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第18章 王と将軍の誓い
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数日後、王都に朝の鐘が鳴り響きました。
薄曇りの空に差し込む光が、白い塔の頂を黄金に染めています。
街は静かで、まるで嵐の後の世界のようでした。
セリーナが追放され、毒の騒動が収束してから、ようやく王宮にも落ち着きが戻ってきたようでした。
けれど、わたしの胸の中はまだ凪いでいません。
(今日が……最後の務め)
鏡の前で髪を整え、淡い青のドレスの襟を直しました。
裾には領地の花を刺繍した模様――カーラさんと村の人たちが贈ってくれたものです。
このドレスで王前に立つことが、わたしにとっての“けじめ”でした。
「アメリア。行くぞ」
扉の向こうから、いつもの低い声。
振り向くと、黒衣の軍装に身を包んだライナルト様が立っていました。
打って変わって彼の表情は穏やかで、どこか優しく微笑んでいます。
「緊張しているか?」
「少しだけ……でも、あなたがいてくだされば大丈夫です」
「言うようになったな」
微笑まれただけで、心がすっと落ち着いていきました。
短い沈黙のあと、彼はわたしの手に触れ、指先を軽く握りました。
「王への謁見が終わったら、話がある。覚えておけ」
「……はい?」
意味を問う間もなく、彼は静かに歩き出しました。
その背中を見ながら、胸の鼓動が少しずつ速くなるのを感じました。
~~~~~~~~~~
謁見の間。
天井に描かれた暦の壁画の下で、わたしはひざまずきました。
高台の玉座には、歳を重ねた国王―アルフレッド陛下。
深い金の瞳が、静かにわたしを見つめています。
「アメリア・クライン――いや、セリシア王女の娘、アメリア・アルステリア」
名前を呼ばれた途端、胸の奥が熱くなりました。
母の本当の姓。わたしが生涯知らずにいた“王家の名”。
「そなたの母セリシアは、己の信念のために宮廷を離れた。
だが彼女が残した心と記録は、この国の誇りであり、そなたがその証だ」
王の声は低く、それでいてあたたかでした。
頭を下げながら、涙が頬を伝うのをこらえられませんでした。
「陛下、私は……王家に戻るつもりはありません。
ただ、母の名を汚さず、誰かのために生きていきたいのです」
顔を上げると、陛下がやわらかく微笑まれました。
「その覚悟こそ、王家の血より尊い。……ならば、望むままに生きるがよい。
ただし、我が庇護の証として“王の娘”の名は授けておこう。
国のどこにいても、そなたはこの国に守られた者だ」
「……ありがとうございます。陛下」
胸の奥に満ちていく光を、静かに感じました。
母が愛したこの国で――やっと、自分の居場所ができたのです。
陛下が頷くと、ライナルト様が一歩前に出ました。
「陛下。もうひとつ申し上げたいことがあります」
「ほう? 将軍からとは珍しいな」
その声に、わたしは思わず身を正しました。
ライナルト様は王の前で膝をつき、堂々と宣言しました。
「私は、アメリア殿を自分の妻に迎えたいと願っております」
その言葉に、喉の奥から息が漏れました。
周囲の近侍たちが一斉にざわめき、その声が遠くに霞んでいく。
「妻、に……?」
思わず彼を見つめると、彼の青い瞳が直線的にわたしを射抜いていました。
どこまでもまっすぐで、熱のこもった視線。
「彼女は私を救ってくれた。氷のように冷めきった心を、溶かしてくれた。
この国を再び立て直すのなら、彼女のような“春”がそばに必要です。
私の剣と生涯を持って、彼女を守ることをここに誓います」
「……ライナルト様」
胸がいっぱいで言葉が出ませんでした。
目頭が熱くなり、視界の端が涙で滲んでいきます。
王はしばし沈黙したあと、深く頷きました。
「なるほど。氷の将軍が、春を選ぶか。
よかろう。アメリア、そなたはどうだ」
王の視線がわたしに向けられます。
鼓動がやかましいほど鳴り響き、胸の奥にひとつだけ確かな想いが残っていました。
「……はい。わたしも、ライナルト様と共にありたいと思います」
その瞬間、王が笑みを浮かべました。
「よい。ならば、この祝福をもって、二人の未来を認めよう。
――“暦の花嫁”は、運命を変える娘なり」
大広間に風が吹き抜け、壁画の暦神の瞳がきらめきました。
それはまるで、母が笑っているような光。
涙が頬を伝い、わたしは頭を下げました。
「ありがとうございます、陛下」
隣でライナルト様が静かに手を取ります。
その手を握り返した瞬間、あの日の寒い雪が遠くに溶けていく音がしました。
~~~~~~~~~~
謁見を終えて外に出ると、冬の名残を運ぶ風が吹いていました。
空の端には柔らかな春の色。
庭園の花々が、早くも芽を覗かせています。
「……これで、やっと終わったんですね」
「いや。ここから始まるんだ、アメリア」
ライナルト様がそう言って微笑みました。
その笑顔に、何度も見たはずの懐かしさがこもっていました。
「辺境に戻ったら、まずは花壇を作ろう。約束しただろう?」
「ええ。お花が咲いたら、いちばんに見せますね」
「その時までに式の準備も進めておこう」
「もう、先走りすぎです!」
思わず笑ってしまい、彼も小さく息を吐いて笑いました。
空に舞う白い花びらが、二人の間にふわりと舞い降ります。
わたしはその花弁を手のひらに載せ、小さく囁きました。
「25日は、やっぱり、運命の数字ですね」
「そうだな。俺が“妻を得る日”になるらしい」
軽く照れながらも彼が笑う姿に、胸が温かくなりました。
薄曇りの空に差し込む光が、白い塔の頂を黄金に染めています。
街は静かで、まるで嵐の後の世界のようでした。
セリーナが追放され、毒の騒動が収束してから、ようやく王宮にも落ち着きが戻ってきたようでした。
けれど、わたしの胸の中はまだ凪いでいません。
(今日が……最後の務め)
鏡の前で髪を整え、淡い青のドレスの襟を直しました。
裾には領地の花を刺繍した模様――カーラさんと村の人たちが贈ってくれたものです。
このドレスで王前に立つことが、わたしにとっての“けじめ”でした。
「アメリア。行くぞ」
扉の向こうから、いつもの低い声。
振り向くと、黒衣の軍装に身を包んだライナルト様が立っていました。
打って変わって彼の表情は穏やかで、どこか優しく微笑んでいます。
「緊張しているか?」
「少しだけ……でも、あなたがいてくだされば大丈夫です」
「言うようになったな」
微笑まれただけで、心がすっと落ち着いていきました。
短い沈黙のあと、彼はわたしの手に触れ、指先を軽く握りました。
「王への謁見が終わったら、話がある。覚えておけ」
「……はい?」
意味を問う間もなく、彼は静かに歩き出しました。
その背中を見ながら、胸の鼓動が少しずつ速くなるのを感じました。
~~~~~~~~~~
謁見の間。
天井に描かれた暦の壁画の下で、わたしはひざまずきました。
高台の玉座には、歳を重ねた国王―アルフレッド陛下。
深い金の瞳が、静かにわたしを見つめています。
「アメリア・クライン――いや、セリシア王女の娘、アメリア・アルステリア」
名前を呼ばれた途端、胸の奥が熱くなりました。
母の本当の姓。わたしが生涯知らずにいた“王家の名”。
「そなたの母セリシアは、己の信念のために宮廷を離れた。
だが彼女が残した心と記録は、この国の誇りであり、そなたがその証だ」
王の声は低く、それでいてあたたかでした。
頭を下げながら、涙が頬を伝うのをこらえられませんでした。
「陛下、私は……王家に戻るつもりはありません。
ただ、母の名を汚さず、誰かのために生きていきたいのです」
顔を上げると、陛下がやわらかく微笑まれました。
「その覚悟こそ、王家の血より尊い。……ならば、望むままに生きるがよい。
ただし、我が庇護の証として“王の娘”の名は授けておこう。
国のどこにいても、そなたはこの国に守られた者だ」
「……ありがとうございます。陛下」
胸の奥に満ちていく光を、静かに感じました。
母が愛したこの国で――やっと、自分の居場所ができたのです。
陛下が頷くと、ライナルト様が一歩前に出ました。
「陛下。もうひとつ申し上げたいことがあります」
「ほう? 将軍からとは珍しいな」
その声に、わたしは思わず身を正しました。
ライナルト様は王の前で膝をつき、堂々と宣言しました。
「私は、アメリア殿を自分の妻に迎えたいと願っております」
その言葉に、喉の奥から息が漏れました。
周囲の近侍たちが一斉にざわめき、その声が遠くに霞んでいく。
「妻、に……?」
思わず彼を見つめると、彼の青い瞳が直線的にわたしを射抜いていました。
どこまでもまっすぐで、熱のこもった視線。
「彼女は私を救ってくれた。氷のように冷めきった心を、溶かしてくれた。
この国を再び立て直すのなら、彼女のような“春”がそばに必要です。
私の剣と生涯を持って、彼女を守ることをここに誓います」
「……ライナルト様」
胸がいっぱいで言葉が出ませんでした。
目頭が熱くなり、視界の端が涙で滲んでいきます。
王はしばし沈黙したあと、深く頷きました。
「なるほど。氷の将軍が、春を選ぶか。
よかろう。アメリア、そなたはどうだ」
王の視線がわたしに向けられます。
鼓動がやかましいほど鳴り響き、胸の奥にひとつだけ確かな想いが残っていました。
「……はい。わたしも、ライナルト様と共にありたいと思います」
その瞬間、王が笑みを浮かべました。
「よい。ならば、この祝福をもって、二人の未来を認めよう。
――“暦の花嫁”は、運命を変える娘なり」
大広間に風が吹き抜け、壁画の暦神の瞳がきらめきました。
それはまるで、母が笑っているような光。
涙が頬を伝い、わたしは頭を下げました。
「ありがとうございます、陛下」
隣でライナルト様が静かに手を取ります。
その手を握り返した瞬間、あの日の寒い雪が遠くに溶けていく音がしました。
~~~~~~~~~~
謁見を終えて外に出ると、冬の名残を運ぶ風が吹いていました。
空の端には柔らかな春の色。
庭園の花々が、早くも芽を覗かせています。
「……これで、やっと終わったんですね」
「いや。ここから始まるんだ、アメリア」
ライナルト様がそう言って微笑みました。
その笑顔に、何度も見たはずの懐かしさがこもっていました。
「辺境に戻ったら、まずは花壇を作ろう。約束しただろう?」
「ええ。お花が咲いたら、いちばんに見せますね」
「その時までに式の準備も進めておこう」
「もう、先走りすぎです!」
思わず笑ってしまい、彼も小さく息を吐いて笑いました。
空に舞う白い花びらが、二人の間にふわりと舞い降ります。
わたしはその花弁を手のひらに載せ、小さく囁きました。
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