生まれる前から好きでした。

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17. 屋上。

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 ガチャ

 鍵が開く音と共に、よどんだ空間に爽やかな風が吹き込んでくる。どのような手を使ったのか知らないが、三峰汐音は学校の屋上の扉の鍵を持っていた。

「勝手に持ってきていないですよ。ちゃんと許可は取っています」

 驚いている和真に、汐音は余裕のある笑みを浮かべてそう答えた。和真は汐音の後に続いて屋上に出る。

「何か、すごく暑いんだけど……」

 和真は右手を顔の上にかざし、眩しそうに目を細め空を仰いだ。まだ季節は春だというのに、屋上には日差しが容赦なく照り付けていて、思っていた以上に暑かった。

「和真さん! ここは気持ちがいいですよ!」

 日陰から汐音が嬉しそうに手招きをする。確かに、照り付ける日差しを避け、風が吹き抜けていく場所は快適だった。

「何かリクエストがあれば言ってください」

 手作りのおにぎりを和真の手に持たせながら汐音が嬉しそうに言う。和真は手の中のおにぎりを見つめた。不格好だった三角が、だんだんと上達してきている。汐音はまさに努力家だった。

(これも、おれの為なんだよな……)

「……無理してないか?」

 顔を上げ、汐音をまっすぐに見つめる。何を言われたのか理解出来なかったのか、汐音は一瞬キョトンとした表情を浮かべた。

「毎日、おにぎりを作ってきてくれているだろ?」

 和真の言葉に汐音が相好を崩す。

「無理なんかしてませんよ。私が和真さんの笑顔見たさに勝手にやっているだけです」
「うっ……」

 楽しそうな声で応じる汐音の顔があまりに眩しすぎて正視できない。再び視線を手にしているおにぎりに向ける。

「……汐音、一年は林間学校には行かないのか?」
「行きます。来月の始めに二泊三日だそうです。はっきり言って、行きたくないです」

(来月か……)

 コップにお茶を注ぐ汐音の姿をぼんやりと見つめながら、『おれも同じだよ』と和真は心の中で応じる。

「おれ達二年は、今月末の火曜日から金曜日で行く予定だ」
「! 火曜日から……⁈」
「あっ! おい!! お茶が零れてる!」

 慌てて和真は水筒を取り上げ、すぐに汐音の制服を確認する。

「ほっ、制服は汚れてないみたいだな。真っ新の制服なんだから気をつけないとダメだぞ」
「そんなに会えないなんて……」

 今の汐音には、和真の声が聞こえていないようだった。林間学校で会えないことが『嫌』のレベルじゃなく、ほぼ『絶望』レベルで蒼ざめている。
 和真は覚悟を決める。

「今週の土曜日か日曜日って、汐音は何か用事があるのか?」
「いいえ。どちらも何もありませんが……?」
 
 落ち込んでいるというより、ほぼ項垂うなだれたまま、汐音がうつろな目を向けてくる。

「……用事が無いなら、土曜日におれの家に来ないか?」
「──」

 この男にしては珍しく、何を言われのかまったく理解できなかったようだ。和真の顔に視線を置いたまま固まっている。

「無理にとは言わない。汐音にはいつもお昼を作ってもらってるからさ。お礼に、今度はおれの家で、昼食に何か作るよ」

 少し照れながら言いたかった事を伝える。

「和真さん!」

 先ほどまでの落ち込んでいる姿からは想像できないほど感極まった様子で、汐音は和真に飛び掛かるように抱きついてきた。その衝撃で持っていたおにぎりがくうを舞う。和真は名捕手のような動きで、胴に汐音を抱きつかせたままおにぎりをキャッチした。

(危っぶねぇ~、落とすかと思った……)

 いろんな意味で心臓をバクバクさせながら、空いている手を自分に抱きついている汐音の肩に置く。

「で、どうする? 来る?」
「行きます。行きます! 行きます!! 何があっても行きます!!!」
「ははは、待ってるよ」
「はい!」

 想像以上で喜ぶ汐音の姿に若干引きながら何とか応じる。
 だが、なかなか悪くない気分だった。

(おれも汐音の笑顔が見たかったみたいだ)

 ぎゅっとしがみついてくる汐音の肩越しにみえる雲一つない青い空を、和真は晴れやかな気持ちで見上げていた。
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