生まれる前から好きでした。

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76.大人は勝手。

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 鳳蓮弥が和真の学校へ現れたその日の夕刻、血縁上の父である真宮蓮と実母の相澤梨紗の二人が揃って相澤和真の転居先のマンションに姿を現した。
 リビングにある白いL字型ソファに蓮と梨紗が並んで座り、梨紗の斜め前に和真は腰を下ろした。

(何なんだ。この恐ろしい状況は……)

 和真が恐々となっている間に、汐音は湯を沸かし、コーヒーを淹れてきた。テーブルの上に置かれたコーヒーカップからとても良い香りが漂ってくる。汐音はいつのまにか和真より美味しいコーヒーを淹れるようになっていた。
 だが、和真の前には、はちみつ入りのホットミルクが運ばれて来た。その理由は、今日は退院後初登校なので、念のため刺激は避けましょう、と過保護な汐音らしいものだった。

「……汐音、大丈夫だって! おれにもコーヒーを淹れてほしい」
「今日は我慢してください。明日はミルクコーヒーを淹れてさしあげますから」
「明日⁈ それもミルクコーヒー! 退院の時に、少しなら良いですよと、担当医が言っていたのに?」

 哀し気に汐音を見つめる。汐音が『うっ』と言葉に詰まり、動揺を見せる。

(あともう少しだ!)

 汐音が『仕方がないですね』と言いそうになったその時、汐音との攻防戦に何故か梨紗が口を挟んできた。

「和真、汐音くんはあなたの身を心配してくれているのよ。我儘を言うのはやめなさい」

 驚く事に、汐音を擁護する発言をしてきた。

(いつのまにか『汐音』と下の名前で呼んでいるし……。おれが知らない間に何かあったのか?)

「三峰くんに和真の事を任せて正解だったようだな。和真、一度任せると決めたのなら、その者を信じる事は上に立つ者には必要な要素だ」

 さらに蓮までもがごたいそうな言葉を並べ、汐音の肩を持つ。
 形勢不利と感じ取った和真は気持ちを切り替えるように二人に向き直った。

「……で、二人揃って、何の用?」

 憮然とした態度で和真が問えば、蓮と梨紗がお互い顔を見合わせる。

「?」

 首をかしげる和真に、梨紗が思いつめたような視線を向けてきた。梨紗が固い表情で口を開く。

「……聞いて欲しい事があるの」

 と言って、突然語り出したのだった。
 二人が帰った後、和真はソファの上でぐったりとうっぷしていた。

「……大丈夫ですか?」

 テーブルの上を片付け終えた汐音が、気遣わしげに声を掛けてくる。

「……大人って、勝手だよな……」

 顔を伏せたまま和真は独り言のように呟いた。

「……今頃になって、二人して『許してほしい』って、言われても……な」

 和真はゆっくりと身を起こした。視線は自分の手に向けたままで。

はおれが生まれてすぐにちゃんと認知していたとか知らなかったし、後継者争いなんか無くて、真宮グループを継ぎたければ継いだらいいとか、母さんが子育てと家事が壊滅的に下手くそだからお手伝いさんに頼った事を親父に知られたくなかったとか、おれにカッコイイ母親だと思われたいからブランドを立ち上げたとか……おれがこれまで必死でやってきたことはなんだったんだ……」

 体の奥から溢れ出すものをすべて吐き出すように和真はしゃべり続けた。

「……挙句の果てに、二人が愛し合って生まれたのがおれだとか、親父おやじは母さんにプロポーズをして逃げられたとか、今もまだ口説いているとか、臆面もなく息子に言うか?」

 ソファの前に膝を付き黙って聞いている汐音に視線を向ける。

「顔が真っ赤です事よ、和真さん」
「うるさい」

 意味ありげな笑みを浮かべている汐音の顔に、近くにあったクッションを掴むと強引に押し当てた。汐音が笑っているのが、クッションを通して振動が伝わって来る。汐音はゆっくりとクッションを退かすと、和真の隣に座ってきた。

「……寂しかったり、哀しかったり、不安だった事はすべて貴方が感じてきた事なので、二人がお話された事を無理してまですぐに受け入れなくてもいいんですよ」

 胸の奥にまで染み込んでくるような優しい声だった。

「……うん」

 和真は汐音の見かけによらず厚い胸元に頭を押し付けた。汐音の心臓の音が心地良い。

「言ったでしょ? 和真さんは愛されていると」

 そう言いながら汐音が和真を包み込むように抱きしめてくる。

「……ふん。年下のくせに生意気だな」

 顔を上げると、目の前に甘く緩んだ汐音の顔があった。

「ふふふ。魂経験が長いもので……」

 緩やかに弧を描く汐音の口に、和真は引き寄せられるように自分の唇でそっと触れる。汐音は一瞬ビクッと体を強張らせ、驚いた表情を見せた。
 だが、すぐにそのまま和真の頬を両手で包み込むと、和真の唇をまるで味わうかのような口づけをしてきた。和真が汐音の首に腕を回せば、汐音の腕は和真の腰に回る。和真より大きな手が和真の後頭部をしっかりと固定させると、さらに口付けを深くしてきたのだった。
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