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63.パーティー。
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相澤和真と三峰汐音を乗せたタクシーが、パーティーのあるホテルの正面玄関に到着した。
辺りが薄暗くなっていく中で、まるで浮かびあがるようにホテルのエントランス一帯が温かな金色の光で満ち溢れている。その圧倒的な高級感が漂っている場所に、和真は緊張した面持ちで降り立った。わずかな冷気とともにスタッフの落ち着いた声が響き、和真達をホテルの中へと誘う。
「……何か、凄いんだけど。……うっ、帰りたい」
思わず弱音が口から零れ出た。
「大丈夫です。和真さんの側には、私がおります」
隣から聞こえてきた声に目を向けると、そこには汐音の端整な顔があった。微笑みを湛えた優しい眼差しにザワついていた心が僅かに収まっていく。
「そうだった。汐音が側にいてくれるんだったな」
自分に言い聞かせるように和真は呟いた。
一方の汐音は、年齢が一歳年下だという事が信じられないほど落ち着いた雰囲気を見せている。
「さあ、参りましょうか」
立ち止まってしまった和真の背にそっと手を当て、汐音が前へ進むように促してくる。
重厚な石造りの柱が静かに並ぶ間を通り、回転扉を抜けると、天井からは八角形のシャンデリアが柔らかな光を落としていた。ロビーに足を踏み入れた瞬間、世界の喧騒がすっと遠ざかった気がした。ホテルに染みついた時間そのものがゆっくりと息づいているようだ。
「和真様」
聞き覚えのある声がして、和真は辺りを見回す。真宮蓮の秘書の一人、宮田が歩み寄って来る。
「お待ちしておりました」
「宮田さん、今日はよろしくお願いします」
和真が挨拶すると、隣で立っていた汐音もそれに続く。
「お二人共、良くお似合いですね」
「あ、ありがとうございます」
隣にモデル並みにスーツを着こなす汐音がいる事もあり、少し恥ずかしいと思いながらも和真は感謝を伝える。
「さあ、こちらです」
宮田に連れられ、赤い絨毯が敷かれた階段を登る。靴の下からでも感じるふかふかの絨毯を踏みしめながら会場へと向かった。
「今日のパーティーは立食となっております。和真様は会場の雰囲気に慣れていただくために参加しておられるので、気楽に楽しんでください。恐らく声を掛けられる事もあると思いますが、その時に名前を尋ねられたら、和真様の本名をお伝えしていただいて問題ございません。もしこのパーティーに参加している理由を訊かれた場合は、CEOに招待していただいたと堂々とお答えしてください」
会場へ向かう道中、宮田は今日のパーティーについて詳しく説明をしてくれる。
二部制で、昼の部は、社員と取引先の代表者達が招待され、事業の功績や社員の表彰、今後のビジョンや取引先に向けた自社のブランディングなどを行っていたそうだ。
そして、この夜の部は、真宮グループ創立記念の祝賀パーティーらしく、グループ内の経営陣や関連会社の上層部だけでなく、名だたる企業家や政治家、海外の投資家まで参加しているらしい。
思った以上に広い会場の中、すでに着飾った大勢の人達が談笑しているようなあまりに華やかな雰囲気を見てしまうと、『気楽』とか、『楽しむ』と言われても、そんな余裕はなさそうだった。
「好きな飲み物だけ持って、開始まで少しお待ちください」
そう言って宮田が離れて行くと、出来るだけ目立たない場所へ移動する。
「和真さん、飲み物を取ってきますので、ここで待っていてくださいね」
「ああ、ありがとう」
離れて行く汐音の背中を不安な気持ちで見送り、そのまま会場を見渡す。
(こんなに規模が大きいなんて聞いてないぞ……)
食べるだけ食べて帰ろうなどと思っていたのだが、食べ物が並んだテーブルの近くには人が大勢いて、その中へ入って行かないといけないのかと考えるだけで気おくれしてしまう。
どうしたものかとしばらく眺めていると、和真と同年代の男達がいる事が分かった。
一人は上品な着物を着たご婦人と共に、同じ年頃の男を二人従えて、談笑している輪の中へ堂々と挨拶しながら渡り歩いている。
もう一人は華やかな衣装の美しいご婦人と一緒に男達に囲まれながら談笑していた。
「和真さん、オレンジジュースとウーロン茶のどちらがいいですか?」
汐音が両手に飲み物を持って戻って来た。汐音の顔を見ただけで、ホッと息をつく。無意識に固くなっていたようだ。やはり汐音が側に居るのと居ないのとでは全然気の持ちようが違う。
「もう間もなく始まります」
少しの間離れていた宮田が戻って来た。
「緊張します」
「ははは。大丈夫ですよ。私も側におりますので」
「そうなんですね! それは心強いです」
「……彼らが気になりますか?」
目ざとく和真の視線の先にいる人々の姿に気付いた宮田が訊ねてくる。
「ええ、まあ……」
ここで嘘をついても仕方が無いので、和真は正直に認めた。
「あちらで着物のご婦人と一緒に談笑されておられるのは、鳳蓮弥様、帝都院高校に通われている三年です。もう一人は、緑川蒼蓮様で。快成高校に今年入学されたばかりです」
(3年と1年? 蓮弥が兄で、蒼蓮が弟ってことか……?)
頭では会場にいるのだろうとは思っていた。
だが、実際に異母兄弟の存在を目の当たりにしてしまうと感情が追い付かない。
「蓮弥様のお母様は鳳財閥の令嬢の鳳蘭様です。そして、蒼蓮様のお母様は、大女優である緑川麗子様です」
さらに続いた宮田の説明で和真の胃がキリキリと痛んだ。
「和真さん、大丈夫ですか?」
汐音が些細な和真の心の揺れに気付き、耳元にそっと声を掛けてくる。
「……大丈夫だ」
「始まりますよ」
和真の声に被るように宮田が告げた。
辺りが薄暗くなっていく中で、まるで浮かびあがるようにホテルのエントランス一帯が温かな金色の光で満ち溢れている。その圧倒的な高級感が漂っている場所に、和真は緊張した面持ちで降り立った。わずかな冷気とともにスタッフの落ち着いた声が響き、和真達をホテルの中へと誘う。
「……何か、凄いんだけど。……うっ、帰りたい」
思わず弱音が口から零れ出た。
「大丈夫です。和真さんの側には、私がおります」
隣から聞こえてきた声に目を向けると、そこには汐音の端整な顔があった。微笑みを湛えた優しい眼差しにザワついていた心が僅かに収まっていく。
「そうだった。汐音が側にいてくれるんだったな」
自分に言い聞かせるように和真は呟いた。
一方の汐音は、年齢が一歳年下だという事が信じられないほど落ち着いた雰囲気を見せている。
「さあ、参りましょうか」
立ち止まってしまった和真の背にそっと手を当て、汐音が前へ進むように促してくる。
重厚な石造りの柱が静かに並ぶ間を通り、回転扉を抜けると、天井からは八角形のシャンデリアが柔らかな光を落としていた。ロビーに足を踏み入れた瞬間、世界の喧騒がすっと遠ざかった気がした。ホテルに染みついた時間そのものがゆっくりと息づいているようだ。
「和真様」
聞き覚えのある声がして、和真は辺りを見回す。真宮蓮の秘書の一人、宮田が歩み寄って来る。
「お待ちしておりました」
「宮田さん、今日はよろしくお願いします」
和真が挨拶すると、隣で立っていた汐音もそれに続く。
「お二人共、良くお似合いですね」
「あ、ありがとうございます」
隣にモデル並みにスーツを着こなす汐音がいる事もあり、少し恥ずかしいと思いながらも和真は感謝を伝える。
「さあ、こちらです」
宮田に連れられ、赤い絨毯が敷かれた階段を登る。靴の下からでも感じるふかふかの絨毯を踏みしめながら会場へと向かった。
「今日のパーティーは立食となっております。和真様は会場の雰囲気に慣れていただくために参加しておられるので、気楽に楽しんでください。恐らく声を掛けられる事もあると思いますが、その時に名前を尋ねられたら、和真様の本名をお伝えしていただいて問題ございません。もしこのパーティーに参加している理由を訊かれた場合は、CEOに招待していただいたと堂々とお答えしてください」
会場へ向かう道中、宮田は今日のパーティーについて詳しく説明をしてくれる。
二部制で、昼の部は、社員と取引先の代表者達が招待され、事業の功績や社員の表彰、今後のビジョンや取引先に向けた自社のブランディングなどを行っていたそうだ。
そして、この夜の部は、真宮グループ創立記念の祝賀パーティーらしく、グループ内の経営陣や関連会社の上層部だけでなく、名だたる企業家や政治家、海外の投資家まで参加しているらしい。
思った以上に広い会場の中、すでに着飾った大勢の人達が談笑しているようなあまりに華やかな雰囲気を見てしまうと、『気楽』とか、『楽しむ』と言われても、そんな余裕はなさそうだった。
「好きな飲み物だけ持って、開始まで少しお待ちください」
そう言って宮田が離れて行くと、出来るだけ目立たない場所へ移動する。
「和真さん、飲み物を取ってきますので、ここで待っていてくださいね」
「ああ、ありがとう」
離れて行く汐音の背中を不安な気持ちで見送り、そのまま会場を見渡す。
(こんなに規模が大きいなんて聞いてないぞ……)
食べるだけ食べて帰ろうなどと思っていたのだが、食べ物が並んだテーブルの近くには人が大勢いて、その中へ入って行かないといけないのかと考えるだけで気おくれしてしまう。
どうしたものかとしばらく眺めていると、和真と同年代の男達がいる事が分かった。
一人は上品な着物を着たご婦人と共に、同じ年頃の男を二人従えて、談笑している輪の中へ堂々と挨拶しながら渡り歩いている。
もう一人は華やかな衣装の美しいご婦人と一緒に男達に囲まれながら談笑していた。
「和真さん、オレンジジュースとウーロン茶のどちらがいいですか?」
汐音が両手に飲み物を持って戻って来た。汐音の顔を見ただけで、ホッと息をつく。無意識に固くなっていたようだ。やはり汐音が側に居るのと居ないのとでは全然気の持ちようが違う。
「もう間もなく始まります」
少しの間離れていた宮田が戻って来た。
「緊張します」
「ははは。大丈夫ですよ。私も側におりますので」
「そうなんですね! それは心強いです」
「……彼らが気になりますか?」
目ざとく和真の視線の先にいる人々の姿に気付いた宮田が訊ねてくる。
「ええ、まあ……」
ここで嘘をついても仕方が無いので、和真は正直に認めた。
「あちらで着物のご婦人と一緒に談笑されておられるのは、鳳蓮弥様、帝都院高校に通われている三年です。もう一人は、緑川蒼蓮様で。快成高校に今年入学されたばかりです」
(3年と1年? 蓮弥が兄で、蒼蓮が弟ってことか……?)
頭では会場にいるのだろうとは思っていた。
だが、実際に異母兄弟の存在を目の当たりにしてしまうと感情が追い付かない。
「蓮弥様のお母様は鳳財閥の令嬢の鳳蘭様です。そして、蒼蓮様のお母様は、大女優である緑川麗子様です」
さらに続いた宮田の説明で和真の胃がキリキリと痛んだ。
「和真さん、大丈夫ですか?」
汐音が些細な和真の心の揺れに気付き、耳元にそっと声を掛けてくる。
「……大丈夫だ」
「始まりますよ」
和真の声に被るように宮田が告げた。
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