【完結】25日に生まれた私は、運命を変える者――なんて言われても

朝日みらい

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第14章 真実の記録

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 夜の王都は、昼の華やかさを忘れたように静かでした。  
 宴の喧騒が嘘みたいに消え、月光が石畳を銀色に照らしています。  
 王宮の裏庭を抜けると、冷えた風が頬を撫でました。

(セリーナの笑み……あれは確信の笑顔。何かを隠してる)

 どうしてだろう。直感が警鐘を鳴らして止みません。  
 真実に近づくたび、背後から冷たい影が迫るような。それでも歩みを止められませんでした。

 あの晩餐のあと、ライナルト様は殿下の安否確認に向かい、わたしは“王妃付き従者”の名目で王宮に残りました。  
 ――それが、真実を知る始まりになるなんて、そのときは思いもしませんでした。


~~~~~~~~~~


 深夜。  
 王宮の図書塔の奥、王家の記録庫――“暦文の間”と呼ばれる区画。  
 王家の血統と暦神に関する古い記録が保管されていると聞きます。

「母がここにいたことがある……」

 幼い頃、母はよく“暦に選ばれた人々”の話をしてくれました。  
 王家と暦神との絆――それが国の礎だと。  
 でも実際、母が王家に仕えていたことなど、誰も信じてくれなかった。

 埃を払いながら棚を調べていると、目に入ったのは時間の止まったような木箱。  
 銀の飾りと“25”の刻印。心臓が跳ねました。

(この印章……私のペンダントと同じ)

 指先が震えて、思わず蓋を開けます。  
 中には古びた革装丁の書物――“二十五の暦日記”と印された表紙。  
 母の名が、柔らかな筆跡で記されていました。

「……母さん、本当に、ここにいたのね」

 喉の奥が震えました。  
 震える指でページをめくると、そこに書かれていたのは王家に関する驚くべき真実でした。

『王女セリシア、婚儀を前に神を欺く罪に問われる。  
 彼女が産んだ子は、王家に連なる血ながら、その存在を秘されねばならなかった。』

 文字が霞みました。  
 次の行を読み進めるのが怖かった。それでも目が離せません。

『その子こそ、暦の神が“25日に生まれし運命の娘”と呼んだ者。  
 名は――アメリア。』

 ――わたしの名前。

(まさか……)

 頭の中が真っ白になりました。  
 書物を抱きしめたまま、涙がぽろぽろと零れます。

 母、セリシア。  
 子爵の妻ではなく、かつて王家に生まれた“王女”だった。  
 そして、わたしは……王血を継ぐ“隠された娘”。

「じゃあ、わたしは――」

 何一つ知らずに“身代わりの花嫁”として笑っていた。  
 家族にも、民にも、王にも背を向けられた存在だったなんて。

 でも、母はこの真実を隠しながらも、あの言葉を残してくれた。

『25日に生まれた娘は、運命を変える力を持つ。』

 それが、母の願い。  
 “隠されるだけの人生”で終わらせたくなかったから。

(……変えなくちゃ。母ができなかったことを)

 泣きながら、そう胸に刻みました。


~~~~~~~~~~


 日が昇る少し前。  
 記録を抱えたまま部屋に戻ると、ライナルト様が待っていました。

 鎧の胸元を外し、疲労を隠さない表情。  
 それでも彼の瞳はいつものように穏やかで、わたしを見て微かに笑いました。

「探しに行ったか。……無事でよかった」

「すみません、心配をかけてしまって。でも……どうしても確かめたくて」

 わたしは日記を差し出しました。  
 息を呑む音が静寂の中に響き、彼の眉がわずかに動きました。

「これは……」
「母の遺したものです。王家の記録に保管されていました」

「お前の母上が、王族……。まさか――」
「はい。私は……王家の血を引く“隠された娘”でした」

 その瞬間、彼の手が止まりました。  
 沈黙が降りる。冷たい夜の空気の中、その言葉の重さだけが響きました。

 やがてライナルト様は深く息を吐き、小さく笑いました。

「……ようやく繋がったな。お前が王都に巻き込まれる理由が。」

「驚かないんですか? ずっと隠されていた、罪の血筋ですよ」

「罪でも何でもない。お前が誰であろうと、今のアメリアであることに変わりはない。  
 俺が惹かれているのは……そこだ。」

「……ライナルト様」

 瞳の奥がじんわりと熱くなりました。  
 その声が優しすぎて、心の奥まで染み渡っていきます。

 どうしてこの人は――こんなにもまっすぐに人を信じるのだろう。  
 いつか氷の将軍と呼ばれた人が、こんなにも温かい言葉をくれるなんて。

「でも、これで分かったことがあります」

「何だ?」

「セリーナの家が、母の存在を隠すために動いていた。  
 王家の座を手に入れるためなら、私を犠牲にしてでも真実を握り潰したい。  
 だから――あの人は、最初から私を王太子殿下の“身代わり”に仕立てたんです」

「……なるほど」

 ライナルト様の瞳の奥に、冷たい光が灯りました。  
 それは戦場に立つ者の鋭さ。けれど、わたしはどこか心強くさえ感じる。

「ならば、これからは俺が正す。真実を暴くには、証が必要だ。それがその日記だな」

「はい。母が残してくれた最後の証です」

「アメリア。覚悟はあるか?」

「ええ。25日の満月の夜に、すべてを明かします」

 その言葉に、彼はゆっくりと頷きました。  
 そして静かにわたしの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で告げます。

「お前はもう、運命に流される娘じゃない。  
 神が与えた“暦の花嫁”という名を、自分の手で刻め。」

 胸の奥が音を立てて震えました。

 一晩中泣き疲れたはずなのに、今は涙が出ません。  
 ただ、あたたかい光が心の奥を満たしていました。

「……ありがとうございます。ライナルト様がいるなら、どんな真実でも怖くありません」

 窓の外では朝陽が昇り始めていました。  
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