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(7)距離が縮まる日々
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セリーヌの城での生活も少しずつ落ち着き始めたある日、ラウルが突然、大きな声で「今日は私が料理を振る舞う!」と宣言した。
その声は堂々としていて、まるで戦場にでも赴くかのような勢いだった。
彼の表情にはやる気がみなぎっていたが、セリーヌの胸中には小さな不安がじわじわと広がっていく。
何しろ、普段からラウルの手先の不器用さには定評があるのだ。
「大丈夫ですか?」
セリーヌは半ば呆れたように問いかけた。
「火事にならないようにお願いしますね。」
「おいおい、私を何だと思っているんだ?」
ラウルは胸を張り、頼もしそうな表情を見せた。
「料理なんて簡単だよ!見ていろ、君を驚かせてやる!」
しかし、彼の言葉とは裏腹に、台所からは早速妙な音が聞こえ始めた。
ガタガタと何かが倒れる音、鍋がボコボコと沸き立つ音、そして、最後には「うわっ!」というラウルの叫び声が響く。
セリーヌは嫌な予感に駆られ、慌てて台所へ駆けつけた。
目に飛び込んできた光景は、想像以上の混沌だった。
鍋の中では、赤黒い何かが泡を立てながら煮立っている。
それが何なのか見当もつかない。
ラウルは鍋の前で腕を組み、困惑した様子で立ち尽くしていた。
「これは…何ですか?」
セリーヌは恐る恐る尋ねた。
「ビーフシチューだ!」
ラウルは得意げに胸を張る。
しかし、その言葉を聞いたセリーヌは、思わず顔をしかめてしまった。
「どの辺が、ですか?」
彼女の声には呆れが滲んでいたが、同時に笑いをこらえきれない様子も伺えた。
「見ればわかるだろう?」
ラウルは一生懸命弁解しようとしたが、その目にはどこか自信なさげな光が宿っている。
セリーヌは深く息をつき、鍋の中身に目をやった。
確かに彼の料理の腕は壊滅的だったが、額に浮かんだ汗や真剣な表情を見ると、その努力だけは本物だと分かった。
「…まあ、努力は認めます。」
セリーヌは微笑みを浮かべつつ、鍋を片付ける準備に取り掛かった。
「でも、今夜の夕食は召使いに任せたほうがよさそうですね。」
ラウルは少し肩を落としたが、すぐに笑顔を見せた。
「次回はもっと上手くやるさ!」
その自信満々な発言に、セリーヌは肩をすくめながらも思わず笑った。
「次回の前に、練習を少しお願いしたいものです。」
---
別の日、ラウルが珍しく城下町に行くと言い出した。
普段、城からあまり外に出たがらない彼の行動に、セリーヌは少し驚いたが、特に理由を尋ねることなく見送った。
帰宅したラウルは、大きな包みを抱えて戻ってきた。
どこか得意げな様子で、セリーヌの前に立ち、「これを君に買ってきたんだ」と包みを差し出した。
セリーヌが包みを開けると、中からは少し派手な色合いのストールが現れた。
その明るい色彩と大胆な模様に、彼女は思わず笑いがこぼれた。
「これ、少し派手ですね。でも…ありがとうございます。」
「いや、城下の店の娘に『傷を隠せる素敵なもの』を聞いたら、これを勧められてな!」
ラウルは得意そうに話したが、その言葉を聞いたセリーヌの胸はじんわりと温かくなった。
彼が自分のためにわざわざ買い物をし、傷を気にしなくて済むように考えてくれた。
その優しさが嬉しかったのだ。
セリーヌはストールを肩にかけてみた。
「どうですか?似合いますか?」
ラウルの目がぱっと輝き、彼は大きく頷いた。
「似合うとも!ほら、まるで女神のようだ。」
「あの…女神はこういう柄は着けないと思いますけど。」
セリーヌはくすりと笑いながら言った。
その言葉に、ラウルも思わず笑い出し、二人は顔を見合わせて笑い続けた。
その瞬間、セリーヌは久しぶりに心の底から暖かさを感じた。
ラウルの不器用で愛情深い行動が、彼女の心を少しずつ癒していくのを彼女自身も実感していた。
その声は堂々としていて、まるで戦場にでも赴くかのような勢いだった。
彼の表情にはやる気がみなぎっていたが、セリーヌの胸中には小さな不安がじわじわと広がっていく。
何しろ、普段からラウルの手先の不器用さには定評があるのだ。
「大丈夫ですか?」
セリーヌは半ば呆れたように問いかけた。
「火事にならないようにお願いしますね。」
「おいおい、私を何だと思っているんだ?」
ラウルは胸を張り、頼もしそうな表情を見せた。
「料理なんて簡単だよ!見ていろ、君を驚かせてやる!」
しかし、彼の言葉とは裏腹に、台所からは早速妙な音が聞こえ始めた。
ガタガタと何かが倒れる音、鍋がボコボコと沸き立つ音、そして、最後には「うわっ!」というラウルの叫び声が響く。
セリーヌは嫌な予感に駆られ、慌てて台所へ駆けつけた。
目に飛び込んできた光景は、想像以上の混沌だった。
鍋の中では、赤黒い何かが泡を立てながら煮立っている。
それが何なのか見当もつかない。
ラウルは鍋の前で腕を組み、困惑した様子で立ち尽くしていた。
「これは…何ですか?」
セリーヌは恐る恐る尋ねた。
「ビーフシチューだ!」
ラウルは得意げに胸を張る。
しかし、その言葉を聞いたセリーヌは、思わず顔をしかめてしまった。
「どの辺が、ですか?」
彼女の声には呆れが滲んでいたが、同時に笑いをこらえきれない様子も伺えた。
「見ればわかるだろう?」
ラウルは一生懸命弁解しようとしたが、その目にはどこか自信なさげな光が宿っている。
セリーヌは深く息をつき、鍋の中身に目をやった。
確かに彼の料理の腕は壊滅的だったが、額に浮かんだ汗や真剣な表情を見ると、その努力だけは本物だと分かった。
「…まあ、努力は認めます。」
セリーヌは微笑みを浮かべつつ、鍋を片付ける準備に取り掛かった。
「でも、今夜の夕食は召使いに任せたほうがよさそうですね。」
ラウルは少し肩を落としたが、すぐに笑顔を見せた。
「次回はもっと上手くやるさ!」
その自信満々な発言に、セリーヌは肩をすくめながらも思わず笑った。
「次回の前に、練習を少しお願いしたいものです。」
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別の日、ラウルが珍しく城下町に行くと言い出した。
普段、城からあまり外に出たがらない彼の行動に、セリーヌは少し驚いたが、特に理由を尋ねることなく見送った。
帰宅したラウルは、大きな包みを抱えて戻ってきた。
どこか得意げな様子で、セリーヌの前に立ち、「これを君に買ってきたんだ」と包みを差し出した。
セリーヌが包みを開けると、中からは少し派手な色合いのストールが現れた。
その明るい色彩と大胆な模様に、彼女は思わず笑いがこぼれた。
「これ、少し派手ですね。でも…ありがとうございます。」
「いや、城下の店の娘に『傷を隠せる素敵なもの』を聞いたら、これを勧められてな!」
ラウルは得意そうに話したが、その言葉を聞いたセリーヌの胸はじんわりと温かくなった。
彼が自分のためにわざわざ買い物をし、傷を気にしなくて済むように考えてくれた。
その優しさが嬉しかったのだ。
セリーヌはストールを肩にかけてみた。
「どうですか?似合いますか?」
ラウルの目がぱっと輝き、彼は大きく頷いた。
「似合うとも!ほら、まるで女神のようだ。」
「あの…女神はこういう柄は着けないと思いますけど。」
セリーヌはくすりと笑いながら言った。
その言葉に、ラウルも思わず笑い出し、二人は顔を見合わせて笑い続けた。
その瞬間、セリーヌは久しぶりに心の底から暖かさを感じた。
ラウルの不器用で愛情深い行動が、彼女の心を少しずつ癒していくのを彼女自身も実感していた。
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