【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん

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第14話 氷雪の王国と封じられた愛

砂漠を後にしてから一週間、美月たちは遥か北の氷雪に覆われた王国に到達していた。

「寒いですね……」

美月が白い息を吐きながら呟く。周囲は一面の雪景色で、凍てつく風が頬を刺していた。

「美月、こちらへ」

レオンが美月を自分の外套で包み込む。

「俺のマントも使ってくれ」

カイルも自分のマントを差し出し、アルトが温熱魔法をかけようとする。

「私も防寒結界を」

セラフィールが魔法を発動しようとして、エリアが慌てて止めた。

「みなさん、ありがとうございます。でも、これくらいなら大丈夫ですから」

美月が微笑むと、五人の過保護な表情が少し和らいだ。しかし、美月への愛情に満ちた眼差しは相変わらずだった。

「あそこに街が見えますね」

アルトが前方を指差した。白い城壁に囲まれた美しい都市が、雪景色の中に佇んでいる。

しかし、街に近づくにつれて、異様な静寂に気づいた。

「人の気配がしませんね」

エリアが眉をひそめる。

城門に着くと、門番の兵士たちが凍り付いたように動かずにいた。しかし、彼らは氷漬けになっているわけではない。ただ、魂が抜けたように虚ろな表情で立っているだけだった。

「おい、大丈夫か?」

カイルが兵士に声をかけても、反応がない。

「これは……感情が封じられている」

セラフィールが兵士を調べて呟いた。

「感情を封じる?」

美月が首をかしげると、アルトが説明した。

「恐らく、強力な呪いでしょう。人々の感情、特に愛情を封じ込める邪悪な魔法です」

街の中に入ると、状況はさらに深刻だった。住民たちは皆、同じように虚ろな表情で機械的に動いているだけ。笑顔もなければ、涙もない。まるで人形のような状態だった。

「これは酷い……」

美月の胸が痛んだ。

「一体、誰がこんなことを……」

そのとき、街の中央にある宮殿から、一人の女性が現れた。

年齢は三十代前半で、プラチナブロンドの髪を持つ美しい女性だった。しかし、その美しさは氷のように冷たく、表情には一切の感情が見えない。

「異国の者たちよ」

女性の声も感情が籠っていない、機械的な響きだった。

「私はエルザ、この氷雪王国の女王である」

エルザと名乗った女王が美月たちを見下ろす。

「この国に何の用だ」

「私たちは旅の途中です」

レオンが代表して答えると、エルザの視線が美月に向けられた。

「ほう、あなたが噂の愛の聖女か」

エルザの口元に、僅かに冷笑が浮かんだ。

「愛など、この世で最も愚かなものだ」

「愛が愚かなものだなんて……」

美月が反論しようとすると、エルザが手を上げた。

「黙れ。愛こそが、すべての苦悩の源なのだ」

エルザの瞳に、一瞬だけ深い悲しみが宿った。

「私は、愛の苦しみから我が国民を解放したのだ」

---

その夜、美月たちは宮殿の客室に泊めてもらった。しかし、エルザの態度は冷たく、給仕する使用人たちも感情のない人形のようだった。

「何とも居心地の悪い場所ですね」

アルトが眉をひそめる。

「あの女王、一体何があったんだろうな」

カイルも困惑している。

「恐らく、愛によって深く傷ついた過去があるのでしょう」

セラフィールが推測した。

「だからといって、国民全員の感情を封じるなど……」

エリアが憤慨していると、美月が立ち上がった。

「私、エルザ女王とお話ししてきます」

「美月、危険です」

レオンが制止しようとしたが、美月は首を横に振った。

「きっと、エルザ女王も苦しんでいるはずです。私、その苦しみを理解したいんです」

美月の真摯な眼差しに、五人は折れた。

「分かりました。でも、何かあったらすぐに呼んでください」

「必ず、私たちが駆けつけます」

五人の愛情に包まれて、美月は女王の私室へ向かった。

---

エルザは広いバルコニーで、雪景色を眺めていた。

「来たか、愛の聖女よ」

振り返ることなく、エルザが呟いた。

「エルザ女王……」

美月がそっと近づくと、エルザがようやく振り返った。

月光の下で見るエルザの顔には、深い孤独が刻まれていた。

「何の用だ?私に愛の素晴らしさでも説くつもりか?」

「いいえ」

美月が首を横に振る。

「あなたの痛みを、聞かせてもらいたいんです」

エルザの表情が僅かに変わった。

「私の……痛み?」

「はい。きっと、あなたも愛によって深く傷ついたことがあるんですよね」

美月の優しい問いかけに、エルザの仮面が少しずつ剥がれていく。

「……なぜ、そんなことを」

「私も、愛について悩んだことがあるからです」

美月が隣に座る。

「愛は時として、人を苦しめることもある。でも……」

「やめろ」

エルザが立ち上がった。

「私に同情するな。私は、愛を捨てることで強くなったのだ」

しかし、エルザの声は震えていた。

「本当に、愛を捨てられたのですか?」

美月の問いに、エルザの身体が硬直した。

「……」

長い沈黙の後、エルザがぽつりと呟いた。

「昔、私には愛する人がいた」

エルザの話によると、彼女は若い頃、隣国の王子と深く愛し合っていたという。しかし、政治的な理由でその愛は引き裂かれ、王子は別の国の姫と結婚することになった。

「私は愛を信じていた。愛があれば、どんな困難も乗り越えられると」

エルザの瞳に、初めて感情が宿った。

「だが、現実は違った。愛など、権力の前では無力だったのだ」

「それで、愛を憎むようになったのですね」

「憎む?」

エルザが苦笑いを浮かべた。

「いいや、私は今でも彼を愛している」

その言葉に、美月は驚いた。

「え?」

「だからこそ、苦しいのだ」

エルザの声が震える。

「愛を捨てることができれば、どんなに楽だろう。しかし、この胸の奥で燃え続ける想いを、どうすることもできない」

エルザが雪に手を伸ばす。

「だから、せめて国民だけでも、この苦しみから救ってやりたかった」

「エルザ女王……」

美月の胸が熱くなった。エルザは愛を捨てたのではなく、愛の苦しみから他の人を守ろうとしていたのだ。

「でも、それは間違っています」

美月がエルザの手を取った。

「愛は確かに苦しいときもあります。でも、それ以上に美しいものです」

美月の手から、温かい力が流れ込んだ。

「あっ……」

エルザの瞳に涙が浮かんだ。長年封じ込めていた感情が、一気に溢れ出してきたのだ。

「これは……何年ぶりの涙だろう……」

エルザが頬に触れる。

「美月……あなたの愛は、私の凍った心まで溶かすのですね」

その時、宮殿の外から歓声が聞こえてきた。美月の愛の力が宮殿全体に広がり、呪いが解けていたのだ。

人々の感情が戻り、久しぶりに笑顔と涙が街に戻ってきた。

「私は……間違っていたのですね」

エルザが美月を見つめる。

「愛から逃げるのではなく、愛と向き合うべきだった」

「はい」

美月が微笑む。

「愛は時として苦しいものです。でも、その苦しみもまた、愛の一部なんです」

翌朝、美月たちが宮殿を出ようとすると、エルザが見送りに現れた。

「美月、ありがとう」

エルザの顔には、昨夜とは別人のような温かい笑顔があった。

「あなたのおかげで、私は愛と向き合う勇気を得ました」

「エルザ女王こそ、私に大切なことを教えてくれました」

美月が深々とお辞儀をする。

「愛は逃げるものではなく、向き合うものだということを」

「そして」

エルザが美月の五人の仲間を見回す。

「あなたには、素晴らしい愛が待っている。大切にしなさい」

五人が一斉に頬を染めた。

「美月、必ずまた会いましょう」

エルザに見送られて、美月たちは氷雪王国を後にした。

「また一つ、美月の愛が世界を変えましたね」

レオンが感慨深げに言う。

「お嬢さんの愛は、凍った心も溶かすんだな」

カイルも嬉しそうだ。

「これで、また多くの人が幸せになりました」

アルトが満足そうに微笑む。

「美月、あなたの愛は本当に素晴らしい」

エリアとセラフィールも美月を見つめている。

五人の愛情に満ちた眼差しを受けて、美月は改めて実感した。自分がどれほど愛されているかを。そして、その愛こそが自分の力の源であることを。

「みなさんがいてくれるから、私も強くなれるんです」

美月の言葉に、五人の胸が熱くなった。

愛の旅は、まだまだ続いていく。

次はどんな出会いが待っているのだろうか。
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