【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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第7話 「北の騎士団長」

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「だ、誰?!」

突然のことにびっくりした私は、咄嗟に大声を出してしまう。まさか、誰かに見られているとは思わなかったのだ。
すると、先ほどの男の声が返ってきた。

「これは失礼を。私は北の騎士団の団長を務めるカイル・ノーザンハート」

ー北の騎士団。王国北方の辺境を守る、勇壮な騎士たちの噂は私も聞いたことがあった。
もっとも、一度も本物に出会う機会はなかったが...。
はるか北に在るはずの騎士団を率いる人が、なぜこんなところにいるのだろう。
それより、こんなところを見られて大丈夫だろうか...頭の中が混乱して、助けを求めるようにアキュラを見るが、精霊王は呑気にふわふわして、大丈夫、というように私に向かって頷いた。

そうこうしているうちにサクサクと草を踏み締める音がして、庭園と外を隔てる柵の向こう側に男が姿を現した。
切れ長の瞳に、すらりとした、それでいて鍛え抜かれた体躯と、鮮やかな銀髪。
誰もが認める超絶美男子がそこに立っていた。

まごまごして何も言えない私に向かって、カイルは深々と一礼した。

「名高いガーデンを外から拝見しようと立ち寄ったのですが...一瞬にして枯れた草木が蘇ったのを目の当たりにして、つい声を上げてしまいました。どうかご無礼をお許しいただきたい」

「い、いえ...」

口調は慇懃だが、視線と表情が鋭く硬いせいか、何だか怒られているような気持ちになってくる。

「立ち入ったこととは思いますが」

頭を上げたカイルが、真っ直ぐにわたしの目を見た。
射すくめるようなその視線に耐えきれず、わたしは下を向いた。

「先ほどの精霊術...これほどの業は見たことがない」

「そ、それは...」

「そして」

カイルは視線を少しずらして、をはっきりと見据えた。

「さぞや力のある精霊とお見受けする」

「...!」


この怜悧な騎士団長の目には、アキュラがはっきりと見えているようだった。

「ほう、君も精霊使いなのかな?」

アキュラが面白そうに問いかけた。
カイルは当然のようにアキュラの問いかけに頷いた。

「今の私にそれほどの力はありませんが、我が祖先には精霊使いがおりました」

「なるほど、道理で。ところでどうだろう、エレナ。立ち話も何だから、お茶にでもお誘いしてはどうかな?」

話の展開についていけていなかった私は、アキュラの提案に一も二もなく頷いた。

「え、ええ...」

「では、お言葉に甘えて」

カイルも平然と頷くと、私とアキュラの後についてきた。

ー15分後。
私たちは応接間でお茶を頂いていた。
給仕してくれたサキが「なんなんですかこのイケメンはどこから連れてきたんですか」と言いたげな視線を向けてきたが、「後で説明するから」という表情で誤魔化した。
絶対ですよ!という表情を浮かべつつサキが退出したのを見届けてから、何とか声を絞り出した。

「それでその...カイルさまはどういったご事情でこの辺りに?」

何気ない問いかけだったが、カイルの表情はごく僅かに曇った。
やはり、何か事情があってこんなところにいたことは間違いないようだ。

「実は...北方で大量に魔獣が発生しているのです」

ー魔獣。
さすがにこのあたりで見かけたことはないが、自然発生的な魔力によって強化された鋭い牙や爪を持つ、人類の天敵だ。文明の発展とともに次第に人里からは追い払われつつあるものの、人の手が及びにくい辺境や森の深くにはまだ数多く、旅人や行商人たちにとって大きな脅威になっていることは知識として知っていた。

「大量に...?」

「はい。今年に入って既に何度も襲撃を受けているのです。本格的な討伐隊を結成したいが、そのために国境の防備
を手薄にするわけにもいきません。ですから、何度も王都に増援を要請したのですが...」

そういってカイルは端正な眉を微かにしかめた。

「その分では、増援を断られたようだね」

アキュラが指摘すると、カイルは黙って頷いた。

「そして騎士団長の君自らが赴いてもダメだったということか」

「ええ。財政上の理由や王都の警備を名目にされましたが...何のことはない、魔獣相手に戦っても実利が得られないからでしょう」

カイルは吐き捨てるように言った。王都には「アイアンメイデン」のような王直属の親衛部隊だけでなく、有力貴族たちが抱える私兵部隊も数多く駐屯している。王の親衛隊を全部引っ張り出すのは難しいにしても、いくばくかの兵を差し向ける余裕がないわけはなかった。

「要するに、辺境の小火程度に思っているわけか」

「お恥ずかしいことですが。...そこで、折入ってお二人にお願いがあるのです」

改まった様子でカイルが私とアキュラの方に向き直る。
その一見冷たく見える瞳が、真摯に光っていることに気づいた。
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