生まれる前から好きでした。

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64.異母兄弟。

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 柔らかなシャンデリアの光に満ちた会場の中、相澤和真の心情などお構いなしに祝賀パーティーは進行していく。
 演奏が途切れた瞬間、司会者が声を張った。

「ではここで、真宮グループ CEOである真宮蓮しんぐうれんより、皆様へご挨拶がございます」

 その名を聞いた瞬間、和真の呼吸がひとつ浅くなる。
 会場もそれまで緩やかに流れていたざわめきが波のように引いていった。会場中央の一際明るいライトの下に、ゆっくりと一人の男が姿を現わす。
 髪を後ろに流し、上品な光沢のある深い色のスーツを纏ったその姿は、一歩ごとに空気の密度を変えていくようだ。わずかな微笑みさえ計算されているような完璧な姿に、視線という視線が彼に吸い寄せられていく。緊張とも期待ともつかない静けさが、会場を支配する。

 真宮蓮。真宮グループという巨大な企業の頂点に立つ男。

 これまでは写真でしかその姿を見たことがなかった。
 だが、目の前に立つ男は、四十をとうに過ぎているはずなのに、背筋は驚くほどまっすぐで、無駄のない体の線は鍛え上げられたアスリートを思わせる。立つだけで場を支配する、そんな“存在感”を放っていた。

(……あれが、おれの──)

 和真は言葉に到底できないほどの衝撃を受けていた。

「こんばんは」

 静かな会場中に真宮蓮の良く通る低い声だけが響く。

(え? この声は……)

 真宮蓮の声を聞くのは初めてだった。なのになぜか、聞いたことがあった。かなり特徴がある声なので、不思議と耳に残るのだ。聞き間違えることはないと言い切れる。

(どこでだ?)

 和真は思い出そうとした。

「皆さま、本日はお忙しい中、真宮グループ創立100周年の祝賀パーティーにご出席いただき、誠にありがとうございます」

 スピーチは進んでいく。
 だが、和真の意識は壇上の男の声に集中し、内容は何も入って来ない。

「この日を迎えられたことは、長年にわたりご支援くださったお客様、信頼を寄せてくださった関連企業の皆さま、そして共に歩んできた社員一人ひとりのおかげだと認識しております。心より感謝申し上げます」

 丁寧に言葉を紡ぎながら、壇上に立った真宮蓮はゆっくりと会場中に視線を巡らせている。

「!」

 思わず叫びかけた和真は、慌てて自分の口を両手で押さえた。

「和真さん?」

 汐音が心配そうに和真の顔を覗き込んで来たが、周りにいる他の人達は真宮蓮のスピーチに集中していて誰も気づいていない。和真は内心安堵するも心臓は胸から飛び出しそうなほどバクバクと脈打っている。

「ごめん。驚かせた。大丈夫……」

 不安そうにしている汐音の耳にそっと耳打ちし安心させる。
 そして、再び壇上へ視線を向けた。

(……まさか、あの男が)

 熱中症で倒れた男。和真が救急車を呼び、再び病院で再会した男。
 倒れていた時はともかく、再会した時も前髪を下ろし、ラフな姿しか見ていなかったので、すぐに思い出せなかったのだ。

(三十歳代にしか見えなかったのに。……!」

 まるで和真が思い出した事が分かったかのように、壇上にいる真宮蓮の視線がピタっと和真のいる方向で止まった。これほど大勢の人がいる中で、まるで狙いを定めたかのように。

(目が、合った……のか⁈)

 喉の奥が乾き、呼吸の仕方を一瞬忘れる。
 気のせいだと思った。
 だが、どうやら違うようだ。
 真宮蓮は、はっきりと和真を見ている。
 明らかに意志を持って、こちらに視線を向けていた。和真の心をかき乱しながら真宮蓮のスピーチは続く。

「今後も我が真宮グループを盛り立て、これからの未来を明るく変えていくものは“若い力”であると、強く感じています」

 和真をじっと見つめていた目が優しく細められた。

 “若い力”

 その言葉だけが、やけに胸に刺さった。まるで「お前のことだ」と言われたように。
 胸の鼓動が最高潮に達する。
 だが、この時、真宮蓮が見ている者に気付いた鳳蓮弥おおとりれんや緑川蒼蓮みどりかわあれんの二人も和真を見ていた。
 蓮弥は興味ありげに、一方の蒼蓮の視線は氷のように冷たく、あからさまに敵意を隠そうともしていなかった。
 その二人の様子を汐音だけは静かに脳裏に焼き付けていたのだった。
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