「呪いの子」と蔑まれてきた私と婚約者の幼馴染、一体何が違うの?

きんもくせい

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第3話・呪いの子

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この国で“呪いの子”と呼ばれる者たちには、いつだって、言い知れぬ恐れと注視がつきまとう。

───それは、忘れ去られた大昔の戦争に端を発する。
広大な国土にはかつて“精霊の森”と呼ばれる、魔力で満ちた大自然が悠然と広がっていた。そこは精霊たちの住処で、人間の立ち入る場所ではなかった。

曰く、人と精霊は長らく距離を保ち、互いの領分を少しずつ尊重して生きていた。
しかし歴史のある時代、野心に駆られた王や貴族たちが精霊の森へと侵攻し、その豊かな資源や秘められた力を奪おうとした。森は踏みにじられ、精霊は捕らえられ、やがて彼らの能力までも兵の力として捧げられた。
森は焼かれ、その怒りと悲しみは精霊の加護から呪いへと変じていった。そして戦争が遠い過去となっても、精霊の報復は絶えることなく、「呪い」として人間の血脈にしぶとく刻みつけられることとなった。

“呪いの子”が生まれるのは、伝承によると、およそ百年に一度――不思議と周期を持った、天の因果だと恐れられている。

彼らが生まれてくるとき、その赤子の肉体には必ず何かしらの異形が現れる。
焼けただれた皮膚、崩れた骨や歪んだ四肢、不自然な紋章、生まれつきの病や虚弱さ――どの家もに該当する者を「呪い」としか称せなかった。
名門貴族の家柄であっても例外ではなく、むしろ責任ある家ほど隠しきれぬ不安や羞恥が、その空気に混ざった。
もし、自分の子供が呪いの子だったら。
もし、自分の跡取りが、呪いを孕んでいたら。
もし、自分の家に、そんな不吉な存在が生まれてしまったら───。
それは、秩序と伝聞を重んじる貴族社会では、致命的な弱点になる。

しかし、呪いの子が背負うのはただの禍だけではなかった。彼らのうち、半分ほどは強い耐毒性───「毒をもって毒を制す」と古くから例えられる、特殊な身体を持つ者がいる。
彼らの血には、生まれつき人の五感や組織構造とは異なる何かが宿っている。致死量の毒薬や劇薬に触れても、体は発作や発熱さえ許容し、やがて平然と回復してしまう。病でさえも蝕みきれず、魔法による呪詛ですら跳ね返す例が報告されている。
その強さは異質であり、時に畏れの対象となる。誰よりも脆く、誰よりも破滅を抱えながら、命だけはなぜかしぶとく手放そうとしない。貴族社会では「毒の加護」など皮肉を込めて呼び、時として忌み嫌い、また希少性をひそかに羨む者すらいた。

グレース・ナイヴァバーンは、まさしくそうして選ばれた子だった。


彼女が生まれた記念すべき場所は、王家樹立前から代々続く、名門ナイヴァバーン伯爵家の第一邸宅であった。
厳冬の朝に響いた産声は、待ち望まれた祝福と共に、静かな衝撃を周囲に巻き起こした。
医師たちが赤子の体を拭いながら、左頬に焼けただれた赤黒い痕を認めたとき、場にいた誰もが言葉を失った。
女中たちはひそひそと囁き、医師の口元さえ引きつった。「呪いの子だ」「なんという……」「伝説そのままだ」――その声に空気はより重く、しんとしていく。

それでも、出産を終えた母親は腕に赤子を引き寄せて泣き、その瞳にうっすら微笑みさえ浮かべた。

「やっと会えたわ……私の赤ちゃん」

母の手は決して揺れず、夫である伯爵もやがて妻子の側にすっと寄り添い、「……この子は、私たちの祝福だ。共に守ろう」と小さく誓う。 

名門伯爵家の屋敷は、その瞬間、祝福と呪いが共存する、静かで切実な光に包まれたのだった。
そうして、百年に一度の因果が、またひとつ、新しい命に影を落とした。
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