【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい

文字の大きさ
28 / 34

(28)

しおりを挟む
 やがて目の前まで来ると、彼はセーリーヌの手を取った。

 そして、優しく握りしめると真っ直ぐにこちらを見つめてきた。

「ありがとう……嬉しいよ」

 彼の口から発せられた言葉に胸がキュンとなるのを感じた──。

 そして、自然と涙が溢れてくる……。

 自分でも何故泣いているのかわからないのだが、止めることができなかった。

 そんな様子を見て心配したのだろう──。

 アドニス侯爵は心配そうな表情で問いかけてくる。

「大丈夫か? どこか具合が悪いのか?」

 そう言いながらも、ハンカチを取り出して涙を拭ってくれた。

 その優しさが心に染み渡るような気がした。

 この人は本当に素晴らしい人だ……。

「いいえ、大丈夫ですわ……ただ──」

 セーリーヌはそこで言葉を区切ると、思い切って言ってみた──。

「ただ、アドニス様に愛されたいと思っているだけ……」

 その言葉に彼は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに嬉しそうな笑顔を浮かべると抱きしめてくれた。

 暖かく心地好い感触に包まれる──そして、耳元で囁く声が聞こえた。

「ありがとう……私も君のことが好きだ」

 それを聞いた瞬間、何とも言えない幸せな気分になった──。

 幸せすぎてどうにかなってしまいそうだった。

 自然と涙が溢れてくる……アドニス侯爵はそんなセーリーヌを優しく慰めてくれた。

 その優しさに触れる度に彼女の心はますます彼に惹かれていったのである……。

(この方と一緒なら何があっても乗り越えられるわ……)

「政務で忙しくなって、きみに寂しい想いをさせた……許してくれよ」

 アドニス侯爵が謝ってくるが、セーリーヌは首を横に振った。

「いいえ……王都から実家からも離れて……二人きりで、ずっと一緒にいられるし……」

「ああ、もちろんだとも……。気兼ねなく愛せるな」

 その言葉には強い決意が感じられた──。

 アドニス侯爵は本気でこの城に留まり、セーリーヌと共に生きていくつもりなのだわ。

 彼の覚悟を感じ取り、嬉しさのあまり胸が熱くなる思いだった。

 彼はセーリーヌの首筋に口づけをしてきた。

 突然のことに驚きつつも受け入れていると、そのまま唇を重ねてくる──。

 今度は舌を絡めてきたので、彼女もそれに応えるように自分の舌を差し出した。

 しばらくの間、お互いに貪るような口づけを交わし続けた後で、ようやく解放された時にはすっかり息が上がっていた……。

「ああっ……」

 思わず切なげな声を上げてしまったことに恥ずかしくなっていると、アドニス侯爵は再び顔を近づけてきた。

 そして、耳元で囁くように言う。

「愛しているよ……セーリーヌ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

【完結】オネェ伯爵令息に狙われています

ふじの
恋愛
うまくいかない。 なんでこんなにうまくいかないのだろうか。 セレスティアは考えた。 ルノアール子爵家の第一子である私、御歳21歳。 自分で言うのもなんだけど、金色の柔らかな髪に黒色のつぶらな目。結構可愛いはずなのに、残念ながら行き遅れ。 せっかく婚約にこぎつけそうな恋人を妹に奪われ、幼馴染でオネェ口調のフランにやけ酒と愚痴に付き合わせていたら、目が覚めたのは、なぜか彼の部屋。 しかも彼は昔から私を想い続けていたらしく、あれよあれよという間に…!? うまくいかないはずの人生が、彼と一緒ならもしかして変わるのかもしれない― 【全四話完結】

冷徹文官様の独占欲が強すぎて、私は今日も慣れずに翻弄される

川原にゃこ
恋愛
「いいか、シュエット。慣れとは恐ろしいものだ」 机に向かったまま、エドガー様が苦虫を噛み潰したような渋い顔をして私に言った。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】貧乏子爵令嬢は、王子のフェロモンに靡かない。

櫻野くるみ
恋愛
王太子フェルゼンは悩んでいた。 生まれつきのフェロモンと美しい容姿のせいで、みんな失神してしまうのだ。 このままでは結婚相手など見つかるはずもないと落ち込み、なかば諦めかけていたところ、自分のフェロモンが全く効かない令嬢に出会う。 運命の相手だと執着する王子と、社交界に興味の無い、フェロモンに鈍感な貧乏子爵令嬢の恋のお話です。 ゆるい話ですので、軽い気持ちでお読み下さいませ。

初恋に見切りをつけたら「氷の騎士」が手ぐすね引いて待っていた~それは非常に重い愛でした~

ひとみん
恋愛
メイリフローラは初恋の相手ユアンが大好きだ。振り向いてほしくて会う度求婚するも、困った様にほほ笑まれ受け入れてもらえない。 それが十年続いた。 だから成人した事を機に勝負に出たが惨敗。そして彼女は初恋を捨てた。今までたった 一人しか見ていなかった視野を広げようと。 そう思っていたのに、巷で「氷の騎士」と言われているレイモンドと出会う。 好きな人を追いかけるだけだった令嬢が、両手いっぱいに重い愛を抱えた令息にあっという間に捕まってしまう、そんなお話です。 ツッコミどころ満載の5話完結です。

銀狼の花嫁~動物の言葉がわかる獣医ですが、追放先の森で銀狼さんを介抱したら森の聖女と呼ばれるようになりました~

川上とむ
恋愛
森に囲まれた村で獣医として働くコルネリアは動物の言葉がわかる一方、その能力を気味悪がられていた。 そんなある日、コルネリアは村の習わしによって森の主である銀狼の花嫁に選ばれてしまう。 それは村からの追放を意味しており、彼女は絶望する。 村に助けてくれる者はおらず、銀狼の元へと送り込まれてしまう。 ところが出会った銀狼は怪我をしており、それを見たコルネリアは彼の傷の手当をする。 すると銀狼は彼女に一目惚れしたらしく、その場で結婚を申し込んでくる。 村に戻ることもできないコルネリアはそれを承諾。晴れて本当の銀狼の花嫁となる。 そのまま森で暮らすことになった彼女だが、動物と会話ができるという能力を活かし、第二の人生を謳歌していく。

処理中です...