生まれる前から好きでした。

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62.傷痕。

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 今までずっとそうだったかのように、自宅で三峰汐音と二人きりで食事をする。切り分けた肉を口に入れた途端、和真は目の色を変えた。

「これ、旨い!」

 肉は非常に柔らかく、トマトの酸味と野菜の旨味が合わさって、とても美味しかった。
 初めはおにぎりしか作れなかった汐音だったが、一緒に暮らすようになってからは料理のレパートリーも増えて、確実に腕を上げているようだ。

「良かった。お口に合ったみたいですね。豚肉と野菜をトマト缶で煮たものです」

 汐音は嬉しそうにフニャと顔を綻ばせている。

「今度、スパゲティーの上にこれをかけて欲しい」
「承知致しました」

 和真が希望を伝えると、汐音が穏やかに微笑む。
 何でも出来るのに、出会ってからずっとどこか余裕がないように思えていた汐音だったが、一緒に暮らすようになってからは、かなり落ち着きを見せるようになってきていた。

「……汐音が林間学校へ行っている間、時間の流れが異常に遅く感じたよ。一緒に暮らしていたからかな? 全く会わないのは一日だけだったのに、おまえが居ないのはやっぱり寂しかった」

 取り留めのない会話が楽しくて、つい思っていた事がスルリと口からこぼれ出た。汐音は喜ぶだろうと思っていたのだが、どうやら和真が思っていたのとは違う表情を見せる。
 一瞬、驚いたように瞠目した後、汐音はクシャっと顔を歪めたのだ。
 だが、どれほど歪めようと、汐音の魅力が損なう事は無かった。

「林間学校にいる間、和真さんと離れている状況が苦痛で、走ってでも帰ろうかとも考えましたが、距離もさることながら途中で抜けた事を和真さんが良く思われない事を考慮すると、最終日まで我慢し、皆とバスに乗って帰った方が確実に和真さんの元へ戻れ、『おかえり』をしてくださると判断したので耐えました」

 悩ましげに眉を寄せながら語り始めた汐音の姿に、和真はフォークに突き刺した肉を口の中に入れる寸前の状態で固まる。

(ダメだ! 全然落ち着けてない! 思考は暴走したままだった‼)

「……そ、そうか。良く頑張ったな」
「はい」

『おかえり』の約束をしておいて良かったと和真は胸を撫で下ろした。その後も、よもやま話に花を咲かせながら、汐音が作った料理を楽しく胃袋に収めていく。
 就寝前、和真はソファで寛いでいた。右足の方だけをソファの上に投げ出した状態で本を読んでいると、汐音が側に立つ気配がした。顔を上げると、風呂上がりの汐音が頭にタオルを被った状態でじっとこちらを見下ろしている。

「何?」
「痛みますか?」
「え? ああ、大丈夫。腫れていた時の癖で、つい足を上げているだけ。腫れも引いているし、もう走れる」

 そう言いながら、ズボンの裾を引き上げた。和真の右足には、マムシに噛まれた牙の痕がしっかりと残っていた。

(酷く腫れてどす黒く変色していた頃を思い出すと、ここまで治って良かった……)

 そんな事を考えていると、汐音がゆっくりと前かがみになりながら傷を覗き込んでくる。

「咬傷が残ってしまいましたね」

 深刻そうな表情を浮かべながらそっと指先で咬痕に触れる。
 そして、そのまま触れていた場所に顔を寄せ、舐めた。

「! ば、馬鹿! 何を……!」

 真っ赤になって和真は汐音の顔を強引に引き剥がした。

「傷痕が残らないようにおまじないを……、和真さん?」

 和真はソファからスクッと立ち上がると、大股で自室へ戻り、汐音の布団を持って出て来た。

「え? 和真さん、何を……」
「おまえは今日からここで寝ろ」

 そう宣言すると、元々汐音が寝るはずだった和式の部屋に汐音の布団をドンっと置いた。

「嫌です! 和真さんと一緒の部屋で寝させてください!」

 和真は腕を組んで汐音をねめつける。
 
「すでにおれは介護不要だ。今まで大儀であった」
「和真さーん!」

 背後から和真の名前を叫んでいる汐音を振り切り、自室へ戻った和真は鍵を閉めた。

「はあ~」

 まるで体中の空気をすべて吐き出すようなため息を吐くと、ベッドの上にゴロリと寝転がる。

「……これで、いいんだ。パーティーが終われば、あいつとの契約も終わりになるんだから」

 額の上に右腕を置き、和真は自分に言い聞かせるように呟いた。

(パーティーまであと三日か……)

 和真と汐音は、別々の部屋でお互いの事を想いながら悶々と長い夜を過ごしたのだった。
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