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第27話「立ち向かう勇気」
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翌朝、セリアは王立魔法学院の第三講義室に向かっていた。今日から始まる特別講義「実用魔法学入門」には、三十名の学生が参加予定だった。
「緊張するわね」
エリスが心配そうにセリアを見る。
「大丈夫よ。学生たちは素直だから、きっと理解してくれる」
しかし、講義室に入った瞬間、セリアは異様な雰囲気を感じ取った。
教室の前方には、豪華な制服を着た貴族出身の学生たちが陣取っている。一方、後方の隅には、質素な服装の平民出身と思われる学生たちが小さくなって座っていた。
そして、教室の中央付近に一人だけ、孤立して座っている少女がいた。栗色の髪を三つ編みにした、十五歳ほどの可憐な少女だ。しかし、その表情には深い悲しみが刻まれている。
「あの子は?」
セリアが小声でエリスに尋ねる。
「リリア・ブラウンという子よ。平民出身だけど、優れた魔法の才能を持っている」
「才能があるのに、なぜ一人で?」
「それが...」
エリスが言いかけたとき、教室の前方から嘲笑の声が聞こえてきた。
「おい、見ろよ。『泥血』のリリアがまた一人で座ってるぜ」
金髪の美男子が、仲間たちと一緒にリリアを指差して笑っている。彼の制服には、名門貴族ロックハート家の紋章がこれみよがしに輝いていた。
「ダミアン・ロックハート...」
エリスが小声でつぶやく。
「彼がいじめの首謀者なの?」
「ええ。父親がロックハート公爵という権力者だから、教授たちも彼には逆らえないの」
セリアの表情が厳しくなる。前世でも、権力を笠に着た理不尽な人間を数多く見てきた。
中でも親の威光を笠に着るやつは最悪の部類だ。
「リリア、お前の魔法なんて所詮は『まぐれ』だろう?平民の血に、真の魔法が宿るはずがない」
ダミアンの侮蔑の言葉に、取り巻き連中たちも同調する。
「そうだそうだ」
「平民は平民らしく、端で大人しくしてろ」
リリアは俯いたまま、何も言い返せずにいる。しかし、その肩が小刻みに震えているのが見えた。
「ひどい...」
エリスが怒りを込めて言う。
「よくあることよ。でも、今日で終わりにしましょう」
セリアは教壇に向かう。
「皆さん、おはようございます。今日から『実用魔法学入門』を担当させていただく、セリア・アルクライトです」
学生たちがざわめく。
「有名な商人の...」
「美容魔法器具を作った人よね」
しかし、ダミアンは不遜な態度を崩さない。期待通りといえば期待通りの態度だった。
「商人風情が、我々に何を教えるというのですか?」
「あなたは?」
「ダミアン・ロックハートです。ロックハート公爵家の嫡男です」
わざわざ家柄を強調する辺り、典型的な権威主義者だった。
「なるほど。では、ダミアン君に質問です。魔法の本質とは何だと思いますか?」
あえて君呼ばわりしてやると、ダミアンは不快げに眉をしかめた。
「決まっているでしょう。強大な力で敵を打ち倒すことです」
「興味深い答えですね。では、他の方はいかがですか?」
セリアが教室を見回すが、誰も手を挙げない。特に後方の平民学生たちは、完全に萎縮している。
ダミアンを恐れて発言しないのだ。
「では、リリアさん」
セリアが直接指名すると、リリアがびくっと身体を震わせた。
「あ...あの...」
「大丈夫です。思ったことを素直に言ってください」
セリアの優しい声に、リリアがゆっくりと顔を上げる。
「私は...魔法は人を幸せにするものだと思います」
「素晴らしい答えです」
セリアが微笑むと、リリアの表情がほんの少しだけ明るくなったような気がした。
大丈夫、まだこの子の心は折れていない。
しかし、ダミアンが被せるように鼻で笑う。
「幸せにする?馬鹿馬鹿しい。魔法は力だ。強者がより高みを目指すための道具です」
「では、実際に見せてもらいましょう」
セリアが魔法を発動する。
「調和の光よ、心を癒し希望を与えよ—ヒーリング・ライト!」
あたたかい光が教室全体を包み込んだ。すると、学生たちの疲れた表情が和らぎ、緊張が解けていく。
「これは...」
「癒しの魔法です。心の傷を癒し、勇気を与える効果があります」
セリアがリリアを見る。
「リリアさんの言う通り、魔法は人を幸せにするものです。力だけが魔法の価値ではありません」
「そんな軟弱な魔法に何の意味があるというのですか?」
ダミアンが負けじと反論するが、セリアは冷静に応じる。
「では、ダミアン君の『強大な力』とやらを見せてもらいましょうか」
「よろしい」
ダミアンが立ち上がって杖を構える。
「闇と炎よ、血の契約なり。地獄の深淵より、復讐の炎よ昇れ。我が敵を灰燼に帰せよ—死の業火よ、フレイム・バースト!」
イキるだけはあって、確かに威力のある炎魔法だった。
高度な詠唱で、本来はこの年代で扱えるような代物ではない。
独学で学んだか、お抱えの魔術師にでも聞きかじったのだろう。
とはいえセリアから見れば、かろうじて発動しているという程度の不完全なレベルだ。
むしろ、このような場所で完全に発動させたら大問題になるレベルの攻撃魔法だ。
正規の威力であれば、周囲を巻き込んで大勢の死者を出してもおかしくない。
つまりは、ダミアンの魔法への不理解と自らの力への驕りの証左だった。
が、不完全なそれでは、絶大な魔力に恵まれているセリアには微塵も通用しない。
「深淵の冷気よ、炎を貪り喰らえ—悪魔の氷よ、アイス・ミラー!」
あえて低位の詠唱による氷魔法で炎を完全に反射させ、ダミアン自身に炎が跳ね返る。
「うわあああ!」
ダミアンが慌てて防御魔法を展開しようとするが、間に合わずに軽い火傷を負う。
もちろん加減は調整していたが、ダミアンにそれがわかろうはずもない。
「ダミアン様!」
取り巻きの学生たちが駆け寄るが、ダミアンのプライドは完全に傷ついていた。
「今のは、防御魔法の応用です」
素知らぬ顔でセリアが説明する。
「相手の攻撃を利用して、逆に相手にダメージを与える技術です。単純な攻撃力では対処できません」
「くっ...」
ダミアンが歯噛みする。
「魔法は、使い方次第で無限の可能性を持ちます。攻撃だけでなく、防御、治癒、生活向上—あらゆる分野で応用できるのです」
セリアが黒板に図を描きながら説明を続ける。
「例えば、農業魔法で作物の収穫量を増やせば、多くの人を飢餓から救えます。医療魔法で病気を治せば、苦しんでいる人を助けられます」
学生たちが真剣に聞き入っている。
「これらは、確かに戦闘魔法ほど派手ではありません。しかし、社会にとってははるかに重要です」
リリアが小さく手を挙げる。
「あの...質問があります」
「どうぞ、リリアさん」
「私は平民出身で、魔力も強くありません。それでも、人の役に立つ魔法を使えるようになりますか?」
セリアの表情が優しくなる。
「もちろんです。魔力の大きさよりも、魔法に込める気持ちの方が重要です」
「気持ち?」
「はい。人を助けたい、社会を良くしたいという強い意志があれば、どんな魔法でも必ず役に立ちます」
ダミアンが割り込む。それなりに根性だけはあるようだった。
「綺麗事を言うな!結局は血筋と才能がすべてだ!平民に何ができるというのだ!」
「それは違います」
セリアの声に、強い意志が込められていた。
「私も、元々は平凡な人間でした。しかし、努力と工夫で、今の地位を築きました」
「平凡?あなたがですか?」
エリスが驚く。
「ええ。前世では—」
セリアが言いかけて止まる。転生のことは、まだ秘密にしておくべきだった。
「つまり、昔の私は何の取り柄もない、普通の女性でした。でも、諦めずに努力を続けた結果、今があります」
セリアがリリアに向き直る。
「リリアさん、あなたの魔法を見せてもらえませんか?」
「で、でも...私の魔法なんて...」
「大丈夫です。きっと素晴らしい魔法ですよ」
リリアが恐る恐る立ち上がる。
「では...『花よ、美しく咲きなさい』—フラワー・ブルーム」
リリアの手から柔らかい光が放たれ、教室に小さな花々が咲き始めた。それは決して派手な魔法ではないが、見る者の心を温かくする美しい魔法だった。
「素晴らしい!」
セリアが拍手する。
「これこそ、真の魔法です。人の心を豊かにし、生活に彩りを添える。こんな魔法を使える人を、誰が『劣っている』などと言えるでしょうか?」
教室に温かい拍手が響く。平民出身の学生たちだけでなく、一部の貴族学生たちも拍手していた。
しかし、ダミアンは納得しない。
「そんな子供騙しの魔法に何の価値があるというのだ!」
「子供騙し?」
セリアの表情が厳しくなる。
「では、ダミアン君。あなたの『価値ある』魔法で、リリアさんと同じことができますか?」
「同じこと?」
「人を幸せにすることです」
ダミアンが言葉に詰まる。
「できないでしょう?なぜなら、あなたの魔法には『愛』がないからです」
「愛?」
「はい。人を思いやる気持ち、社会をより良くしたいという愛情です。それがなければ、どんなに強力な魔法でも、真の価値は生まれません」
セリアの言葉に、教室が静まり返る。
「リリアさんの魔法には、人を幸せにしたいという純粋な愛があります。だからこそ、見る者の心を動かすのです」
リリアが涙を浮かべて、セリアを見つめる。
「今まで誰も...私の魔法を褒めてくれる人はいませんでした...」
「それは周りが間違っていたのです」
セリアがリリアの肩に手を置く。
「あなたの魔法は、この世界を美しくする素晴らしいものです。誇りを持ってください」
「はい...ありがとうございます...」
ダミアンが苦虫を噛み潰したような表情で席に戻る。
「さて、それでは本格的な講義を始めましょう」
セリアが黒板に向かう。
「今日のテーマは『魔法と社会貢献』です。皆さんの魔法が、どのように社会の役に立つかを考えてみましょう」
講義が進むにつれて、学生たちの表情が変わっていく。特に平民出身の学生たちは、初めて自分たちの可能性を認められた喜びで輝いていた。
しかし、授業が終わった後、セリアは廊下でダミアンに呼び止められる。
「セリア・アルクライト」
「何でしょうか、ダミアン君?」
「今日の屈辱は忘れません。必ず仕返しをしてやる」
ダミアンの目には、危険な光が宿っていた。おまけに講師を呼び捨てだ。
「仕返し?」
「平民どもを調子に乗らせたツケは、必ず払ってもらいます」
「それは脅迫ですか?」
「脅迫ではありません。宣戦布告です」
ダミアンが肩を怒らせて去っていく。
「セリア、大丈夫?」
エリスが心配そうに駆け寄る。
「ええ。でも、これで本格的な戦いが始まるわね」
セリアは廊下の向こうを見つめる。
「前世では、理不尽ないじめに屈してしまったこともある。でも今度は違う。必ず、すべての学生が平等に学べる環境を作ってみせる」
翌日から、ダミアンたちによる陰湿な嫌がらせが始まった。しかし、セリアはそれを予想していた。
真の戦いは、これからなのである。
魔法学院を舞台にした、正義と理不尽の戦いが、今始まろうとしていた。
「緊張するわね」
エリスが心配そうにセリアを見る。
「大丈夫よ。学生たちは素直だから、きっと理解してくれる」
しかし、講義室に入った瞬間、セリアは異様な雰囲気を感じ取った。
教室の前方には、豪華な制服を着た貴族出身の学生たちが陣取っている。一方、後方の隅には、質素な服装の平民出身と思われる学生たちが小さくなって座っていた。
そして、教室の中央付近に一人だけ、孤立して座っている少女がいた。栗色の髪を三つ編みにした、十五歳ほどの可憐な少女だ。しかし、その表情には深い悲しみが刻まれている。
「あの子は?」
セリアが小声でエリスに尋ねる。
「リリア・ブラウンという子よ。平民出身だけど、優れた魔法の才能を持っている」
「才能があるのに、なぜ一人で?」
「それが...」
エリスが言いかけたとき、教室の前方から嘲笑の声が聞こえてきた。
「おい、見ろよ。『泥血』のリリアがまた一人で座ってるぜ」
金髪の美男子が、仲間たちと一緒にリリアを指差して笑っている。彼の制服には、名門貴族ロックハート家の紋章がこれみよがしに輝いていた。
「ダミアン・ロックハート...」
エリスが小声でつぶやく。
「彼がいじめの首謀者なの?」
「ええ。父親がロックハート公爵という権力者だから、教授たちも彼には逆らえないの」
セリアの表情が厳しくなる。前世でも、権力を笠に着た理不尽な人間を数多く見てきた。
中でも親の威光を笠に着るやつは最悪の部類だ。
「リリア、お前の魔法なんて所詮は『まぐれ』だろう?平民の血に、真の魔法が宿るはずがない」
ダミアンの侮蔑の言葉に、取り巻き連中たちも同調する。
「そうだそうだ」
「平民は平民らしく、端で大人しくしてろ」
リリアは俯いたまま、何も言い返せずにいる。しかし、その肩が小刻みに震えているのが見えた。
「ひどい...」
エリスが怒りを込めて言う。
「よくあることよ。でも、今日で終わりにしましょう」
セリアは教壇に向かう。
「皆さん、おはようございます。今日から『実用魔法学入門』を担当させていただく、セリア・アルクライトです」
学生たちがざわめく。
「有名な商人の...」
「美容魔法器具を作った人よね」
しかし、ダミアンは不遜な態度を崩さない。期待通りといえば期待通りの態度だった。
「商人風情が、我々に何を教えるというのですか?」
「あなたは?」
「ダミアン・ロックハートです。ロックハート公爵家の嫡男です」
わざわざ家柄を強調する辺り、典型的な権威主義者だった。
「なるほど。では、ダミアン君に質問です。魔法の本質とは何だと思いますか?」
あえて君呼ばわりしてやると、ダミアンは不快げに眉をしかめた。
「決まっているでしょう。強大な力で敵を打ち倒すことです」
「興味深い答えですね。では、他の方はいかがですか?」
セリアが教室を見回すが、誰も手を挙げない。特に後方の平民学生たちは、完全に萎縮している。
ダミアンを恐れて発言しないのだ。
「では、リリアさん」
セリアが直接指名すると、リリアがびくっと身体を震わせた。
「あ...あの...」
「大丈夫です。思ったことを素直に言ってください」
セリアの優しい声に、リリアがゆっくりと顔を上げる。
「私は...魔法は人を幸せにするものだと思います」
「素晴らしい答えです」
セリアが微笑むと、リリアの表情がほんの少しだけ明るくなったような気がした。
大丈夫、まだこの子の心は折れていない。
しかし、ダミアンが被せるように鼻で笑う。
「幸せにする?馬鹿馬鹿しい。魔法は力だ。強者がより高みを目指すための道具です」
「では、実際に見せてもらいましょう」
セリアが魔法を発動する。
「調和の光よ、心を癒し希望を与えよ—ヒーリング・ライト!」
あたたかい光が教室全体を包み込んだ。すると、学生たちの疲れた表情が和らぎ、緊張が解けていく。
「これは...」
「癒しの魔法です。心の傷を癒し、勇気を与える効果があります」
セリアがリリアを見る。
「リリアさんの言う通り、魔法は人を幸せにするものです。力だけが魔法の価値ではありません」
「そんな軟弱な魔法に何の意味があるというのですか?」
ダミアンが負けじと反論するが、セリアは冷静に応じる。
「では、ダミアン君の『強大な力』とやらを見せてもらいましょうか」
「よろしい」
ダミアンが立ち上がって杖を構える。
「闇と炎よ、血の契約なり。地獄の深淵より、復讐の炎よ昇れ。我が敵を灰燼に帰せよ—死の業火よ、フレイム・バースト!」
イキるだけはあって、確かに威力のある炎魔法だった。
高度な詠唱で、本来はこの年代で扱えるような代物ではない。
独学で学んだか、お抱えの魔術師にでも聞きかじったのだろう。
とはいえセリアから見れば、かろうじて発動しているという程度の不完全なレベルだ。
むしろ、このような場所で完全に発動させたら大問題になるレベルの攻撃魔法だ。
正規の威力であれば、周囲を巻き込んで大勢の死者を出してもおかしくない。
つまりは、ダミアンの魔法への不理解と自らの力への驕りの証左だった。
が、不完全なそれでは、絶大な魔力に恵まれているセリアには微塵も通用しない。
「深淵の冷気よ、炎を貪り喰らえ—悪魔の氷よ、アイス・ミラー!」
あえて低位の詠唱による氷魔法で炎を完全に反射させ、ダミアン自身に炎が跳ね返る。
「うわあああ!」
ダミアンが慌てて防御魔法を展開しようとするが、間に合わずに軽い火傷を負う。
もちろん加減は調整していたが、ダミアンにそれがわかろうはずもない。
「ダミアン様!」
取り巻きの学生たちが駆け寄るが、ダミアンのプライドは完全に傷ついていた。
「今のは、防御魔法の応用です」
素知らぬ顔でセリアが説明する。
「相手の攻撃を利用して、逆に相手にダメージを与える技術です。単純な攻撃力では対処できません」
「くっ...」
ダミアンが歯噛みする。
「魔法は、使い方次第で無限の可能性を持ちます。攻撃だけでなく、防御、治癒、生活向上—あらゆる分野で応用できるのです」
セリアが黒板に図を描きながら説明を続ける。
「例えば、農業魔法で作物の収穫量を増やせば、多くの人を飢餓から救えます。医療魔法で病気を治せば、苦しんでいる人を助けられます」
学生たちが真剣に聞き入っている。
「これらは、確かに戦闘魔法ほど派手ではありません。しかし、社会にとってははるかに重要です」
リリアが小さく手を挙げる。
「あの...質問があります」
「どうぞ、リリアさん」
「私は平民出身で、魔力も強くありません。それでも、人の役に立つ魔法を使えるようになりますか?」
セリアの表情が優しくなる。
「もちろんです。魔力の大きさよりも、魔法に込める気持ちの方が重要です」
「気持ち?」
「はい。人を助けたい、社会を良くしたいという強い意志があれば、どんな魔法でも必ず役に立ちます」
ダミアンが割り込む。それなりに根性だけはあるようだった。
「綺麗事を言うな!結局は血筋と才能がすべてだ!平民に何ができるというのだ!」
「それは違います」
セリアの声に、強い意志が込められていた。
「私も、元々は平凡な人間でした。しかし、努力と工夫で、今の地位を築きました」
「平凡?あなたがですか?」
エリスが驚く。
「ええ。前世では—」
セリアが言いかけて止まる。転生のことは、まだ秘密にしておくべきだった。
「つまり、昔の私は何の取り柄もない、普通の女性でした。でも、諦めずに努力を続けた結果、今があります」
セリアがリリアに向き直る。
「リリアさん、あなたの魔法を見せてもらえませんか?」
「で、でも...私の魔法なんて...」
「大丈夫です。きっと素晴らしい魔法ですよ」
リリアが恐る恐る立ち上がる。
「では...『花よ、美しく咲きなさい』—フラワー・ブルーム」
リリアの手から柔らかい光が放たれ、教室に小さな花々が咲き始めた。それは決して派手な魔法ではないが、見る者の心を温かくする美しい魔法だった。
「素晴らしい!」
セリアが拍手する。
「これこそ、真の魔法です。人の心を豊かにし、生活に彩りを添える。こんな魔法を使える人を、誰が『劣っている』などと言えるでしょうか?」
教室に温かい拍手が響く。平民出身の学生たちだけでなく、一部の貴族学生たちも拍手していた。
しかし、ダミアンは納得しない。
「そんな子供騙しの魔法に何の価値があるというのだ!」
「子供騙し?」
セリアの表情が厳しくなる。
「では、ダミアン君。あなたの『価値ある』魔法で、リリアさんと同じことができますか?」
「同じこと?」
「人を幸せにすることです」
ダミアンが言葉に詰まる。
「できないでしょう?なぜなら、あなたの魔法には『愛』がないからです」
「愛?」
「はい。人を思いやる気持ち、社会をより良くしたいという愛情です。それがなければ、どんなに強力な魔法でも、真の価値は生まれません」
セリアの言葉に、教室が静まり返る。
「リリアさんの魔法には、人を幸せにしたいという純粋な愛があります。だからこそ、見る者の心を動かすのです」
リリアが涙を浮かべて、セリアを見つめる。
「今まで誰も...私の魔法を褒めてくれる人はいませんでした...」
「それは周りが間違っていたのです」
セリアがリリアの肩に手を置く。
「あなたの魔法は、この世界を美しくする素晴らしいものです。誇りを持ってください」
「はい...ありがとうございます...」
ダミアンが苦虫を噛み潰したような表情で席に戻る。
「さて、それでは本格的な講義を始めましょう」
セリアが黒板に向かう。
「今日のテーマは『魔法と社会貢献』です。皆さんの魔法が、どのように社会の役に立つかを考えてみましょう」
講義が進むにつれて、学生たちの表情が変わっていく。特に平民出身の学生たちは、初めて自分たちの可能性を認められた喜びで輝いていた。
しかし、授業が終わった後、セリアは廊下でダミアンに呼び止められる。
「セリア・アルクライト」
「何でしょうか、ダミアン君?」
「今日の屈辱は忘れません。必ず仕返しをしてやる」
ダミアンの目には、危険な光が宿っていた。おまけに講師を呼び捨てだ。
「仕返し?」
「平民どもを調子に乗らせたツケは、必ず払ってもらいます」
「それは脅迫ですか?」
「脅迫ではありません。宣戦布告です」
ダミアンが肩を怒らせて去っていく。
「セリア、大丈夫?」
エリスが心配そうに駆け寄る。
「ええ。でも、これで本格的な戦いが始まるわね」
セリアは廊下の向こうを見つめる。
「前世では、理不尽ないじめに屈してしまったこともある。でも今度は違う。必ず、すべての学生が平等に学べる環境を作ってみせる」
翌日から、ダミアンたちによる陰湿な嫌がらせが始まった。しかし、セリアはそれを予想していた。
真の戦いは、これからなのである。
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