生まれる前から好きでした。

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75.罪と罰。

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 長い間、父親だと慕っていた人が兄だったなどと、すぐに受け入れられるものではない。
 緑川蒼蓮はほんの数分前まで父だと思っていた男を茫然と見つめる。

『悪をなす者は、必ず自分自身を傷つける』

 突然、ソクラテスの言葉が脳裏を過った。

(これは、……ぼくの罪に対する罰なのか?)

 まさにそのとおりだと思えた。
 罪を犯した者は、その身で償わなければならないのだろう。

(父親に愛されたくて、兄弟を蹴落としてやろうとしたら、自分は兄弟でさえなかったなんて……)

 あまりにも滑稽に思えた。

「……はは、…………あはは……あはははははは」

 突然、蒼蓮は狂ったように笑い始めた。
 そんな蒼蓮の姿を真宮蓮は無表情で見つめている。きっとこの男の中では、縁が切れた緑川親子の事など、忌み嫌う存在でしかないはずだ。

(僕は、一体何なんだ? 苦しい。苦しくてしかたがない。助けて……。助けてください! 誰か……)

 疲れ果て、笑うのを止めた蒼蓮に向かって唐突に真宮蓮が口を開いた。

「……君は、これからどうしたい?」

 落ち着いた声だった。
 言葉の意味を図りかね、声の主に虚な瞳を向ける。

「私は、和真からお願いをされている」

 見下すでもなく、嫌悪してもいないただ静かに蒼蓮を見つめていた。

「弟を救って欲しいと」
「……弟?」
「和真は今もまだ君のことを弟だと思っている」
「……教えなくていいんですか?」

 つい当てこするような問いが零れる。

「君はもう真宮とは何の関わりもない。今更、誰の弟かなど、どうでもいい話だ」

 真宮蓮の返答はにべもなかった。
 元々不要だと思ったものは、容赦なく切り捨てることが出来る男だった。
 自分の複雑な出生は決して蒼蓮の責任でも、ましてや罪ではない。
 だが、和真もまた、蒼蓮から恨まれる理由などまったく無かったのだ。
 自分が罪を犯した途端、まるで別次元へ飛ばされたような気分だった。 
 今まで兄弟だと思っていた人達が一瞬で兄弟ではなくなってしまったのだから。

「……何か危ない事に巻き込まれているかもしれないと心配していたよ。蒼蓮がこの事件に関係しているかもしれないと分かった上でね」
「…………え……?」

 思考が止まる。
 あれほど傷つけたのに?
 命を奪われかけたのに?

「和真は、そんな子なんだよ。君はあの子と話した事はあるのか?」

 始めて真宮蓮は蒼蓮に責めるような眼差しを向けた。蒼蓮は力なく首を振る。

「……僕は……何をどうすればいいのか、分からない……」

 震える声で、必死に絞り出す。

「……でも……和真……さんに……謝りたい。許されなくても……謝りたいです。弟として……」

 蓮は静かに目を閉じた。

「わかった。和真に伝えよう。会えるかどうかは、和真次第だが……」

 蒼蓮は素直に頷いたのだった。
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