生まれる前から好きでした。

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69.強盗。

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 時の流れは速く、三峰汐音と出会ってからもう間もなく夏を迎えようとしていた。
 衝撃のパーティーが終わり、数日が過ぎた。残り一週間ほどで汐音はあのボロボロの自宅アパートへ戻ることになっている。

「汐音、……なんであんな遠い場所に住む事にしたんだ?」

 学校からの帰り道、和真と汐音は、いつものように並んでマンションへ向かっていた。

「家賃が驚くほど格安だったので」
「親に反対されたって言っていたよな? まさか、生活費をもらえていないとか?」

 今更な質問をする自分に和真は内心苦笑する。
 今まで、条件をクリアする度、生活が保障されてきた。必死で決められた成績をキープし、指定されたランクの学校へ入学することしか頭になかった。
 だが、今後、この束縛された道から抜けることを考えるようになって初めて家賃や生活費について真剣に考えるようになったのだ。

「いいえ。ちゃんと仕送りをしてもらっていますよ」

 汐音は『どうして今頃そんな事をきくのか』と、問うこともなく、素直に答えてくれる。
 和真は首を傾げる。『では、なぜ?』という和真の疑問に気付いたのか、さらに汐音は言葉を続けた。
 
「どんな時でも、すぐに動けるように。突然の出費に備えて置いているんです」

 当然のように答える。

「……だからバイクもすぐに購入出来たのか……」
「はい」

 和真の呟きに、汐音はにっこりと微笑む。和真はその顔をじっと見つめる。

(汐音の『どんな時』とは、おそらくおれに関連してるんだろうな。……バイクでさえ、離れていたおれの姿を見るためだけに購入したんだし……)

「……!」

 汐音がつんのめる。身体能力が高い汐音にしては珍しい事だった。

「おい! 大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です……」

 二人の視線は自然と汐音の足元に向けられた。汐音の靴紐が解けている。それを踏んづけたのが原因だった。

「和真様は先に部屋へ戻っていてください」

 汐音はしゃがみ込みながら和真を見上げる。

「え? 普通に待てるけど?」
「いいえ。和真さんの貴重な時間を奪うわけにはいきません!」

 あまりに真剣に言うので、和真は汐音の言うとおりにする。
 一人で先に部屋へ戻り、鍵を開け、扉を開ける。

「……っ!?」

 突然、背後から口を塞がれた。そのまま室内へ押し込まれる。

「騒ぐな!」
「へ~、やっぱ、玄関だけでも広いんだな!」

 背後から聞こえる声は二人。拘束している手を振り切ろうと激しく身を捩れば、リビングへと続く廊下の方へ突き飛ばされた。フルーリングの床に倒れ込む。うつ伏せになった和真の背中を思いっきり踏みつけてきた。胸が圧迫されて息が上手く出来ない。

「ぐっ……」
「おいおい、手間をかけさせるなよ。俺達は金が欲しいだけなんだよ。痛い目、みたくないだろ? 大人しくしておけよ。おぼっちゃん!」

 低く嗤う声が鼓膜を震わす。

(金? ……強盗……か?)

 髪を掴まれ無理やり立ち上がらされる。

「さあ! 早く金を出せよ! おまえがあの真宮グループの偉い奴の息子だって俺達は知ってるんだからな!」

(⁉ ……どうして、そんな事をこの男達が知っているんだ?)

 認知さえされていない上に、親友である奏にさえ言っていない事だった。背後を振り返れば、見るからにヤバい雰囲気の男が二人、玄関の方向を塞ぐように立っている。二人共、夏が近いというのに黒いフードを被り、黒いマスクをしている。手の甲や腕にそれぞれ刺青が見え隠れしている。

(逃げないと……)

 和真は震える脚で立ち上がる。部屋へ向かうと見せかけて身を翻し、目の前にいた男に体当たりをくらわし、一か八か玄関へ走った。

「何しやがる!」

 すぐに背後から別の男に腕を掴まれ、強引に後ろへ引き戻された。
 
「調子に乗ってんじゃねえよ!」

 腹部を思いっきり殴られた。吐き気を伴う痛みが全身を走り、視界がぐらりと揺れる。

(……くそっ……意識が……)

 痛みで視界が霞む中、玄関で扉が開く気配がする。

(ダメだ! 汐音まで危ない目に‼)

「し、汐音! 逃げ……ろっ‼」

 必死で声を出したにも関わらずドアは開き、汐音が玄関口に姿を現す。

「和真さん!!」

 二人の男の足元で腹を抱えて蹲る和真の姿を目に映した瞬間、汐音が疾風のように飛び込んで来る。

「和真さんに何をした!!」

 怒声とも叫びともつかぬ声が響いた。
 その瞳は尋常ではなかった。普段の穏やかさなど一切ない。体から溢れ出す相手を焼け尽くすほどの灼熱の怒りが汐音の体を一回り大きく見せる。
 その殺気に怯んだ男の一人が慌ててナイフを汐音に向けた。
 だが、汐音はその手首を一瞬で捉え、床に捻じ伏せる。その時、鈍く骨が折れる音がした。

「ぐあっ!」

 その様子に恐れを感じたのだろう。もう一人は仲間を置き去りにして慌てながら玄関へ逃げようと背を向けた。
 しかし、汐音は一人を押さえつけながら、低い姿勢から相手の腹部を蹴り上げる。

「ぐふっ!」

 蹴られた男はふらつきはしたが倒れずに踏みとどまった。
 だが、蹴られた事が屈辱だったらしく、この男の怒りに火をつけたようだった。憤怒で顔を紅潮させ、汐音に向かって殴りかかる。
 室内には怒声と悲鳴が響き渡った。
 和真は意識を朦朧とさせながら、汐音がまさに『鬼神』のように戦う姿を見つめていた。

(だ、ダメだ。これ以上は……)

「し、おん! ころ……すな!」

 叫んだ途端、殴られた腹部に痛烈な痛みを感じ、和真は背を丸め倒れ込んだ。

「和真さん‼」

 すぐさま汐音が駆け寄り、和真を抱き抱える。その腕の力強さを感じながら和真の意識はゆっくりと闇に落ちていった。
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