【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい

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(8)秘密の温室

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セリーヌが城の中を散策していると、ふと裏庭の奥にひっそりと建つ温室を見つけた。

誰もいないはずの場所から、微かに水音が聞こえる。

不思議に思いながら扉を押して中に入ると、ラウルが屈み込み、小さな植物に丁寧に水をやっている姿が目に入った。

普段の豪胆で屈強なイメージとは異なるその光景に、セリーヌは思わず足を止めた。  

「ラウルさん?」と声をかけると、彼は一瞬驚いたように顔を上げ、少し恥ずかしそうに笑った。  

「おや、君もここを見つけたのか。」

ラウルは水差しを置きながら立ち上がった。

「ここは私の隠れ家みたいなものだ。子供の頃から植物を育てるのが好きでね。」  

その言葉に、セリーヌの目は驚きで見開かれた。

無骨で力強いラウルが、こんな繊細な趣味を持っているとは全く想像もしていなかったからだ。  

「意外です。ラウルさんが植物を育てるなんて…」

セリーヌは温室を見回しながら言った。  

「そう思うだろうな。」

ラウルは苦笑いを浮かべ、手近な鉢を指差した。

「でも、こうやって静かに土をいじっていると、頭がすっきりするんだ。戦場でも緊張ばかりじゃ身がもたないからな。」  

その言葉には、彼の別の一面を垣間見るような深みがあった。

セリーヌはラウルに促され、温室内を一緒に歩き始めた。

彼が大切そうに見せてくれたのは、小さな白い花だった。  

「これは…?」とセリーヌが尋ねると、ラウルはどこか誇らしげに微笑んだ。  

「雪の花って呼ばれているんだ。寒い場所でも咲く強い花でね。美しいけど、どんな環境にも負けない。その姿が、なんとなく君に似ていると思った。」  

突然の言葉に、セリーヌの頬は熱くなり、彼の顔を直視できなくなった。

その真摯な口調と穏やかな眼差しが、彼女の心にじんわりと響いたからだ。  

「…そんなふうに言われたのは初めてです。」

セリーヌは小さな声で呟きながら、そっと花に触れた。

その瞬間、ラウルが大切に育てているものがどれほど繊細で、そして彼自身がどれほど温かい人間なのかを改めて感じた。  

---

ある夜、ラウルが突如「ダンスの練習をしよう」と提案してきた。

夕食後のくつろいだ時間帯にいきなりの提案だったため、セリーヌは目を瞬かせた。  

「ダンスの練習…ですか?」  

「ああ。今度の領主会議では、どうせ踊る場面があるだろうからな。」

ラウルはそう説明すると、大きな手を差し出してきた。  

「私、踊れるほど器用じゃないですよ。」

セリーヌはおずおずと答えたが、ラウルはにっこりと笑った。  

「私だって同じだ。でも、二人で練習すれば何とかなるだろう!」  

その自信満々な声に引きずられるように、セリーヌは彼の手を取った。

しかし、いざ踊り始めると、案の定ぎこちないステップが続き、何度も足を踏まれた。  

「す、すみません!」とラウルが謝るたびに、セリーヌは苦笑いしながらも、「大丈夫です。私も失敗してばかりですから。」と答えた。

それでも何度も繰り返すうちに、セリーヌは次第にリズムを掴み、少しずつ自然に動けるようになっていった。  

「ラウル、案外リズム感がいいですね。」  

「本当か?」

ラウルは驚いたように目を丸くし、少し得意げに笑った。

「いや、でも正直なところ、君の足を潰してないだけでも上出来だと思うが。」  

その言葉に、セリーヌはつい吹き出してしまった。

そんな冗談を交わしながら、二人は夜更けまで練習を続けた。

温かな灯りが揺れる広間で、ぎこちないステップを繰り返しながらも笑い合う二人の姿は、どこか幸せに満ちていた。  

練習が一段落し、二人が並んで腰を下ろすと、ラウルがふと真剣な表情でセリーヌを見つめた。  

「君が笑うと、どんな音楽よりも美しい。」  

その不意打ちのような言葉に、セリーヌは胸が高鳴るのを感じた。

驚いて彼を見つめると、ラウルは照れ隠しのように視線を逸らしながら小さく笑った。

その瞬間、セリーヌは彼がどれほど自分を大切に想っているのかを、はっきりと感じ取ることができた。
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