生まれる前から好きでした。

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58.運動場。

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 相澤和真はいつもより早く目を覚ました。
 今日は、三峰汐音が帰って来る日だ。どうしても朝からソワソワとした気持ちを落ち着ける事が出来ない。学校へ来てからは、気付けば視線は運動場へ向かう。汐音を乗せたバスが到着すれば、一年生達は一旦運動場に集まってから解散する事になっているからだ。

「……和真、嬉しそうだな?」

 休み時間、すでに恒例となっている福井奏と一緒に宿題をしていると、奏が和真の顔を覗き込んできた。
 どうやら顔に出ていたらしい。小恥ずかしく感じながらも視線はつい運動場へ向いてしまう。

「とうとうあいつが帰って来るんだな……」

 憮然とした口調でそう呟くと、奏は苛立たし気にガシガシと自分の頭を掻く。

「……何やってるんだ?」

 和真が面食らっていると、奏は恨めしそうにじっとりとした目で和真を見つめてくる。

「折角、和真と楽しく昼食が食べられるようになったのに……。あいつが戻って来たら、また昼休みはあいつと二人で食べるんだろう?」

 どこか諦めにも似た口調で奏がぼやく。奏の心中が分かるだけに言葉に詰まってしまう。
 奏のことは友人として大切に想っている。傷付けたくないし、幸せでいてほしい。

(誰も傷付けたくはない。どうすればいいんだろうな……)

 和真はまっすぐに奏を見る。

「……そうだな。昼休みはあいつと一緒だな。でも、奏、他の休み時間は、おれと一緒に宿題をするんだろ? おまえは全国大会を目指しているんだよな?」

 奏の瞳に和真の真剣な顔が映っている。

「……ああ。そうだ。全国だ。俺は、全国に行く」
「うん。応援してる。奏は、行くよ。全国大会に」

 そう断言すれば、突然感情を爆発させた奏が、和真に抱きついてきた。久しぶりのスキンシップに驚く。
 だが、以前に戻れたようで嬉しく感じる自分がいる。

(汐音が現れるまでは、奏がおれに人の温もりを教えてくれていたんだな……)

 そう思った途端、感謝の気持ちで胸が熱くなる。
 だが、奏が和真のことを友人以上に想っていると知ってしまった後では、このスキンシップを容易く受け入れてはいけない。

「おい! 離せ! 宿題が出来ないだろ!」
 
 気持ちを切り離し、奏の頭を掴んで離そうとするが、中々和真の体を離してくれない。凄い力だ。

「いい加減にしろよ! もう一緒に宿題しないからな!」

 そう言い切った途端、奏はパッと和真の体から腕を外した。

「……ほら、ちゃんと離したぞ」
「……うん。じゃあ、続きをしよう」
「へ~い」

 奏が少しふざけながら応じるのは、きっと本心を隠すためだろう。居心地が良かった奏の側は、今では苦い痛みを伴うようになってしまった。

(だからと言って、おれからこれ以上奏を突き放すことはできない。それに、奏がおれから離れて行ってしまっても、それを受け入れなくてはならない。おれは、汐音を選んだのだから……)

 奏と額を突き合わせて宿題を進める。お互い大切で、これほど近くにいるのに、ずいぶんと遠い存在になってしまったように感じた。
 
「あ、一年が戻って来た」

 誰の声だったのかは分からない。
 だが、和真は反射的に立ち上がり、窓から運動場を見下ろしていた。運動場へ体操服姿の一年が次々に集まって来る。その中から和真はすぐに汐音の姿を見つける。汐音もこちらを見上げていたからだ。遠くだというのに、汐音と目が合う。

(おかえり……)

 心の中で呟く。

『ただいま』

 汐音の声が聞こえた気がした。
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