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59.私服。
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相澤和真は逸る気持ちを抑えながら靴箱へ向かう。
(帰ったら、汐音がいる!)
今ならバイクの免許を取ってまで会いに来た汐音の気持ちが分かる気がした。
もちろん、汐音ほど行動力は無いので、バイクに乗って会いに行くという発想には至らなかっただろう。
(? 何だ?)
靴を履き替え昇降口を出ると、校門を出た辺りで人が集まっている場所があった。特に女生徒達だ。キャッキャッと楽しそうに騒ぐ声が聞こえてくる。男達はチラッと見て通り過ぎていく。
「林間学校から今日帰って来たばかりなんでしょう? どうしたの?」
「相澤君に会いに来ちゃった?」
和真は他の男達と同じく通り過ぎようとしていたのだが、会話の中に自分の名前がある事に気づき足が止まる。
「汐音君の私服姿だ! 眼福!」
(え? 汐音だって⁈)
和真は慌てて人垣の間から覗き見る。
人だかりの向こうにいたのは、白のパーカーにジーンズ姿の汐音だった。どこにでもいるラフな格好なのに、赤煉瓦の壁を背に立っているだけで、雑誌の撮影でもしているように見えてしまう。相変わらず顔には作った笑みを張り付かせていた。
だが、突然、汐音がこちらへ顔を向けた。汐音の顔がまるで雲の間から陽が差し込んだように輝く。
「相澤先輩!」
汐音の視線を追って、その場にいた者達が一斉に和真へ視線を向ける。
途端、旧約聖書に出てくるモーゼのように汐音の前にいた人達が道を開け、和真と汐音の間に道が現れた。
「!」
和真は無意識に逃げようと体を反転させた。
だが、汐音は驚くほど俊敏な動きを見せた。獲物を狩る獣のように、あっと言う間に和真の体を横から捕えてしまった。その衝撃で和真の口から内臓が飛び出しそうになる。
「うおっ!」
「ただいま! 先輩!」
まるでタックルでもかけたかのように、汐音は和真の腰を両腕でがっしりと掴んで離さない。
「汐音君、良かったね」
「汐音君は、相澤君と一緒にいると可愛いよね」
見知った顔が今の汐音の状態を、まるで幼い子供でも見ているかのような感想を口にしている。汐音を囲んでいたのは、和真の同級生達だったようだ。
すでに見慣れた光景として認識されているらしく、和真と汐音を温かい目で見守っていた。
(ずっとおれの教室に来ていたのは、おれと一緒にいる事を公認にするためだったのか?)
もしすべて計算尽くだったとしたら、末恐ろしい男だ。和真は顔を引き攣らせて、汐音を見る。一方の汐音は、無邪気な顔をして和真を見上げていた。
「汐音君! 私にも抱きついてもいいよ~」
「それなら、私もいいよ!」
「私も!」
楽しそうに騒いでいる女達に汐音は顔だけ向ける。
「先輩方、さようなら。相澤先輩が来たので帰ります。また月曜日から教室に伺いますね」
「いいよ~。おいで。おいで」
「汐音君、またね。待ってるよ」
「汐音君、相澤君、バイバイ」
汐音は手を振り返すと、当然のように和真から鞄を取り上げる。
「もう鞄を持って充分歩けるぞ」
「持ちたいんです」
「……勝手にしろ」
「はい!」
本心では嬉しかったのに何故か口からは突き放すような言葉が出てしまい、居たたまれず和真が歩き出すと、汐音は歩調を合わせて横に並ぶ。校門から見えなくなった場所まで来ると、黙って歩いていた和真が口火を切った。
「……何で学校まで来てるんだ? びっくりするだろう! それに、今日ぐらい疲れているんだから、家で待っていろよ」
「まさか! 私に『待つ』選択肢は無いですよ。一分一秒でも早く和真さんに会いたかったのですから」
「おまえは、本当に……」
可愛いという言葉を和真はすんでのところで飲み込む。その代わり、自分のものより高い位置にある頭を子供にでもするように撫で回す。汐音は嫌がるでもなく、ニコニコとされるがままになっていた。
「……明日なんだけど、スーツを取りに行くんだが、おまえも一緒に行く?」
「愚問です。もちろん行きます。和真さんが行くところへはどこだってお供致します。でも、取りに行くだけなら、私が一人でバイクに乗って受け取って来ますが?」
「あ、いや、おれも行く。……確かめたい事があるんだ」
和真は表情を固くして答える。ある決断をしていたのだ。
「……」
ふと汐音が突然無言になった事に気付き、和真は首を僅かに傾ける。
「どうかしたのか?」
「抱き上げていいですか?」
言葉は質問形式だが、口調は抱き上げる気満々だった。和真は大きくため息を吐くと、まなじりを上げた。
「ダメに決まってるだろうが!」
相変わらずの汐音だった。
(帰ったら、汐音がいる!)
今ならバイクの免許を取ってまで会いに来た汐音の気持ちが分かる気がした。
もちろん、汐音ほど行動力は無いので、バイクに乗って会いに行くという発想には至らなかっただろう。
(? 何だ?)
靴を履き替え昇降口を出ると、校門を出た辺りで人が集まっている場所があった。特に女生徒達だ。キャッキャッと楽しそうに騒ぐ声が聞こえてくる。男達はチラッと見て通り過ぎていく。
「林間学校から今日帰って来たばかりなんでしょう? どうしたの?」
「相澤君に会いに来ちゃった?」
和真は他の男達と同じく通り過ぎようとしていたのだが、会話の中に自分の名前がある事に気づき足が止まる。
「汐音君の私服姿だ! 眼福!」
(え? 汐音だって⁈)
和真は慌てて人垣の間から覗き見る。
人だかりの向こうにいたのは、白のパーカーにジーンズ姿の汐音だった。どこにでもいるラフな格好なのに、赤煉瓦の壁を背に立っているだけで、雑誌の撮影でもしているように見えてしまう。相変わらず顔には作った笑みを張り付かせていた。
だが、突然、汐音がこちらへ顔を向けた。汐音の顔がまるで雲の間から陽が差し込んだように輝く。
「相澤先輩!」
汐音の視線を追って、その場にいた者達が一斉に和真へ視線を向ける。
途端、旧約聖書に出てくるモーゼのように汐音の前にいた人達が道を開け、和真と汐音の間に道が現れた。
「!」
和真は無意識に逃げようと体を反転させた。
だが、汐音は驚くほど俊敏な動きを見せた。獲物を狩る獣のように、あっと言う間に和真の体を横から捕えてしまった。その衝撃で和真の口から内臓が飛び出しそうになる。
「うおっ!」
「ただいま! 先輩!」
まるでタックルでもかけたかのように、汐音は和真の腰を両腕でがっしりと掴んで離さない。
「汐音君、良かったね」
「汐音君は、相澤君と一緒にいると可愛いよね」
見知った顔が今の汐音の状態を、まるで幼い子供でも見ているかのような感想を口にしている。汐音を囲んでいたのは、和真の同級生達だったようだ。
すでに見慣れた光景として認識されているらしく、和真と汐音を温かい目で見守っていた。
(ずっとおれの教室に来ていたのは、おれと一緒にいる事を公認にするためだったのか?)
もしすべて計算尽くだったとしたら、末恐ろしい男だ。和真は顔を引き攣らせて、汐音を見る。一方の汐音は、無邪気な顔をして和真を見上げていた。
「汐音君! 私にも抱きついてもいいよ~」
「それなら、私もいいよ!」
「私も!」
楽しそうに騒いでいる女達に汐音は顔だけ向ける。
「先輩方、さようなら。相澤先輩が来たので帰ります。また月曜日から教室に伺いますね」
「いいよ~。おいで。おいで」
「汐音君、またね。待ってるよ」
「汐音君、相澤君、バイバイ」
汐音は手を振り返すと、当然のように和真から鞄を取り上げる。
「もう鞄を持って充分歩けるぞ」
「持ちたいんです」
「……勝手にしろ」
「はい!」
本心では嬉しかったのに何故か口からは突き放すような言葉が出てしまい、居たたまれず和真が歩き出すと、汐音は歩調を合わせて横に並ぶ。校門から見えなくなった場所まで来ると、黙って歩いていた和真が口火を切った。
「……何で学校まで来てるんだ? びっくりするだろう! それに、今日ぐらい疲れているんだから、家で待っていろよ」
「まさか! 私に『待つ』選択肢は無いですよ。一分一秒でも早く和真さんに会いたかったのですから」
「おまえは、本当に……」
可愛いという言葉を和真はすんでのところで飲み込む。その代わり、自分のものより高い位置にある頭を子供にでもするように撫で回す。汐音は嫌がるでもなく、ニコニコとされるがままになっていた。
「……明日なんだけど、スーツを取りに行くんだが、おまえも一緒に行く?」
「愚問です。もちろん行きます。和真さんが行くところへはどこだってお供致します。でも、取りに行くだけなら、私が一人でバイクに乗って受け取って来ますが?」
「あ、いや、おれも行く。……確かめたい事があるんだ」
和真は表情を固くして答える。ある決断をしていたのだ。
「……」
ふと汐音が突然無言になった事に気付き、和真は首を僅かに傾ける。
「どうかしたのか?」
「抱き上げていいですか?」
言葉は質問形式だが、口調は抱き上げる気満々だった。和真は大きくため息を吐くと、まなじりを上げた。
「ダメに決まってるだろうが!」
相変わらずの汐音だった。
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