【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい

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第16章 25日の満月

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 王都の空に、今年一番の満月が昇っていました。  
 暦の神に捧げる“月の祝宴”の日。  
 そして――25日。わたしの、生まれた日。

 城中が金色の光に包まれ、音楽と笑い声が響いています。  
 けれど、その華やかさとは裏腹に、胸の奥には静かな炎が灯っていました。

(運命を変える夜――母さん、見ていてください)

 薄桃色のドレスの裾を整え、髪に白い花を挿します。  
 鏡の中の自分はもう“地味な子爵令嬢”ではありません。  
 王家の血を受け継ぎ、そして自らの意志で立つ“暦の花嫁”でした。

 扉の向こうから、ライナルト様の声が聞こえます。

「……支度はできたか」
「はい。行きましょう。“真実を明かす夜”です」

 彼は頷き、静かに手を差し伸べてくれました。  
 その手を取った瞬間、月の光が二人を包みました。

 どんな運命でも、この手を離さない。  
 そう心の中で誓いながら、わたしたちは宴の間へと向かいました。


~~~~~~~~~~


 晩餐の広間は、まるで天上の世界のようでした。  
 壁に飾られた銀の装飾が光を反射し、床は鏡のように輝いています。  
 人々の視線が一斉に中央の玉座へと注がれました。

「王太子殿下、そして王妃殿下のご入場!」

 鼓の音が鳴り響き、二人が姿を現します。  
 セリーナは黄金のドレスをまとい、完璧な笑顔を浮かべていました。  
 その笑みを見ただけで、心の奥に冷たい記憶が蘇ります。

(もう、あの頃のわたしじゃない。今日は――終わりを告げる日)

 ライナルト様が隣で小さく囁きました。

「俺が合図を出す。王家の衛兵は信頼できる者に入れ替えてある」
「分かりました。証拠はここにあります」

 わたしは懐に、母の“暦日記”をそっと抱きしめました。  
 あの中にはすべてが記されています――母と王家の真実、そしてこの国を蝕む闇の血の記録が。

 宴が進むにつれ、ルキウス殿下の顔色がますます悪くなっていきました。  
 杯を手にした指が震え、視線が霞む。

「殿下……?」

 わたしが思わず一歩踏み出したその瞬間、ライナルト様の低い声が響きました。

「止まれ、誰も触れるなッ!」

 叫びと同時に、近くの従者が震え出しました。  
 セリーナの視線が一瞬だけ鋭く煌めく。  
 そして次の瞬間、殿下が崩れ落ちました。

「そんな……!」

 王妃席がざわめき、貴族たちが混乱する中、ライナルト様が剣を抜きます。  
 しかし、その声は凛として冷静でした。

「今、この場を鎮める! 毒を盛った者がいる。――衛兵、王妃殿下の杯を調べろ!」

 騒然とする中、セリーナは笑いました。  
 紅い唇が弧を描き、ひどく冷ややかに。

「まあ。将軍様、何を証拠にそんなことを? 王妃の名誉を泥に塗るおつもり?」

「お前の杯から、毒の匂いがした。それだけで十分だ」

「証拠もなく、王妃を罪人扱い? さすが冷たい将軍。氷は人の心も凍らせるのね」

 その言葉に、周囲の貴族たちが息をのむ。  
 けれど、わたしは一歩、前に出ました。

「では――証拠をお見せします」

 聖堂の鐘が鳴ったように、空気が一瞬止まりました。  
 わたしは壇上へと進み、胸から“暦日記”を取り出します。

「この書には、この国の真実が記されています。  
 かつて王家はひとりの王女を追放しました。  
 そして彼女の娘を、害するよう指示を出した者がいた。  
 その娘が――わたし、アメリア・クラインです」

 ざわめきが走り、誰もが口を開けてわたしを見ていました。  
 セリーナの顔から笑みが消えます。

「な、にを……」
「貴女の家が、母の記録を隠し、偽りの婚約を持ち込んだのです。  
 王太子殿下を我が一族の名誉のために手に入れるために」

 セリーナが顔を引きつらせました。  
 けれど、まだ勝ち誇ったように笑みを作ります。

「そんなもの、誰が信じるというの? その書も偽物かもしれないわ」

「偽物ではありません。これが――暦石の印です!」

 わたしが日記に手をかざすと、胸のペンダントの石が光り出しました。  
 同じ“25”の紋章が日記の装丁に浮かび上がり、眩い光が広間を照らしました。

 人々が息を呑む。  
 王族の証――暦石の輝きは、真なる血のみが呼び覚ませるもの。

 光の中で、ルキウス殿下がゆっくりと目を開きました。  
 まるで毒が消えたように、息を整えます。

「……アメリア……姫……?」

 その呼び名に、心臓が止まるかと思いました。  
 周囲がどよめき、セリーナは後ずさりました。

「な、なによこれ……そんな、はず……!」

 その肩に、ライナルト様の手が置かれます。  
 低く冷たい声が響きました。

「これが真実だ。お前の罪は、すべて明るみに出た」

 セリーナが崩れ落ちる。  
 周囲の兵たちが走り寄り、王の命で彼女はその場で拘束されました。

 騒めく場内の片隅で、ライナルト様が剣を収め、わたしのもとへ歩いてきます。  
 そして小さく微笑みました。

「よくやったな。……お前はもう、誰の影でもない」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かがほどけていきました。  
 わたしの中にずっとあった“恐れ”が、光に溶けて消えていく。

 満月の光が、静かに降り注いでいます。  
 25日に生まれた娘は、運命を変える。  
 ――母の言葉が、今ようやく形になったのです。

「母さん、見ていますか。わたし、やっと変えられました」

 ライナルト様がそっと手を伸ばし、わたしの肩に触れました。  
 そのぬくもりが、すべてを現実に引き戻してくれます。

「これが、“運命を変える”ということだな」
「はい。でも、隣にあなたがいたからです」

 目が合い、互いに微笑んだ瞬間――  
 月光が二人の間を包み込み、銀の風が花びらを舞い上げました。
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