14 / 20
第14章 真実の記録
しおりを挟む
夜の王都は、昼の華やかさを忘れたように静かでした。
宴の喧騒が嘘みたいに消え、月光が石畳を銀色に照らしています。
王宮の裏庭を抜けると、冷えた風が頬を撫でました。
(セリーナの笑み……あれは確信の笑顔。何かを隠してる)
どうしてだろう。直感が警鐘を鳴らして止みません。
真実に近づくたび、背後から冷たい影が迫るような。それでも歩みを止められませんでした。
あの晩餐のあと、ライナルト様は殿下の安否確認に向かい、わたしは“王妃付き従者”の名目で王宮に残りました。
――それが、真実を知る始まりになるなんて、そのときは思いもしませんでした。
~~~~~~~~~~
深夜。
王宮の図書塔の奥、王家の記録庫――“暦文の間”と呼ばれる区画。
王家の血統と暦神に関する古い記録が保管されていると聞きます。
「母がここにいたことがある……」
幼い頃、母はよく“暦に選ばれた人々”の話をしてくれました。
王家と暦神との絆――それが国の礎だと。
でも実際、母が王家に仕えていたことなど、誰も信じてくれなかった。
埃を払いながら棚を調べていると、目に入ったのは時間の止まったような木箱。
銀の飾りと“25”の刻印。心臓が跳ねました。
(この印章……私のペンダントと同じ)
指先が震えて、思わず蓋を開けます。
中には古びた革装丁の書物――“二十五の暦日記”と印された表紙。
母の名が、柔らかな筆跡で記されていました。
「……母さん、本当に、ここにいたのね」
喉の奥が震えました。
震える指でページをめくると、そこに書かれていたのは王家に関する驚くべき真実でした。
『王女セリシア、婚儀を前に神を欺く罪に問われる。
彼女が産んだ子は、王家に連なる血ながら、その存在を秘されねばならなかった。』
文字が霞みました。
次の行を読み進めるのが怖かった。それでも目が離せません。
『その子こそ、暦の神が“25日に生まれし運命の娘”と呼んだ者。
名は――アメリア。』
――わたしの名前。
(まさか……)
頭の中が真っ白になりました。
書物を抱きしめたまま、涙がぽろぽろと零れます。
母、セリシア。
子爵の妻ではなく、かつて王家に生まれた“王女”だった。
そして、わたしは……王血を継ぐ“隠された娘”。
「じゃあ、わたしは――」
何一つ知らずに“身代わりの花嫁”として笑っていた。
家族にも、民にも、王にも背を向けられた存在だったなんて。
でも、母はこの真実を隠しながらも、あの言葉を残してくれた。
『25日に生まれた娘は、運命を変える力を持つ。』
それが、母の願い。
“隠されるだけの人生”で終わらせたくなかったから。
(……変えなくちゃ。母ができなかったことを)
泣きながら、そう胸に刻みました。
~~~~~~~~~~
日が昇る少し前。
記録を抱えたまま部屋に戻ると、ライナルト様が待っていました。
鎧の胸元を外し、疲労を隠さない表情。
それでも彼の瞳はいつものように穏やかで、わたしを見て微かに笑いました。
「探しに行ったか。……無事でよかった」
「すみません、心配をかけてしまって。でも……どうしても確かめたくて」
わたしは日記を差し出しました。
息を呑む音が静寂の中に響き、彼の眉がわずかに動きました。
「これは……」
「母の遺したものです。王家の記録に保管されていました」
「お前の母上が、王族……。まさか――」
「はい。私は……王家の血を引く“隠された娘”でした」
その瞬間、彼の手が止まりました。
沈黙が降りる。冷たい夜の空気の中、その言葉の重さだけが響きました。
やがてライナルト様は深く息を吐き、小さく笑いました。
「……ようやく繋がったな。お前が王都に巻き込まれる理由が。」
「驚かないんですか? ずっと隠されていた、罪の血筋ですよ」
「罪でも何でもない。お前が誰であろうと、今のアメリアであることに変わりはない。
俺が惹かれているのは……そこだ。」
「……ライナルト様」
瞳の奥がじんわりと熱くなりました。
その声が優しすぎて、心の奥まで染み渡っていきます。
どうしてこの人は――こんなにもまっすぐに人を信じるのだろう。
いつか氷の将軍と呼ばれた人が、こんなにも温かい言葉をくれるなんて。
「でも、これで分かったことがあります」
「何だ?」
「セリーナの家が、母の存在を隠すために動いていた。
王家の座を手に入れるためなら、私を犠牲にしてでも真実を握り潰したい。
だから――あの人は、最初から私を王太子殿下の“身代わり”に仕立てたんです」
「……なるほど」
ライナルト様の瞳の奥に、冷たい光が灯りました。
それは戦場に立つ者の鋭さ。けれど、わたしはどこか心強くさえ感じる。
「ならば、これからは俺が正す。真実を暴くには、証が必要だ。それがその日記だな」
「はい。母が残してくれた最後の証です」
「アメリア。覚悟はあるか?」
「ええ。25日の満月の夜に、すべてを明かします」
その言葉に、彼はゆっくりと頷きました。
そして静かにわたしの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で告げます。
「お前はもう、運命に流される娘じゃない。
神が与えた“暦の花嫁”という名を、自分の手で刻め。」
胸の奥が音を立てて震えました。
一晩中泣き疲れたはずなのに、今は涙が出ません。
ただ、あたたかい光が心の奥を満たしていました。
「……ありがとうございます。ライナルト様がいるなら、どんな真実でも怖くありません」
窓の外では朝陽が昇り始めていました。
宴の喧騒が嘘みたいに消え、月光が石畳を銀色に照らしています。
王宮の裏庭を抜けると、冷えた風が頬を撫でました。
(セリーナの笑み……あれは確信の笑顔。何かを隠してる)
どうしてだろう。直感が警鐘を鳴らして止みません。
真実に近づくたび、背後から冷たい影が迫るような。それでも歩みを止められませんでした。
あの晩餐のあと、ライナルト様は殿下の安否確認に向かい、わたしは“王妃付き従者”の名目で王宮に残りました。
――それが、真実を知る始まりになるなんて、そのときは思いもしませんでした。
~~~~~~~~~~
深夜。
王宮の図書塔の奥、王家の記録庫――“暦文の間”と呼ばれる区画。
王家の血統と暦神に関する古い記録が保管されていると聞きます。
「母がここにいたことがある……」
幼い頃、母はよく“暦に選ばれた人々”の話をしてくれました。
王家と暦神との絆――それが国の礎だと。
でも実際、母が王家に仕えていたことなど、誰も信じてくれなかった。
埃を払いながら棚を調べていると、目に入ったのは時間の止まったような木箱。
銀の飾りと“25”の刻印。心臓が跳ねました。
(この印章……私のペンダントと同じ)
指先が震えて、思わず蓋を開けます。
中には古びた革装丁の書物――“二十五の暦日記”と印された表紙。
母の名が、柔らかな筆跡で記されていました。
「……母さん、本当に、ここにいたのね」
喉の奥が震えました。
震える指でページをめくると、そこに書かれていたのは王家に関する驚くべき真実でした。
『王女セリシア、婚儀を前に神を欺く罪に問われる。
彼女が産んだ子は、王家に連なる血ながら、その存在を秘されねばならなかった。』
文字が霞みました。
次の行を読み進めるのが怖かった。それでも目が離せません。
『その子こそ、暦の神が“25日に生まれし運命の娘”と呼んだ者。
名は――アメリア。』
――わたしの名前。
(まさか……)
頭の中が真っ白になりました。
書物を抱きしめたまま、涙がぽろぽろと零れます。
母、セリシア。
子爵の妻ではなく、かつて王家に生まれた“王女”だった。
そして、わたしは……王血を継ぐ“隠された娘”。
「じゃあ、わたしは――」
何一つ知らずに“身代わりの花嫁”として笑っていた。
家族にも、民にも、王にも背を向けられた存在だったなんて。
でも、母はこの真実を隠しながらも、あの言葉を残してくれた。
『25日に生まれた娘は、運命を変える力を持つ。』
それが、母の願い。
“隠されるだけの人生”で終わらせたくなかったから。
(……変えなくちゃ。母ができなかったことを)
泣きながら、そう胸に刻みました。
~~~~~~~~~~
日が昇る少し前。
記録を抱えたまま部屋に戻ると、ライナルト様が待っていました。
鎧の胸元を外し、疲労を隠さない表情。
それでも彼の瞳はいつものように穏やかで、わたしを見て微かに笑いました。
「探しに行ったか。……無事でよかった」
「すみません、心配をかけてしまって。でも……どうしても確かめたくて」
わたしは日記を差し出しました。
息を呑む音が静寂の中に響き、彼の眉がわずかに動きました。
「これは……」
「母の遺したものです。王家の記録に保管されていました」
「お前の母上が、王族……。まさか――」
「はい。私は……王家の血を引く“隠された娘”でした」
その瞬間、彼の手が止まりました。
沈黙が降りる。冷たい夜の空気の中、その言葉の重さだけが響きました。
やがてライナルト様は深く息を吐き、小さく笑いました。
「……ようやく繋がったな。お前が王都に巻き込まれる理由が。」
「驚かないんですか? ずっと隠されていた、罪の血筋ですよ」
「罪でも何でもない。お前が誰であろうと、今のアメリアであることに変わりはない。
俺が惹かれているのは……そこだ。」
「……ライナルト様」
瞳の奥がじんわりと熱くなりました。
その声が優しすぎて、心の奥まで染み渡っていきます。
どうしてこの人は――こんなにもまっすぐに人を信じるのだろう。
いつか氷の将軍と呼ばれた人が、こんなにも温かい言葉をくれるなんて。
「でも、これで分かったことがあります」
「何だ?」
「セリーナの家が、母の存在を隠すために動いていた。
王家の座を手に入れるためなら、私を犠牲にしてでも真実を握り潰したい。
だから――あの人は、最初から私を王太子殿下の“身代わり”に仕立てたんです」
「……なるほど」
ライナルト様の瞳の奥に、冷たい光が灯りました。
それは戦場に立つ者の鋭さ。けれど、わたしはどこか心強くさえ感じる。
「ならば、これからは俺が正す。真実を暴くには、証が必要だ。それがその日記だな」
「はい。母が残してくれた最後の証です」
「アメリア。覚悟はあるか?」
「ええ。25日の満月の夜に、すべてを明かします」
その言葉に、彼はゆっくりと頷きました。
そして静かにわたしの肩に手を置き、真っ直ぐな瞳で告げます。
「お前はもう、運命に流される娘じゃない。
神が与えた“暦の花嫁”という名を、自分の手で刻め。」
胸の奥が音を立てて震えました。
一晩中泣き疲れたはずなのに、今は涙が出ません。
ただ、あたたかい光が心の奥を満たしていました。
「……ありがとうございます。ライナルト様がいるなら、どんな真実でも怖くありません」
窓の外では朝陽が昇り始めていました。
0
あなたにおすすめの小説
◆平民出身令嬢、断罪で自由になります◆~ミッカン畑で待つ幼馴染のもとへ~
ささい
恋愛
「え、帰ってくんの?」
「え、帰れないの?」
前世の記憶が蘇ったニーナは気づいた。
ここは乙女ゲームの世界で、自分はピンク髪のヒロインなのだと。
男爵家に拾われ学園に通うことになったけれど、貴族社会は息苦しくて、
幼馴染のクローにも会えない。
乙女ゲームの世界を舞台に悪役令嬢が活躍して
ヒロインをざまあする世界じゃない!?
なら、いっそ追放されて自由になろう——。
追放上等!私が帰りたいのはミッカン畑です。
オネェ系公爵子息はたからものを見つけた
有川カナデ
恋愛
レオンツィオ・アルバーニは可愛いものと美しいものを愛する公爵子息である。ある日仲の良い令嬢たちから、第三王子とその婚約者の話を聞く。瓶底眼鏡にぎちぎちに固く結ばれた三編み、めいっぱい地味な公爵令嬢ニナ・ミネルヴィーノ。分厚い眼鏡の奥を見たレオンツィオは、全力のお節介を開始する。
いつも通りのご都合主義。ゆるゆる楽しんでいただければと思います。
虐げられてきた妾の子は、生真面目な侯爵に溺愛されています。~嫁いだ先の訳あり侯爵は、実は王家の血を引いていました~
木山楽斗
恋愛
小さな村で母親とともに暮らしていアリシアは、突如ランベルト侯爵家に連れて行かれることになった。彼女は、ランベルト侯爵の隠し子だったのである。
侯爵に連れて行かれてからのアリシアの生活は、幸福なものではなかった
ランベルト侯爵家のほとんどはアリシアのことを決して歓迎しておらず、彼女に対してひどい扱いをしていたのである。
一緒に連れて行かれた母親からも引き離されたアリシアは、苦しい日々を送っていた。
そしてある時彼女は、母親が亡くなったことを聞く。それによって、アリシアは深く傷ついていた。
そんな彼女は、若くしてアルバーン侯爵を襲名したルバイトの元に嫁ぐことになった。
ルバイトは訳アリの侯爵であり、ランベルト侯爵は彼の権力を取り込むことを狙い、アリシアを嫁がせたのである。
ルバイト自身は人格者であり、彼はアリシアの扱われた方に怒りを覚えてくれた。
そのこともあって、アリシアは久方振りに穏やかな生活を送れるようになったのだった。
そしてある時アリシアは、ルバイト自身も知らなかった彼の出自について知ることになった。
実は彼は、王家の血を引いていたのである。
それによって、ランベルト侯爵家の人々は苦しむことになった。
アリシアへの今までの行いが、国王の耳まで行き届き、彼の逆鱗に触れることになったのである。
馬小屋の令嬢
satomi
恋愛
産まれた時に髪の色が黒いということで、馬小屋での生活を強いられてきたハナコ。その10年後にも男の子が髪の色が黒かったので、馬小屋へ。その一年後にもまた男の子が一人馬小屋へ。やっとその一年後に待望の金髪の子が生まれる。女の子だけど、それでも公爵閣下は嬉しかった。彼女の名前はステラリンク。馬小屋の子は名前を適当につけた。長女はハナコ。長男はタロウ、次男はジロウ。
髪の色に翻弄される彼女たちとそれとは全く関係ない世間との違い。
ある日、パーティーに招待されます。そこで歯車が狂っていきます。
人形令嬢は暗紅の公爵に溺愛される
oro
恋愛
生まれた時から妹の代わりでしか無かった姉フィオラ。
家族から愛されずに育った少女は、舞台に立つ操り人形のように慎ましく美しい完璧な令嬢へと成長した。
全てを諦め、平穏な人生を歩むために。
妹の代わりに婚約させられた相手は冷淡で冷酷な「暗紅の白銀狼」と呼ばれる公爵様。
愛を知らない令嬢と公爵様のお話。
不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない
翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。
始めは夜会での振る舞いからだった。
それがさらに明らかになっていく。
機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。
おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。
そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?
転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます
山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった
「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」
そう思った時すべてを思い出した。
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ
私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない
バットエンド処刑されて終わりなのだ
こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった
さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる