生まれる前から好きでした。

文字の大きさ
17 / 77

17. 屋上。

しおりを挟む
 ガチャ

 鍵が開く音と共に、よどんだ空間に爽やかな風が吹き込んでくる。どのような手を使ったのか知らないが、三峰汐音は学校の屋上の扉の鍵を持っていた。

「勝手に持ってきていないですよ。ちゃんと許可は取っています」

 驚いている和真に、汐音は余裕のある笑みを浮かべてそう答えた。和真は汐音の後に続いて屋上に出る。

「何か、すごく暑いんだけど……」

 和真は右手を顔の上にかざし、眩しそうに目を細め空を仰いだ。まだ季節は春だというのに、屋上には日差しが容赦なく照り付けていて、思っていた以上に暑かった。

「和真さん! ここは気持ちがいいですよ!」

 日陰から汐音が嬉しそうに手招きをする。確かに、照り付ける日差しを避け、風が吹き抜けていく場所は快適だった。

「何かリクエストがあれば言ってください」

 手作りのおにぎりを和真の手に持たせながら汐音が嬉しそうに言う。和真は手の中のおにぎりを見つめた。不格好だった三角が、だんだんと上達してきている。汐音はまさに努力家だった。

(これも、おれの為なんだよな……)

「……無理してないか?」

 顔を上げ、汐音をまっすぐに見つめる。何を言われたのか理解出来なかったのか、汐音は一瞬キョトンとした表情を浮かべた。

「毎日、おにぎりを作ってきてくれているだろ?」

 和真の言葉に汐音が相好を崩す。

「無理なんかしてませんよ。私が和真さんの笑顔見たさに勝手にやっているだけです」
「うっ……」

 楽しそうな声で応じる汐音の顔があまりに眩しすぎて正視できない。再び視線を手にしているおにぎりに向ける。

「……汐音、一年は林間学校には行かないのか?」
「行きます。来月の始めに二泊三日だそうです。はっきり言って、行きたくないです」

(来月か……)

 コップにお茶を注ぐ汐音の姿をぼんやりと見つめながら、『おれも同じだよ』と和真は心の中で応じる。

「おれ達二年は、今月末の火曜日から金曜日で行く予定だ」
「! 火曜日から……⁈」
「あっ! おい!! お茶が零れてる!」

 慌てて和真は水筒を取り上げ、すぐに汐音の制服を確認する。

「ほっ、制服は汚れてないみたいだな。真っ新の制服なんだから気をつけないとダメだぞ」
「そんなに会えないなんて……」

 今の汐音には、和真の声が聞こえていないようだった。林間学校で会えないことが『嫌』のレベルじゃなく、ほぼ『絶望』レベルで蒼ざめている。
 和真は覚悟を決める。

「今週の土曜日か日曜日って、汐音は何か用事があるのか?」
「いいえ。どちらも何もありませんが……?」
 
 落ち込んでいるというより、ほぼ項垂うなだれたまま、汐音がうつろな目を向けてくる。

「……用事が無いなら、土曜日におれの家に来ないか?」
「──」

 この男にしては珍しく、何を言われのかまったく理解できなかったようだ。和真の顔に視線を置いたまま固まっている。

「無理にとは言わない。汐音にはいつもお昼を作ってもらってるからさ。お礼に、今度はおれの家で、昼食に何か作るよ」

 少し照れながら言いたかった事を伝える。

「和真さん!」

 先ほどまでの落ち込んでいる姿からは想像できないほど感極まった様子で、汐音は和真に飛び掛かるように抱きついてきた。その衝撃で持っていたおにぎりがくうを舞う。和真は名捕手のような動きで、胴に汐音を抱きつかせたままおにぎりをキャッチした。

(危っぶねぇ~、落とすかと思った……)

 いろんな意味で心臓をバクバクさせながら、空いている手を自分に抱きついている汐音の肩に置く。

「で、どうする? 来る?」
「行きます。行きます! 行きます!! 何があっても行きます!!!」
「ははは、待ってるよ」
「はい!」

 想像以上で喜ぶ汐音の姿に若干引きながら何とか応じる。
 だが、なかなか悪くない気分だった。

(おれも汐音の笑顔が見たかったみたいだ)

 ぎゅっとしがみついてくる汐音の肩越しにみえる雲一つない青い空を、和真は晴れやかな気持ちで見上げていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

ワケありくんの愛され転生

鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。 アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。 ※オメガバース設定です。

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

ノエルの結婚

仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。 お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。 生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。 無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ 過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。 J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。 詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

処理中です...