【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん

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第15話 最後の試練と真の絆

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氷雪王国を後にして数日、美月たちは緑豊かな平原を歩いていた。これまでの旅で、多くの人々と出会い、愛を分かち合ってきた。美月の心は充実感に満ちていた。

「美月、疲れていませんか?」

レオンが心配そうに美月を見つめる。長い旅路でも、五人の美月への愛情は一向に衰える気配がない。

「大丈夫です。みなさんがいてくれるから」

美月が微笑み返すと、五人の表情が一斉に綻んだ。

「でも、そろそろ休憩しませんか?」

アルトが提案したその時――

突然、空が真っ黒な雲に覆われた。不吉な雷鳴が響き、大地が震え始める。

「何だ、この異様な魔力は……」

セラフィールが警戒した表情を浮かべた。

雲の中から現れたのは、これまで見たことのない巨大な存在だった。全身が黒いオーラに包まれ、複数の顔を持つ異形の化物。それは憎悪と絶望の化身のような恐ろしい姿をしていた。

「我は『虚無』……愛を喰らう者なり」

化物が低い声で名乗った。

「長い間、汝らの愛に満ちた旅路を見守ってきた。そして今、その愛をすべて喰らい尽くしてやろう」

「愛を喰らうって……」

美月が震え声で呟く。

「美月、下がっていてください」

レオンが剣を抜いて前に出た。他の四人も戦闘態勢を取る。

しかし、虚無の力は圧倒的だった。

「無駄なことを」

虚無が手を振ると、五人が同時に吹き飛ばされた。

「みんな!」

美月が駆け寄ろうとすると、虚無の邪悪なオーラが美月を包み込んだ。

「うあああ!」

美月の身体から、これまで培ってきた愛の記憶が吸い取られていく。レオンとの出会い、アルトとの学習、カイルとの散歩、エリアとの訓練、セラフィールとの語らい……すべてが霧のように消えていく。

「や、やめて……」

美月の声が弱々しくなっていく。

「美月!」

五人が立ち上がろうとしたが、虚無のオーラに阻まれて近づけない。

「くそっ、このままでは……」

カイルが歯噛みする。

「美月の愛が消えてしまう」

エリアが絶望的な表情を浮かべた。

その時、虚無が哄笑した。

「見よ、これが愛の末路だ。どれほど美しく、強い愛であろうと、最後は虚無に帰するのだ」

美月の身体から光が失われていく。これまでの旅路で育んできた愛の力が、すべて奪われようとしていた。

「美月……」

レオンが絶望的な表情で美月を見つめる。

しかし、その時――

「違う」

弱々しくなった美月の声が響いた。

「愛は……虚無になんて……ならない」

美月がふらつきながらも立ち上がる。

「私の愛は……みんなとの絆から生まれたものだから」

美月が五人を見つめる。その瞳には、まだ僅かな光が残っていた。

「美月……」

アルトが感動に震える。

「レオン……アルト……カイル……エリア……セラフィール……」

美月が一人ずつ名前を呼ぶ。

「私は、あなたたちを愛しています」

その言葉と共に、美月の身体から再び光が溢れ始めた。しかし、今度は一人だけの光ではない。

「そして、あなたたちの愛も感じています」

五人の身体も光り始めた。美月への愛が、光となって現れているのだ。

「馬鹿な……愛を喰らい尽くしたはずなのに……」

虚無が動揺する。

「あなたは理解していない」

美月が虚無を見つめる。

「愛は一人で存在するものじゃない。愛し合う人たちの間にある絆そのものなんです」

美月の光と五人の光が繋がり合い、巨大な愛の輪を形成した。

「だから、一人の愛を奪っても意味がない。愛は、愛し合う全ての人の心の中に存在するから」

愛の輪が虚無を包み込んでいく。

「うわああああ!」

虚無が苦悶の声を上げる。しかし、それは苦痛の声ではなかった。

愛の光に包まれた虚無の身体から、黒いオーラが剥がれ落ちていく。その下から現れたのは――

「私は……私は一体……」

一人の美しい女性だった。長い黒髪と悲しげな瞳を持つ、どこか美月に似た雰囲気の女性。

「あなたは……」

美月が近づくと、女性は涙を流した。

「私は……かつて愛を失い、絶望に支配された愚かな聖女です」

女性の話によると、彼女は遥か昔の聖女で、愛する人々を戦争で失い、絶望のあまり愛を憎むようになってしまったという。そして長い年月をかけて、愛そのものを破壊しようとしていたのだった。

「でも、あなたたちの愛を見て……理解しました」

女性が美月を見つめる。

「真の愛は、一人が失われても消えない。愛し合う人々の絆の中に、永遠に生き続けるのですね」

「はい」

美月が女性の手を取る。

「愛は分かち合うもの。一人で抱え込むものではありません」

美月の温かさに触れて、女性の心が癒された。

「ありがとう……あなたのおかげで、私も愛を取り戻せました」

女性の身体が光に包まれて、安らかに消えていく。

「今度こそ、愛する人たちの元へ帰れます」

最後の微笑みを残して、女性は光となって天に昇っていった。

---

戦いが終わると、美月は五人に囲まれていた。

「美月、無事でよかった」

レオンが安堵の表情で美月を抱きしめる。

「俺たち、本当に心配したんだぞ」

カイルの声が震えている。

「もし美月を失ったらと思うと……」

アルトも目に涙を浮かべていた。

「私たちには、美月が必要なんです」

エリアが美月の手を握る。

「美月がいなければ、私たちの愛も意味がない」

セラフィールも真剣な表情で美月を見つめている。

「みなさん……」

美月も涙を流した。

「私も、みなさんがいなければ何もできませんでした」

美月が五人を見回す。

「私たちの愛は、みんなで作り上げたものなんですね」

「そうです」

レオンが頷く。

「私たちの愛は、六人で一つなのです」

その時、空から優しい光が降り注いだ。それは先ほど昇天していった聖女からの祝福の光だった。

光に包まれて、六人の絆はさらに深く、強く結ばれた。

「これで、私たちの愛は完成しましたね」

美月が幸せそうに微笑む。

「はい。これからは、この愛を世界中に分けていきましょう」

アルトが提案すると、全員が頷いた。

しかし、美月の心の奥には、一つの決断が芽生えていた。

長い旅路の果てに、自分が本当にやるべきことが見えてきたのだ。

夕陽が美しい平原で、六人は手を繋いで歩いていた。

最後の試練を乗り越え、真の愛の絆を手に入れた美月たち。

しかし、物語はまだ終わらない。

美月の最後の選択が、すべてを決めることになる。
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