新緑の少年

東城

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ボヘミアン ラプソディ

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スーパーから戻ってくると少年は立ってリビングをジロジロ見回していた。
案の定、少年の顔は腫れていた。
袋から稲荷と上寿司のパックを取り出すと少年に渡す。
「お茶いれるから、待っててね」
少年は待てない。パックを開けて手づかみで、がつがつ食べ始めた。
あーあ。そんなにおなか空いてたんだ。

お茶をいれて台所から戻ってくると、すでに食べ終わっていた。
少年はにっこりと笑ってお礼を言った。
「ごちそうさま」
おいおい、顔、すごく腫れてるよ。
試合後のボクサーみたいだよ。
でも、ブサ可愛い。
僕も思わず微笑んだ。
まあ、しばらくしたら顔の腫れもひくだろう。

***

三日もすると、少年の顔の腫れはすっかりおさまった。
顔の骨格がゆがまなくてよかったね。
子供に暴力をふるう親って理解できない。
自分の親は一度も僕をはたいたことはなかった。

出勤しないで、ブラブラしている僕に少年は聞く。
「なんで仕事に行かないの? お医者さんなんでしょ?」
「君と出会った日、過労で倒れて二週間の自宅療養中」
「病気なの?」
「疲れているから休みもらっただけだよ」
そんなたわいもない会話を交わす。

ラジオからクイーンの曲が流れてきた。
ボヘミアン・ラプソディ。
これ、人を銃で撃ち殺した独りぼっちの少年の曲だよね。
朝日君の人生と似てる曲だね。
「この曲、知ってる。三浦先生と歌ったことがある」少年は言った。
「三浦先生って?」
「中学の英語の先生。転勤になっちゃったけどね」
かなりしょんぼりした様子だ。
きっととてもいい先生だったんだろう。

少年は英語の歌詞を口ずさみだした。
へえ、ボヘミアンラプソディの歌詞を全部知ってるの? 
そんなに難しい英語ではないけども六分もある曲だ。この子、中一だよねえ? 
曲が終わり少年が教えてくれた。
「三浦先生の好きな曲なんだ」
「男の先生?」
「女だよ。二五歳ぐらいの」
女性でクイーンが好きなんだ。
ボーカルのフレディ・マーキュリーはゲイって知ってるのかな。
有名だもの、知ってるだろうな。
「このボーカルの人ね、ゲイなんだよ」
「ゲイって?」きょとんとして聞き返す。
「同性愛者」
「なにそれ?」
中学生には難しい言葉なのかな。
「男が好きな男の人のこと」
これなら理解できるだろう。
そう、僕みたいにね。心の中でつぶやいた。
ラジオから次に流れてきた曲もクイーンの曲だった。
曲名は知らないが、やけにテンションの高いアップビートな曲だった。
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