【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい

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第15章 月下の誓い

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 王都の夜は、まるで息を潜めるように静まり返っていました。  
 昼間のざわめきも、庭園を包む高貴な香りも、すべて眠りについたみたいです。  
 けれど、わたしの胸の鼓動だけはなぜか眠ってくれませんでした。

「明日はもう、退けない……」

 机の上には、母の遺した“暦日記”。  
 その最終頁に記された言葉を何度もなぞります。

『真の運命は、血ではなく意思によって決まる。』

 その一行を読むたび、母の声が胸の奥で響くようでした。  
 ――だから、私はこの血を受け入れ、自分の手で運命を掴む。  
 それが母への、そして自分自身への誓いです。

「……ライナルト様に話さなきゃ。」

 決意を胸に、わたしは外套を羽織り、夜気の中へ足を踏み出しました。


~~~~~~~~~~


 王宮の庭園は月光に照らされ、白銀の世界のように静寂をたたえていました。  
 高い塔の影が伸び、風が草を撫でる音だけが響いています。

 そこに、黒い外套の人影がひとつ。  
 真っすぐ空を仰ぐ姿を見て、すぐに分かりました。

「……やっぱり、ここにいたのですね」

「アメリアか」

 振り向いたライナルト様の瞳が月光を反射し、淡い銀に輝いています。  
 その表情はいつもより優しく、どこか寂しげでした。

「眠れなかったのですか?」
「お前もだろう」

「はい。きっと今夜は、誰もが落ち着かない夜ですから」

 わたしが隣に立つと、風がふわりと髪を揺らしました。  
 視線を上げると、雲間から満月が覗いています。

「……綺麗ですね」
「ああ。25日の月だ」

 ライナルト様の声が静かに響きます。  
 思えば“25”という数字は、ずっとわたしたちを導いてきました。  
 出会いも、奇跡も、そして今日のこの瞬間も。

「ライナルト様。今日、母の“暦日記”をすべて読みました」

「そうか。何か分かったか?」
「ええ。母は王女だった。わたしはその血を継ぐ娘……でも、ただそれだけじゃありません」

 彼がわずかに眉をひそめます。  
 わたしは一歩、彼の方へ近づきました。

「母はこう書いていました。  
 “暦の神は、血を選ばない。人を選ぶのは、その意志。”と。  
 だから、わたしはもう――王女としてではなく、一人の人間としてこの運命と向き合います」

 月光の中で、ライナルト様の表情が少しだけ揺れました。  
 それは驚きでもあり、誇らしさでもあるように見えました。

「……お前は本当に強いな。最初に会った時とは別人のようだ」

「そう言われると、少し照れます」

「だが嬉しい。もう“守るべき誰か”ではなく、“共に戦う者”になったようで」

 その言葉に、胸の奥が暖かくなりました。  
 気がつけば、わたしは彼の外套の裾をそっと摘んでいました。

「……ねえ、ライナルト様」

「なんだ」

「この戦いが終わったら、あなたはどうしますか?」

「どう、とは?」

「戦が終わって、王家の真実も明かされて、すべてが落ち着いたら……」

 言葉が喉に詰まりました。  
 彼の瞳がまっすぐこちらを見ていたからです。  
 月の光が彼の髪を白く染め、胸が苦しいほどに眩しく見えました。

「……お前は?」
「わたしは……花を育てたいです。  
 辺境の地に戻って、春の風と花の香りに囲まれて暮らしたい。  
 でも、その隣に――」

 言葉を言い切る前に、あたたかな手がわたしの頬に触れました。

「それは、俺も願っていることだ」

「……え?」

「俺も同じだ、アメリア。」

 どこまでも低く、凛とした声。  
 その響きに、心臓が跳ね上がりました。

「王命に背くわけにはいかない。だが、戦いが終われば……俺はもう剣を置く。  
 そして、お前の隣で花を見たい。――たとえそれが、どんな小さな庭でも構わない。」

「……ライナルト様……」

 言葉が出ませんでした。  
 ただ頬に残るぬくもりが、胸の奥で何度も波を打つように広がっていきます。

「この手は、ずっとお前を守るためにある。  
 今の俺の願いは、それだけだ」

 気がつくと、涙が零れていました。  
 けれど、それは悲しみの涙ではありません。

「……そんなふうに言われたら、困ります。もう離れられなくなりますから」

「離れるつもりなどない」

 月光の下、ライナルト様がゆっくりとわたしを抱き寄せました。  
 胸の鼓動が重なり合い、時間が止まったように感じます。

「アメリア。お前がいたから、俺は変われた。  
 凍える夜に春を見つけられたのは――お前のせいだ」

「わたしこそ、あなたがいてくださったから……生きられました」

 互いの言葉が、吐息と混ざって夜に溶けていきました。  
 ほんの一瞬、彼の指がわたしの髪を撫で、優しく唇が触れました。

 月の光が滲んで、世界が白く霞みました。  
 その一瞬が夢なら、どうか永遠に醒めませんように。

 ――でも、これは夢ではない。確かな現実の誓い。

 離れる直前、ライナルト様が静かに囁きました。

「満月の晩、運命を変えるのは神じゃない。  
 俺たち自身だ。」

 そう言って、彼は微笑みました。  
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