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秘匿された王子
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どんどん赤く腫れ上がる右脛を見ていると、さっきしたことを後悔してしまう。
思い立つとすぐに実行に移そうとするのは、きっと悪い癖だ。
これまでだって何度もルドルフに叱られてきた。
「…ごめん。もう、しないから。」
「そう願います。変なからくりを作ってボヤ騒ぎを起こしたり、羽の作り物で窓から飛び立とうとされたり…いいですね。もう少しだと申し上げているではないですか。」
…そんなこと、あったな。
羽はいけると思ったんだ。
飛び立とうとした瞬間、血相を変えたルドルフが飛び込んできて、取り押さえられたっけ。
「もう少しなら、ルドルフがこのまま護衛してくれればいいじゃないか…。本当は、もう、嫌になったんだろ?」
なんとなくルドルフの顔を見られなくて、俯く俺の目にはきっちりと制服を着込んだ逞しい足腰が見える。
取り押さえられたときの力は凄まじかった。
「本当なら、ノア様が…その時までお仕えするつもりでした。ですが、そうもいかなくなったのです。ユリウスは私の部下で誰よりも信頼がおける奴です。ユリウスならあなた様をいついかなる時でも、必ずお守りしてくれます。」
がさごそと、ルドルフがズボンのポケットをまさぐっている。
「ノア様、口を。」
顔を上げ大人しく口を開けると、いつものように大きな飴玉をコロンと入れられる。
あんなに怖い顔をしているのに、ポケットから出てくるのはファンシーな包みでくるまれた甘い飴玉だ。
ファンシーな包み紙をごつごつとした指で剥き、口に入れてくれることはもうないのかな。
「林檎味…。しょっぱい…。」
さっきは脚が痛くて泣いたのに、なんでだろう。胸が痛くて、泣けてくる。
涙が混じって、甘じょっぱいじゃないか。
「ノア様、わたしもたまに参りますよ。」
「ふん。どうだか。」
「しょうのない方ですね。」
「うるさい。」
ぎぃぃぃと、扉が開く音がするので、慌てて涙を拭う。
この涙は、なんとなく見られたくない。
右手には水が入った桶、左手には数枚の柔らかそうな布や数個の瓶類を抱えユリウスが戻ってきた。
あらためてユリウスを見ると、見慣れたルドルフとは違い、なんていうか、うん。地味?
背はすらっと高いけどルドルフより少し低いし、がっちり逞しいルドルフと比べると線が細い。
これまで何人か不合格にされた騎士達の中でも際立って細い。
…大丈夫なのか?
いや、ここにいれば、魔物とか悪い奴が襲ってくるようなことはないけど…。
「遅くなりました。すぐに冷やします。」
俺と上司であるルドルフに頭を下げる。なんか、真面目そうだ。
「ずいぶん色々抱えてきたんだなあ。跡が残らないといいが…」
「ええ、そうならないよう色々用意して参りました。」
手際よく準備を整えると、失礼しますと、そっと右脚に触れてくる。触れる度に言うのも、なんだかこう、真面目だよな。
「うわ、つめたっ!」
「少しだけ、堪えてください。」
表情一つ変えず、淡々と処置をしていくユリウスは、当然ながらルドルフとは別人で、これからはこのユリウスが俺の護衛兼世話役に?
「お前、ユリウスだっけ?本当にこんな役目を引き受けていいのか?断ってもいいんだぞ。」
今ならまだ引き返せる。
こんなとこで、俺の世話役するなんて嫌だろ。
つまらないぞ。
「ノア様、これは決定事項です。勝手なことを仰られては困ります。」
ルドルフが眉を顰めているけど、もう言っちゃったことは取り返えせない。
「断るなど。大変光栄なお役目でございます。」
ほら、やっぱり、無理って……
「え?いいの?」
屈んでいたユリウスは一度すっと立ち上がり、寝台脇に膝をついて、臣下の礼をとった。
「え?そこまでする?」
「ユリウス マクワイアと申します。この度のお役目謹んでお受けいたします。いついかなるときも、ノア様を必ずお守りすると誓います。」
やだ、何コレ…どうしたらいいんだっけ?
「ノア様、騎士の誓いです。お分かりですね。」
ルドルフが満足気に頷いて促してくるが、ええと、どうするんだっけ?
確か…
「その誓い、受け取った。その役目全うせよ。」
なんか、違うかも?まあ、いいか?
おそるおそる右手の甲を上にして差し出すと、ユリウスはその額を一度だけ掠めるように振れ、再度深く跪いた。
「御意。」
ぎょい…
何コレ?
なんか、そわそわする。
もっと、こう、気楽な感じで良くない?
よろしくね!うす!
みたいな。
堅い。堅すぎるだろ。
ルドルフだって初対面のとき、ここまでしなかったじゃないか!
ルドルフを睨むと、なぜかくつくつ笑っている。
ユリウスは未だ跪いたままだ。
「ちょっと、もういいから、普通にして!楽にして!!!」
そう言われて、やっと普通に立ち上がったユリウスに思いやられる。
ただでさえ息苦しく囲われているのに、これ以上息苦しくなったらと思うと、不安で不安で仕方ない。
思い立つとすぐに実行に移そうとするのは、きっと悪い癖だ。
これまでだって何度もルドルフに叱られてきた。
「…ごめん。もう、しないから。」
「そう願います。変なからくりを作ってボヤ騒ぎを起こしたり、羽の作り物で窓から飛び立とうとされたり…いいですね。もう少しだと申し上げているではないですか。」
…そんなこと、あったな。
羽はいけると思ったんだ。
飛び立とうとした瞬間、血相を変えたルドルフが飛び込んできて、取り押さえられたっけ。
「もう少しなら、ルドルフがこのまま護衛してくれればいいじゃないか…。本当は、もう、嫌になったんだろ?」
なんとなくルドルフの顔を見られなくて、俯く俺の目にはきっちりと制服を着込んだ逞しい足腰が見える。
取り押さえられたときの力は凄まじかった。
「本当なら、ノア様が…その時までお仕えするつもりでした。ですが、そうもいかなくなったのです。ユリウスは私の部下で誰よりも信頼がおける奴です。ユリウスならあなた様をいついかなる時でも、必ずお守りしてくれます。」
がさごそと、ルドルフがズボンのポケットをまさぐっている。
「ノア様、口を。」
顔を上げ大人しく口を開けると、いつものように大きな飴玉をコロンと入れられる。
あんなに怖い顔をしているのに、ポケットから出てくるのはファンシーな包みでくるまれた甘い飴玉だ。
ファンシーな包み紙をごつごつとした指で剥き、口に入れてくれることはもうないのかな。
「林檎味…。しょっぱい…。」
さっきは脚が痛くて泣いたのに、なんでだろう。胸が痛くて、泣けてくる。
涙が混じって、甘じょっぱいじゃないか。
「ノア様、わたしもたまに参りますよ。」
「ふん。どうだか。」
「しょうのない方ですね。」
「うるさい。」
ぎぃぃぃと、扉が開く音がするので、慌てて涙を拭う。
この涙は、なんとなく見られたくない。
右手には水が入った桶、左手には数枚の柔らかそうな布や数個の瓶類を抱えユリウスが戻ってきた。
あらためてユリウスを見ると、見慣れたルドルフとは違い、なんていうか、うん。地味?
背はすらっと高いけどルドルフより少し低いし、がっちり逞しいルドルフと比べると線が細い。
これまで何人か不合格にされた騎士達の中でも際立って細い。
…大丈夫なのか?
いや、ここにいれば、魔物とか悪い奴が襲ってくるようなことはないけど…。
「遅くなりました。すぐに冷やします。」
俺と上司であるルドルフに頭を下げる。なんか、真面目そうだ。
「ずいぶん色々抱えてきたんだなあ。跡が残らないといいが…」
「ええ、そうならないよう色々用意して参りました。」
手際よく準備を整えると、失礼しますと、そっと右脚に触れてくる。触れる度に言うのも、なんだかこう、真面目だよな。
「うわ、つめたっ!」
「少しだけ、堪えてください。」
表情一つ変えず、淡々と処置をしていくユリウスは、当然ながらルドルフとは別人で、これからはこのユリウスが俺の護衛兼世話役に?
「お前、ユリウスだっけ?本当にこんな役目を引き受けていいのか?断ってもいいんだぞ。」
今ならまだ引き返せる。
こんなとこで、俺の世話役するなんて嫌だろ。
つまらないぞ。
「ノア様、これは決定事項です。勝手なことを仰られては困ります。」
ルドルフが眉を顰めているけど、もう言っちゃったことは取り返えせない。
「断るなど。大変光栄なお役目でございます。」
ほら、やっぱり、無理って……
「え?いいの?」
屈んでいたユリウスは一度すっと立ち上がり、寝台脇に膝をついて、臣下の礼をとった。
「え?そこまでする?」
「ユリウス マクワイアと申します。この度のお役目謹んでお受けいたします。いついかなるときも、ノア様を必ずお守りすると誓います。」
やだ、何コレ…どうしたらいいんだっけ?
「ノア様、騎士の誓いです。お分かりですね。」
ルドルフが満足気に頷いて促してくるが、ええと、どうするんだっけ?
確か…
「その誓い、受け取った。その役目全うせよ。」
なんか、違うかも?まあ、いいか?
おそるおそる右手の甲を上にして差し出すと、ユリウスはその額を一度だけ掠めるように振れ、再度深く跪いた。
「御意。」
ぎょい…
何コレ?
なんか、そわそわする。
もっと、こう、気楽な感じで良くない?
よろしくね!うす!
みたいな。
堅い。堅すぎるだろ。
ルドルフだって初対面のとき、ここまでしなかったじゃないか!
ルドルフを睨むと、なぜかくつくつ笑っている。
ユリウスは未だ跪いたままだ。
「ちょっと、もういいから、普通にして!楽にして!!!」
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