【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい

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第11章 別離の朝

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 夜明け前の空は、淡い藍色に染まっていました。  
 雪嶺の上に小さく光る星がひとつ、まるで遅れて空を渡る灯のように瞬いています。

 王都へ向かう旅立ちの朝。  
 屋敷は静まり返っていて、遠くの馬小屋から時折聞こえる蹄の音だけが響いていました。

 寝室の窓から見える庭には、一輪の白い花。  
 昨日、ライナルト様が胸元に飾っていたものと、同じ花が夜露を抱いて咲いています。

「……きっと、無事ね」

 窓辺に手を置いた時、胸元のペンダントが微かに光りました。  
 あの日から何度も、運命の節目になるたびにこの“25の石”が灯り、わたしの背を押してくれた。

 ――25日の夜、必ず戻る。

 あの約束の言葉が、胸の奥で強く刻まれています。  
 けれど現実は、そんな祈りを試すように過酷です。

 夫々の兵士たちが忙しなく出立の支度をしていました。  
 わたしは深呼吸をして、笑顔の練習をしながら外へ出ました。


~~~~~~~~~~


 中庭では馬の嘶きが響き、白い息が立ち上っていました。  
 冬と春の境い目の風は冷たく、それでも少しだけ甘さを含んでいる。

「アメリア様、もう馬車の準備が整いました」

 カーラさんが教えてくれました。  
 彼女がわたしを見る目が、どこか心配そうに揺れています。

「泣かないでくださいね」
「泣きません。ちゃんとお見送りするんです」

 そう言っても、喉の奥が少し痛みました。

 その時、屋敷の門が音を立てて開きました。  
 黒い騎装のライナルト様が姿を見せます。  
 肩に羽織ったマントは風を受けて大きくなびき、淡い朝日を背負ったその姿は、まるで絵画のように美しかった。

「おはようございます、ライナルト様」

 わたしの声に、彼はゆっくりと振り向きました。

「ああ……早いな」
「お見送りだけでもと思って」

「寒くないか?」
「少し……でも、この空気が好きなんです。いつか、帰ってくる日の朝も、同じ空を見られたらって」

 その言葉に、彼は短く息をつき、ほんの少し笑いました。

「……お前らしいな」

 ライナルト様が馬の手綱を整えながら、低く言いました。

「王都での任務が長引いても、ここはお前の居場所だ。  
 俺の屋敷を、お前の家だと思え」

「――え?」

「お前が望むなら、いつでも帰ってこられる場所にしておく」

 わたしは思わず目を見開きました。  
 嬉しさと切なさが一緒に込み上げてきて、言葉がなかなか出てきません。

「……ありがとうございます。戻られるまで、この花たちを枯らさないようにします」
「きっと花の方が、お前を待っているだろう。」

 彼は手綱を引きながら、ふと懐から何かを取り出しました。  
 それは、小さな革の袋。  
 手のひらの中に差し出されたのは、銀色の鎖に吊られたペンダントでした。  
 中央には例の“25”を刻んだ暦石が埋め込まれています。

「これは……?」
「村の鍛冶師に頼んだ。お前のものと対になる石だ。  
 もし離れていても、互いが生きていれば淡く光るはずだ」

「……本当にそんなことが?」

「信じるかどうかは勝手にしろ」

 言葉はぶっきらぼうでも、目はやさしかった。  
 彼の長い指がわたしの首元へ伸び、そっとペンダントの留め金を指で整えました。

 指先が喉元をかすめ、心臓が跳ねる。  
 その距離の近さに、息を呑む音が聞こえてしまいそう。

「これでいい。……似合っている」

「ありがとうございます。……きっと、大切にします」

 わたしが両手でペンダントを押さえると、彼はほんのわずかに口角を上げました。  
 けれどその顔に差す光は、どこか寂しげでもありました。

「ライナルト様」

「なんだ」

「どうか……ご無事で。必ず、戻ってきてください。  
 25日の夜、またあの花の下で――お迎えしますから」

「約束だ。俺が破るわけがない」

 その言葉と共に、彼は馬に跨りました。  
 朝日にきらめく銀の鞍の上で、風がマントを膨らませます。  
 堂々としたその背中を見つめながら、胸の内で静かに願いました。

(どうか、神さま。あの方をお守りください。)

 蹄が雪を蹴立て、地面に音を残します。  
 小隊の列がゆっくりと門を抜け、遠ざかっていく。

「いってらっしゃい……」

 風が頬を撫で、まるで誰かが優しく答えてくれたような気がしました。  
 手を胸に当てると、ペンダントが淡い光を放っています。  
 ライナルト様の持つ対の石も、同じ色で輝いていると、そう信じたくなりました。

 いつか、またこの場所で笑い合えるように――。
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