
言葉を理解するまで、少し時間がかかりました。
セリーナ。
義妹の、あの名前。
彼女が王太子妃として、王都に――。
そして、ライナルト様が、その護衛に……?
「……どうして……」
呆然とする私の耳に、静かな声音が届きました。
「陛下の命ならば、従うしかない」
いつもの落ち着いた声。けれど、その瞳の奥にはわずかな苦悩が見えました。
カーラさんがそっとわたしの肩に手を置きました。
「アメリア様……」
「……ええ、大丈夫です」
笑おうとしたけれど、うまくできませんでした。
ほころんだ花びらのように、気持ちが静かに崩れていく。
ライナルト様が屋敷を出る準備を進めているあいだ、私は震える手で花壇の土を揉みしめました。
白い花の根元に、光を反射する石の欠片が埋まっていました。
掘り出してみると、それはわたしのペンダントと同じ、25の文字を刻んだ暦石の欠片。
「……暦の神さま、教えてください。
この石は祝福ですか、それとも試練ですか」
風に乗って、遠くの鐘の音が響きます。
昨日までの吹雪がまるで嘘のように空は澄みわたり、屋敷の庭には新しい春の息吹が広がっています。
「……春ですね」
窓を開けると、冷たい風の代わりに花の香りが入り込みました。
雪の重みから解き放たれた木々が、どこか嬉しそうに枝を伸ばしています。
ふと、指先に光を感じました。
首もとのペンダント――あの“暦石”が、朝の光を受けて柔らかく輝いています。
「昨日はあんなに冷たかったのに……」
光の反射に思わず微笑んでしまいます。
まるで石が「もう寒くないね」と言っているようでした。
~~~~~~~~~~
食堂へ降りると、既にライナルト様が席に座っていました。
鎧ではなく、軽装のシャツ姿。いつもより柔らかな印象です。
「おはようございます、ライナルト様」
「よく眠れたか?」
「はい。あの……昨日のこと、本当にありがとうございました」
「礼を言うな。むしろ迷惑をかけたのは俺の方だ」
彼は湯気の立つカップを取り上げながら、ほんの少し苦笑しました。
「戦場より吹雪の方が手強いとはな。……少し、油断した」
「もう、そんなことを。あなたはいつも自分を責めすぎです」
「癖だ。部下にもよく言われるよ」
そう言って、わたしを見る目が一瞬だけ穏やかになりました。
その目に映る自分の姿が、少し誇らしくも感じます。
「花壇の芽がきれいに出ていたな」
「え? 見てくださったんですか?」
「ああ。朝の巡回ついでにな。もう少しすれば花が咲くだろう。……お前のように」
「え……い、いま、なんと……!」
熱いものが顔にのぼり、思わず俯きました。
けれど彼は気づかぬふりをして、紅茶を口に運びながら言葉を継ぎます。
「お前が来てから、この屋敷にも色がついた。感謝している」
静かに告げられたその言葉は、どんな宝石よりも尊く響きました。
わたしは胸の前でペンダントを握りしめ、そっと微笑みました。
「……この石も、喜んでいる気がします」
「暦石か?」
「はい。不思議なんです。あなたに拾われた夜から、時々こうして光るんです」
ライナルト様は、少し興味深そうにわたしの胸元を見つめました。
その視線がわたしの心臓のすぐ上に触れる気がして、呼吸が浅くなります。
「たしかに、古代王家に伝わる暦石には“感応”の力があると聞いた。
持ち主の情が強くなるほど、光の色が深くなる――」
「情……ですか?」
「……まあ、信じるかどうかは自由だがな」
彼の声がわずかに掠れていて、なぜだか心臓の奥がきゅっと縮まりました。
胸のあたりの光が、ほんの少し強くなる。まるで心拍に応じて脈動しているようでした。
~~~~~~~~~~
昼過ぎ。
庭で花の手入れをしていると、遠くから馬の蹄の音が響きました。
乾いた雪を踏みしめながら、屋敷の門前に兵士たちが現れます。
「王都からの使者だ!」
兵士たちの声に、胸がざわつきました。
「まさか……もうそんな……」
わたしが呟くより早く、ライナルト様は玄関へ出ていきました。
冷たい風が再び頬を撫でます。心の奥にしまったはずの不安が、呼び起こされるようでした。
王家の紋章を掲げた印章旗。
馬を降りた使者が、重々しい声で告げます。
「国王陛下の御勅命を伝える。――ライナルト=ヴァイスベルク将軍、王太子妃セリーナ殿下の護衛官として、王都に戻られたし。」
耳がおかしくなったのではと思いました。
言葉を理解するまで、少し時間がかかりました。
セリーナ。
義妹の、あの名前。
彼女が王太子妃として、王都に――。
そして、ライナルト様が、その護衛に……?
「……どうして……」
呆然とする私の耳に、静かな声音が届きました。
「陛下の命ならば、従うしかない」
いつもの落ち着いた声。けれど、その瞳の奥にはわずかな苦悩が見えました。
カーラさんがそっとわたしの肩に手を置きました。
「アメリア様……」
「……ええ、大丈夫です」
笑おうとしたけれど、うまくできませんでした。
ほころんだ花びらのように、気持ちが静かに崩れていく。
ライナルト様が屋敷を出る準備を進めているあいだ、私は震える手で花壇の土を揉みしめました。
白い花の根元に、光を反射する石の欠片が埋まっていました。
掘り出してみると、それはわたしのペンダントと同じ、25の文字を刻んだ暦石の欠片。
「……暦の神さま、教えてください。
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風に乗って、遠くの鐘の音が響きます。
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