秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

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秘匿された王子

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この国の王には、この国から娶った一人の正妃の他、九人の側妃がいる。九人の側妃はみな他国から嫁いできたお方たちで、十人全ての妃が一人ずつ宿したのは全て男のお子だ。

第一から第三王子までは同い年。王の座を狙い牽制し合っていることで有名だが、それ以降の王子についてはその存在や所在が曖昧だ。

一から三の存在感が圧倒的であると同時に、いかんせん多すぎるのだ。

第四以降は国民の興味関心が薄れ、王宮に勤める者達ですら誰が誰のお子で、第何王子なのか明確に区別できる者は少ない。

かく言うわたしも、第四以降の王子に関しては正直無関心だった。

建国当時から代々王に仕えてきた我が一族にとって、重要なお方は現王、そしてそれを引き継ぐ皇太子のみ。

そのため三年前のあの日、現王に呼び出され、そして命じられた内容に耳を疑ったことは、今でも記憶に新しい。




「ルドルフ、そなたを第十王子の護衛に命ずる。
お前しか頼める者がいないのだ。いいな。」




若くして周辺八つの諸国を制し、この国を帝国せしめた王の命をすぐに理解することはできなかった。

側近として、時には親友として、ずっとお仕えしてきた方だ。

それなのに、わたしを側近から外し、しかも第十王子に仕えろなど、降格しろということか?

程のいい左遷。最早不要ということか?

「…ずっと、誠心誠意お仕えし、おこがましくも親友だと、そう思っていたのはわたしだけだったのですね。」

「何を言っている。親友で、愛する妻以外決して目移りしないお前にしか頼めぬことだ。」

長年苦楽を共にしてきた。そう言い放つ目に、嘘偽りはなかったように見える。

「じゃあ、なぜ第王子なんだ?第一ならまだ納得できる。しかし、十では納得できん。それに、妻のことは関係ないだろ。」

臣下の立場から一転し、親友の口調で問い詰めると、王は、シュヴァイゼルは意味深に声を潜め近くに来いと、人差し指で呼び寄せた。

「これを知るのは、わたしとニイナと一人の医者だけ。知ってしまえば、お前はもう決して断ることはできない。それでも、知りたいか?」

何か、これほどまで秘匿される何かが第十王子にはあるのか?

「ノアはな…。」

ああ確か、第十王子のお名前はノア様…

「それ以上は、聞きたくない。聞くつもりもない。だからこの先は…」

「子を産めるんだ。」

「は?」

「しかもな……。まあ、これは実際目にすれば、わかることか。」

「は?お前、言うなって言ったのに…。産める?王子じゃなく、王女だったのか?」

「いいや、王子だよ。」

「王子に子は産めないだろ。ふざけているのか?」

「久しぶりに産まれたんだ。子を成せる王子が。何年ぶりだろうな。わたしも初めて目にする。」

男に子は産めない。

唯一の例外、それは王族にだけ稀に現れる特異な体質。

知らなかった訳ではないが、存在そのものが伝説と化している…

「まさか、本当に…」

「凄いだろう!まさかの、まさかで本当なんだ!!!」

薄紫色の瞳が、興奮しうるうると怪しく潤んでいる。

帝国を作りたい、俺に協力しろと詰め寄ってきたあの時と同じ目だ。

「本当は自分の手元で育てたいのに、ニイナが許してくれないんだ。こんなに愛おしいのに。どうしてだと思う?」

「お前、まさか自分の子を…」

「嫌だなあ。自分の子に手を出すなんて、流石に俺もそこまで鬼畜じゃないよ。」

その発想自体が鬼畜なんだ。

「はあ、ノア、なんで俺の子なんだろう。でも他人の子でも嫌だし、ああ、でも、他人の子だったら…」

いつの間にか、互いの口調は学生時代のくだけたものになっていた。

王としての威厳より、シュヴァイゼルの飄々とした底知れぬ裏の顔の方が恐ろしい。

こいつなら、やりかねない。

属国とされた八つの国が送り込んできた美姫たち。

嫌々、泣く泣く、恐々としてやって来た美姫たちは、全員たった一晩でこの王に陥落された。

王としては申し分なく、親友としてはいい奴だが、こいつは間違いなく鬼畜だ。

まだ見ぬノア様をお守りしなければ。

まずは、何よりもこの王である父親から。

わたしは一つ、心に誓った。





子ども一人では決して開けられぬ重厚な扉の奥に、ノア様はいた。

後宮の奥深く、こんな所に第十王子が囲われていたなど、知る由もない。

ずっとここに、誰にも知られず…

何に使う物なのか、小さな部品が床一面に広がっていた。

ノア様は裸足だった。

「誰?鬼?」

オニ?

父親に抱きかかえられ、ノア様が鈴を転がすようなお声で初めてわたしに発した言葉は今でも忘れられない。

そして何より、ノア様を初めて目にしたときの衝撃も。










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