16 / 78
16. 嫉妬
しおりを挟む
昼休み。
いつも気づけば側にいる三峰汐音が姿を現さない。周りでは、すでに弁当を広げはじめていた。
「あれ? あの一年、今日は来ないんだな」
福井奏が相澤和真の心の声を代弁する。
「別に、約束しているわけじゃない……。今日は、学食へ行ってくる」
まるで自分の心の中のもやもやに対する言い訳のような言葉が勝手に口から飛び出し、慌てって席を立つ。
「おっ! じゃあ、俺も学食にする! 一緒に行こうぜ~」
廊下に出ると奏も付いて来て、上機嫌のまま和真の肩に腕を回し体重をかけてくる。
「! 重い! これ以上背が伸びなかったらおまえのせいだぞ!」
和真は横目でジロリと睨む。
「なんだ? 背を伸ばしたかったのか?」
『了解』と言葉が続き、奏の口角がぐっと上がった。
突然、和真は奏に両手首を掴まれる。
「?」
『あっ』と声を出す暇もなかった。和真の体がくるりと反転する。気づけば奏の背中に軽々と引っ張り上げられていた。柔軟体操でする背中を伸ばすポーズだ。
「! ば、馬鹿! 止めろ! 下ろせ!」
「あははは。相澤、また福井に遊ばれてんのか?」
廊下で奏の背中に担がれた状態でジタバタする和真の姿に、クラスメイト達が笑いながら声を掛けてくる。
さらにムカつく事は、和真が背中でどれほど暴れても奏がビクともしない事だ。もちろん鍛えているからなのだが、まったく太刀打ち出来ないことが口惜しい。やっと地面に足が着くと、和真は肩で息をしながら涼しい顔の奏を睨みつける。
「いい加減にしろよ、奏!」
「あれ? 背負われるのが嫌だったのか? じゃあ、次は俺の腕の中で抱きつぶしてやろう!」
ニヤリと笑うと、奏は両手の指をまるでかぎ爪のように曲げ、頭の上にまで上げたかと思うと、和真に襲い掛かって来た。
「ぐふっ」
突然、奏が仰け反る仰け反る。調子に乗って覆いかぶさって来た奏の顎に頭突きを食らわせたのだ。相当痛かったのだろう、蹲っている奏をやった当人も痛かったので、和真は自分の頭を撫でながら見下ろす。
「ほら、行くぞ。早く行かないと、人気の日替わり定食が無くなる」
ちょっと涙目で見上げてくる奏に、和真は一つため息をつく。
「……ほら、手を出せ」
和真が右手を出せば、奏がその手を掴んで立ち上がる。
だが、頑丈なはずの奏が僅かによろめいた。和真は咄嗟に奏の体を抱きかかえる。
「まさか、脳震盪を起こしてないよな?」
焦りながら奏の顔を覗き込めば、奏は一瞬驚いた顔をした。
だが、すぐに破顔すると嬉しそうに覆いかぶさって来る。そのどさくさに紛れて和真の耳元に唇を寄せ囁く。
「俺、おまえに睨まれるの嫌いじゃないんだ」
「変態だな」
冷ややかな眼差しで見下す。
「そうなのかも」
お互いの顔を見つめ合い、どちらからともなく噴き出した。二人で笑い合っていると、奏と同じサッカー部の松井と芝崎が声を掛けてきた。
「楽しそうだな。奏」
「昼食はどうする?」
「今から、食堂に行く」
「俺らも混ぜて~」
二人も加わり、賑やかに四人で食堂に向かう。松井達と部活の話をし始めた奏を和真は背後から見つめる。奏は人当たりが良いから友達も多く、後輩にも慕われている。そんな男がなぜか同じクラスという接点しかない和真になんだかんだとかまってくるのだ。正直、不思議で仕方がない。
ふと和真の視線が中庭へ向く。木の陰で、男一人に女三人が向かい合っている。
突然、ドクッと心臓が大きく跳ねた。男は下を向いていて顔は見えないというのに、それが誰なのか分かってしまったからだ。
「汐音……」
「え? あいつ居たの?」
思わず唇から零れ落ちた名前に奏が反応するのと同じくして、俯いていた汐音が顔を上げこちらを見た。かなり距離があるのに目が合った気がした。和真の視線の先を追って奏も汐音に気付く。
「へえ~、女に囲まれてるじゃんか。やっぱりモテるんだな。まあ、あれだけ綺麗な顔をしていたら、女の方がほっておかないか」
感心する奏の声を聞きながら、和真はなぜか汐音から目を離すことが出来い。すると、汐音は女達に何か言うと、こちらに向かって駆けて出した。思わず和真は数歩後退る。
「どうしたんだ?」
不思議そうに奏が訊ねてくる。
「やっぱり、食堂はまた別の日に行く……よ」
まるで譫言のようにそれだけを言うと、和真は身を翻した。
「おい! どうしたんだよ?! 和真!」
突然の事に、奏が驚いたように声を上げている。
「ごめん!」
肩越しに謝罪の言葉を叫んで、そのまま走った。思っていたより早く地面を蹴る足音が背後から徐々に近づいてくる。それでも止まらずに走り続けた。
「どこまで行くんですか? 和真さん!」
思いのほか近くから声が聞こえてきて振り返れば、汐音がすぐ後ろまで来ていた。和真は力が抜けたように走るのを辞める。
「遅れてしまってすみません」
汐音はそのまま前に回り込むと、立ち塞がるように和真の正面に立った。息が上がっている和真に比べて、汐音はまったく息に乱れがない。
「謝らなくていい。別におまえを待ってなかったし……」
まるで拗ねたような自分の声に驚き、言葉が途切れる。
「……和真さんに、告白をされている所を見られてしまいましたね。でも、安心してください。ちゃんと断りましたから」
(やっぱり、告白されてたんだ……)
さらに胸がモヤモヤしてきて眉を寄せる。
「安心て何だよ? おれは何も心配なんてしてないぞ」
「そうですか? てっきり、嫉妬してくださったのかと思っていました」
汐音に至極まじめな表情で言われて、和真は焦る。視線が定まらない。
「ば! ……な、何でおまえにおれが嫉妬しなくちゃなんないんだよ!」
「違いましたか? では、なぜ私の顔を見てくださらないのですか?」
ギクリとなる。
汐音が指摘したように、和真は汐音の顔を見る事が出来なかった。自分の足先を見つめたまま、沈黙に耐える。
突然、汐音が和真の手首を掴んだ。
「さあ! 早く食べましょうか? 今日はおにぎりだけではないですよ! タコさんウインナーを作ってみました!」
上機嫌の汐音に手を引かれ、和真は自分の気持ちを持て余しながら歩き出した。
汐音の指摘どおり、嫉妬していたし、汐音が断ったと聞いて安心しているのだから。
いつも気づけば側にいる三峰汐音が姿を現さない。周りでは、すでに弁当を広げはじめていた。
「あれ? あの一年、今日は来ないんだな」
福井奏が相澤和真の心の声を代弁する。
「別に、約束しているわけじゃない……。今日は、学食へ行ってくる」
まるで自分の心の中のもやもやに対する言い訳のような言葉が勝手に口から飛び出し、慌てって席を立つ。
「おっ! じゃあ、俺も学食にする! 一緒に行こうぜ~」
廊下に出ると奏も付いて来て、上機嫌のまま和真の肩に腕を回し体重をかけてくる。
「! 重い! これ以上背が伸びなかったらおまえのせいだぞ!」
和真は横目でジロリと睨む。
「なんだ? 背を伸ばしたかったのか?」
『了解』と言葉が続き、奏の口角がぐっと上がった。
突然、和真は奏に両手首を掴まれる。
「?」
『あっ』と声を出す暇もなかった。和真の体がくるりと反転する。気づけば奏の背中に軽々と引っ張り上げられていた。柔軟体操でする背中を伸ばすポーズだ。
「! ば、馬鹿! 止めろ! 下ろせ!」
「あははは。相澤、また福井に遊ばれてんのか?」
廊下で奏の背中に担がれた状態でジタバタする和真の姿に、クラスメイト達が笑いながら声を掛けてくる。
さらにムカつく事は、和真が背中でどれほど暴れても奏がビクともしない事だ。もちろん鍛えているからなのだが、まったく太刀打ち出来ないことが口惜しい。やっと地面に足が着くと、和真は肩で息をしながら涼しい顔の奏を睨みつける。
「いい加減にしろよ、奏!」
「あれ? 背負われるのが嫌だったのか? じゃあ、次は俺の腕の中で抱きつぶしてやろう!」
ニヤリと笑うと、奏は両手の指をまるでかぎ爪のように曲げ、頭の上にまで上げたかと思うと、和真に襲い掛かって来た。
「ぐふっ」
突然、奏が仰け反る仰け反る。調子に乗って覆いかぶさって来た奏の顎に頭突きを食らわせたのだ。相当痛かったのだろう、蹲っている奏をやった当人も痛かったので、和真は自分の頭を撫でながら見下ろす。
「ほら、行くぞ。早く行かないと、人気の日替わり定食が無くなる」
ちょっと涙目で見上げてくる奏に、和真は一つため息をつく。
「……ほら、手を出せ」
和真が右手を出せば、奏がその手を掴んで立ち上がる。
だが、頑丈なはずの奏が僅かによろめいた。和真は咄嗟に奏の体を抱きかかえる。
「まさか、脳震盪を起こしてないよな?」
焦りながら奏の顔を覗き込めば、奏は一瞬驚いた顔をした。
だが、すぐに破顔すると嬉しそうに覆いかぶさって来る。そのどさくさに紛れて和真の耳元に唇を寄せ囁く。
「俺、おまえに睨まれるの嫌いじゃないんだ」
「変態だな」
冷ややかな眼差しで見下す。
「そうなのかも」
お互いの顔を見つめ合い、どちらからともなく噴き出した。二人で笑い合っていると、奏と同じサッカー部の松井と芝崎が声を掛けてきた。
「楽しそうだな。奏」
「昼食はどうする?」
「今から、食堂に行く」
「俺らも混ぜて~」
二人も加わり、賑やかに四人で食堂に向かう。松井達と部活の話をし始めた奏を和真は背後から見つめる。奏は人当たりが良いから友達も多く、後輩にも慕われている。そんな男がなぜか同じクラスという接点しかない和真になんだかんだとかまってくるのだ。正直、不思議で仕方がない。
ふと和真の視線が中庭へ向く。木の陰で、男一人に女三人が向かい合っている。
突然、ドクッと心臓が大きく跳ねた。男は下を向いていて顔は見えないというのに、それが誰なのか分かってしまったからだ。
「汐音……」
「え? あいつ居たの?」
思わず唇から零れ落ちた名前に奏が反応するのと同じくして、俯いていた汐音が顔を上げこちらを見た。かなり距離があるのに目が合った気がした。和真の視線の先を追って奏も汐音に気付く。
「へえ~、女に囲まれてるじゃんか。やっぱりモテるんだな。まあ、あれだけ綺麗な顔をしていたら、女の方がほっておかないか」
感心する奏の声を聞きながら、和真はなぜか汐音から目を離すことが出来い。すると、汐音は女達に何か言うと、こちらに向かって駆けて出した。思わず和真は数歩後退る。
「どうしたんだ?」
不思議そうに奏が訊ねてくる。
「やっぱり、食堂はまた別の日に行く……よ」
まるで譫言のようにそれだけを言うと、和真は身を翻した。
「おい! どうしたんだよ?! 和真!」
突然の事に、奏が驚いたように声を上げている。
「ごめん!」
肩越しに謝罪の言葉を叫んで、そのまま走った。思っていたより早く地面を蹴る足音が背後から徐々に近づいてくる。それでも止まらずに走り続けた。
「どこまで行くんですか? 和真さん!」
思いのほか近くから声が聞こえてきて振り返れば、汐音がすぐ後ろまで来ていた。和真は力が抜けたように走るのを辞める。
「遅れてしまってすみません」
汐音はそのまま前に回り込むと、立ち塞がるように和真の正面に立った。息が上がっている和真に比べて、汐音はまったく息に乱れがない。
「謝らなくていい。別におまえを待ってなかったし……」
まるで拗ねたような自分の声に驚き、言葉が途切れる。
「……和真さんに、告白をされている所を見られてしまいましたね。でも、安心してください。ちゃんと断りましたから」
(やっぱり、告白されてたんだ……)
さらに胸がモヤモヤしてきて眉を寄せる。
「安心て何だよ? おれは何も心配なんてしてないぞ」
「そうですか? てっきり、嫉妬してくださったのかと思っていました」
汐音に至極まじめな表情で言われて、和真は焦る。視線が定まらない。
「ば! ……な、何でおまえにおれが嫉妬しなくちゃなんないんだよ!」
「違いましたか? では、なぜ私の顔を見てくださらないのですか?」
ギクリとなる。
汐音が指摘したように、和真は汐音の顔を見る事が出来なかった。自分の足先を見つめたまま、沈黙に耐える。
突然、汐音が和真の手首を掴んだ。
「さあ! 早く食べましょうか? 今日はおにぎりだけではないですよ! タコさんウインナーを作ってみました!」
上機嫌の汐音に手を引かれ、和真は自分の気持ちを持て余しながら歩き出した。
汐音の指摘どおり、嫉妬していたし、汐音が断ったと聞いて安心しているのだから。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】君の穿ったインソムニア
古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。
純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。
「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」
陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
黒獅子の愛でる花
なこ
BL
レノアール伯爵家次男のサフィアは、伯爵家の中でもとりわけ浮いた存在だ。
中性的で神秘的なその美しさには、誰しもが息を呑んだ。
深い碧眼はどこか憂いを帯びており、見る者を惑わすと言う。
サフィアは密かに、幼馴染の侯爵家三男リヒトと将来を誓い合っていた。
しかし、その誓いを信じて疑うこともなかったサフィアとは裏腹に、リヒトは公爵家へ婿入りしてしまう。
毎日のように愛を囁き続けてきたリヒトの裏切り行為に、サフィアは困惑する。
そんなある日、複雑な想いを抱えて過ごすサフィアの元に、幼い王太子の世話係を打診する知らせが届く。
王太子は、黒獅子と呼ばれ、前国王を王座から引きずり降ろした現王と、その幼馴染である王妃との一人息子だ。
王妃は現在、病で療養中だという。
幼い王太子と、黒獅子の王、王妃の住まう王城で、サフィアはこれまで知ることのなかった様々な感情と直面する。
サフィアと黒獅子の王ライは、二人を取り巻く愛憎の渦に巻き込まれながらも、密かにゆっくりと心を通わせていくが…
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
幸せごはんの作り方
コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。
しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。
そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。
仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。
今日は少し、遠回りして帰ろう【完】
新羽梅衣
BL
「どうしようもない」
そんな言葉がお似合いの、この感情。
捨ててしまいたいと何度も思って、
結局それができずに、
大事にだいじにしまいこんでいる。
だからどうかせめて、バレないで。
君さえも、気づかないでいてほしい。
・
・
真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。
愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる