新緑の少年

東城

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ファーストキス

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クリスマスイブは定時で上がるはずだったのに、残業だった。
自称セクシー美女の女医に仕事を押し付けられて、僕は夜の十一時まで残業。
女医は彼氏とデートだとよ。
女性のそういうあざとい、勝手なところが嫌いだ。まあ、そうじゃない人もいるけどね。
僕だって朝日と家でクリスマスする予定だったのに。
朝日には電話で「先に食べてね、プレゼントはクリスマスツリーの下にあるから」と伝えた。
「栄が帰るまで、待ってる」と気を遣ってくれたが、「十二時近くなるから」と先に寝るように言った。

案の定、帰宅は0時をまわっていて、ドロドロに疲れていた。
玄関のドアを開けると電気がついていた。
「おかえりー」パジャマ姿の朝日が僕に抱き着く。
あー、先に寝てって言ったのに。
「おつかれさま。ごめんねー。ごはんとケーキも先に食べちゃった。栄の分は取ってあるから」
疲れて、うんと返事をする気力もない。
フラフラしながらキッチンに行き、買い置きの天然水を飲む。
リビングに戻ると、朝日はクリスマスツリーの前に正座していた。
「プレゼントありがとう」
クリスマスツリーのキラキラしたイルミネーションがきれい。でも、朝日のほうがもっときれいでかわいい。
「僕からはクリスマスプレゼントないよ。買い忘れた」朝日は申し訳なさそうにモジモジした。
「子供なんだから、もらうほうでいいんだよ」
気を遣うことなんてないんだよ。
「でも、わるいなあ。こんなにもらっちゃったのに。なにか欲しい物とかあった?」
欲しい物。物じゃないけど……。
「君のファーストキスが欲しい」と言ってしまっていた。
疲れていたんだろう。気がついたら、すでに言ってしまっていた。
朝日が無言で僕を見る。ちょっと困っているようだ。
かわいい。
「いや?」
「そうじゃないけど。なんて言っていいのか。僕なんかでいいの?」
「朝日とキスしたい」両手をぎゅっと握る。
一瞬我に返り、口走ってしまったことに恥ずかしくなる。
中学生になんてことお願いしてるんだろう。
まだ十二才なのにキスなんて早すぎるよね。

「いいよ」朝日が目を閉じ、覚悟したように言った。
僕のこと好きでそう言ってくれてるのかな?
今までしてあげたことのお礼とかお返しで言ってるんじゃないかな?
でも今更やめるっていうのも惜しい。
今まで何度、キスしたいと思っただろうか。
かわいいな。
そっと朝日の頬を撫でる。
キスは上手だから、怖がらなくても平気だよ。
軽く唇にキスした。
やわらかい唇。
キスし終わるとぎゅっと抱きしめた。
「大好き」
「うん」朝日はそう言っただけだった。

その日から毎日髪や頬にキスしてたら怒られた。
「うざいよ!!」
ごめんごめん。怒った顔もかわいいね。軽く口にキス。
「なんだよー」朝日は真っ赤になって照れてる。
そんな二人だけの秘密めいた日々も一月七日で終わり、朝日は近くの公立中学に通い始めた。

土曜日に三浦先生が家に来て、三学期も家庭教師を継続すると言い張る。
「学校の仕事があるので土日は休んでください。勉強は僕がみますから」
土日は朝日と二人で過ごしたいんだよ。外部者には僕たちの生活に首を突っ込んで欲しくない。
そもそもこの女の先生は、朝日に深入りしすぎなんだよ。

三浦先生は心配な面持ちで言う。。
「新しい学校になじめるか心配で。前の学校で、はざま君、孤立していたし」
孤立していたの? 無視されてたとか?
前、そういうのあったって話してたな。小学校のときだっけ?
「いじめ?」
「中学では、いじめとかはなかったです。特に目立った問題行動はなかったんですが、友達いなくて。一人ぼっちで」
え? ぼっちだったの? 
教室で一人ぽつんと給食を食べている朝日が脳裏に浮かんだ。休み時間も一人で本読んでたり、図書室で暇つぶしていたりとか。
心配になってきた。
やだな。可哀そうすぎる。それ、相当きつくない?
転校生なら、やっぱり浮くかも。
三学期からだから、いじめにはならないよね。
でも孤立とかありうるかも。
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