新緑の少年

桐野栄之助の十代

僕は同性愛者だ。

自分がほかの人と違うって知ったのは十三歳のとき。
学校の友達がアイドルの女の子の話題で盛り上がっているのに、何がそんなにいいのか可愛いのか分からなかった。

放課後、校門で待ち構えていた公立校の女の子にラブレターをもらった。
嬉しくともなんともなかった。
それから、中学や高校生の女の子にメアド聞かれたり、告白されたり、手紙をもらったりした。
いちいち返事を書くのも、わずらわしくて捨てた。

中高一貫校に通っていたが、高校から男女別の校舎になり男子校に行くことになった。
連休明けのさつき晴れの空の下、僕は一人の生徒を目でずっと追っていた。
僕は体育の授業を見学していた。足を捻挫していたので、サッカーの授業に参加できなかったのだ。

宮前治。僕より背は低いがスポーツマンで爽やかな少年。
僕の初恋の相手だ。
中一から高三までの想いの人だったが告白することはできず、親友として終わった。

大学は宮前は経済学部、僕は医学部に進んだ。
医学部に入学して一年はそれほど忙しくなかった。
夏休みの前、宮前と映画に行くことにした。
宮前は呪怨やＳＡＷのファンだからホラーがいいかもしれない。
渋谷で待ち合わせをしたその日、宮前は女の子を連れてきた。
真っ白な子猫みたいな可愛らしい女の子だった。
サークルで出会って付き合い始めたそうだ。
宮前の彼女を見ていたら、ぐらぐらめまいがしてきて気持ち悪くなった。
具合が悪いと断って映画には行かず家に帰った。

帰りの小田急線の中でつぶやいた。
「なんだよ。彼女なんて連れてくるなよ」

それから宮前には極力連絡を取らないようにした。
できなかった。メールも開きたくなかった。
メールに彼女とツーショットのラブラブ画像が添付してあった。気色悪くてすぐ消去した。
大丈夫かと心配メールが何通も来た。

宮前はいいやつだ。だから、宮前とは親友でいいじゃないか。
でも本心は親友じゃなくて恋人になりたい。
彼女を見たとき、本当にきつかったよ。
これって失恋ってやつかな。なんかおかしいね。
宮前のことを忘れたい。
夏休みにどこかに旅行に行こう。
失恋してうじうじしているのも時間の無駄だし、医学部は二年からすごく忙しくなるらしい。
どこか行きたかったところに行ってみよう。