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シュヴァイゼルの思惑
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ノアがおかしな事を言い始めた。
ユリウスと婚約したい?
空耳であって欲しい。
初めて顔合わせをしたあの晩、急に倒れこんだノアを抱き留めたことすら許しがたいと言うのに、二人だけの部屋で…。
他の護衛は望めないため、仕方なく彼奴を護衛に付けているが、早めに手を打たねばならない。
ノアはユリウスで良いと言っている。
まだ大丈夫だ。
ノアの相手については、吟味に吟味を重ね、ようやく見つけたのだ。
他国にも良さそうな相手はいたが、やはり近くに置いておくのが1番いい。
王宮から程近い所に、ノアとその相手を住まわせる手筈を整えている。いずれノアが王になってもいいだろう。その時はわたしがその別棟に移り住めばいい事だ。
ユリウスがいいと言い始める前に、迅速に事を進めねば。
「…何を考えているんだ。」
「そりゃあ勿論、ノアの事だ。」
「…ユリウスを罰するのか?」
「できるならそうしたいが、ノアが怒るだろう。仕方なく我慢しているんだよ、これでも。」
臣下然として立っていたルドルフが、どかっと目の前に腰を下ろした。本来なら許されないことだろうが、注いでやったリキュールを遠慮なしに飲み干すルドルフのことを親友として気に入っている。
「…ユリウスに、そんな気はない。ノア様がユリウスの事を、」
「まさか、ノアがユリウスに気があるとでも言うんじゃないだろうね。」
「……とにかく、ユリウスはよくやっている。ユリウスを責めるな。」
分かっている。あれはどう見ても、ノアが一方的に抱きついていただけだ。引き剥がそうにも、首を振ってなかなか離れようとしなかった。抱き合っていた訳ではない。
「其方も妃らも、随分とユリウスを信頼しているようだな。妃らは、ノアが望むならユリウスでいいじゃないかと言い始めている。」
「…駄目なのか。信頼している部下だし、生家だって辺鄙な場所にはあるが貴族だ。」
空になったグラスに無言でリキュールを注ぎ込み、二口三口で飲み干す。年代ものの奥深くいい味だ。量を重視するルドルフには勿体ない代物だ。
「先日ニイナの事を知らせていなかったことをお前は責めてきたが、お前はどうだ?」
ニイナが渡り人であったことを伝えていなかった事に対し、ルドルフは何度も不平を漏らしていた。ニイナが自由に動き回るためには、極力秘めておく必要があったのだからしょうがない。
ルドルフに知らせていれば、やれ護衛が必要だなんだともっと大事になっていただろう。だから知らせなかったのだ。
変装したニイナに気がつく者は誰もいなかった。とても面白い女だ。
「急に、何のことだ?」
ルドルフは全く心当たりがないと言う顔をしている。
「…ユリウスは、生家と言われているあの家の本当の子ではないだろう?」
「調べたのか?」
「ふん。当たり前だ。ノアを預けているのだからな。何故黙っていた?」
「それは……、ユリウス自身知らない事だ。本当にあの家の子だと思っている。生まれてからこの方、本当の親という者は誰一人現れなかった。怪しげな者が訪ねてくるようなこともなかったと聞いている。」
「…本人も知らないのか。詳しく聞かせろ。」
ユリウスは本当の親が誰かも分からない、恐らく捨て子だろうとの事だった。
そんな者をノアの護衛につけていたとは。
「出自の怪しい者をノアの婚約者、いや伴侶とすることなど、尚更できないであろう。ルドルフ、子を産める王族が皆幸せに生涯を過ごせたと思っているのか?」
ルドルフの手は、グラスを強く握りしめたまま離さない。あれではグラスが割れてしまうかもしれない。
貴重なグラスだと言うのに…。
翌日、ルドルフを含め妃らを全員王宮へと呼び寄せた。
ノアの婚約についてだと、そう思って集まっている事だろう。
十人も揃うと、我ながら壮観だなと思う。十人ともなると幾ばくかの杞憂はあったが、ナターシャは上手くやっているようだ。後宮で揉め事など面倒でしょうがない。
ノアを任せたのも大きいか?
ノアがいなければ、十人がここまで纏まることはできなかった筈だ。
「さて、皆んな集まったね。どうしてわたしがノアを君たちに託していたのか。秘匿し続けていたのか。そろそろ話してもいい頃だろう。ニイナもね、初めは反対していたんだよ。他の王子たちと同じように過ごさせたいとね。」
ニイナは今日はまた、先日の晩餐会とは打って変わり、奇妙な出立ちをしている。
こちらの姿の方が見慣れてしまった。
奇妙な出立ちのニイナは、長い歴史と共に飴色に変色した古めかしい綴り本を妃たちの目の前に差し出した。
ユリウスと婚約したい?
空耳であって欲しい。
初めて顔合わせをしたあの晩、急に倒れこんだノアを抱き留めたことすら許しがたいと言うのに、二人だけの部屋で…。
他の護衛は望めないため、仕方なく彼奴を護衛に付けているが、早めに手を打たねばならない。
ノアはユリウスで良いと言っている。
まだ大丈夫だ。
ノアの相手については、吟味に吟味を重ね、ようやく見つけたのだ。
他国にも良さそうな相手はいたが、やはり近くに置いておくのが1番いい。
王宮から程近い所に、ノアとその相手を住まわせる手筈を整えている。いずれノアが王になってもいいだろう。その時はわたしがその別棟に移り住めばいい事だ。
ユリウスがいいと言い始める前に、迅速に事を進めねば。
「…何を考えているんだ。」
「そりゃあ勿論、ノアの事だ。」
「…ユリウスを罰するのか?」
「できるならそうしたいが、ノアが怒るだろう。仕方なく我慢しているんだよ、これでも。」
臣下然として立っていたルドルフが、どかっと目の前に腰を下ろした。本来なら許されないことだろうが、注いでやったリキュールを遠慮なしに飲み干すルドルフのことを親友として気に入っている。
「…ユリウスに、そんな気はない。ノア様がユリウスの事を、」
「まさか、ノアがユリウスに気があるとでも言うんじゃないだろうね。」
「……とにかく、ユリウスはよくやっている。ユリウスを責めるな。」
分かっている。あれはどう見ても、ノアが一方的に抱きついていただけだ。引き剥がそうにも、首を振ってなかなか離れようとしなかった。抱き合っていた訳ではない。
「其方も妃らも、随分とユリウスを信頼しているようだな。妃らは、ノアが望むならユリウスでいいじゃないかと言い始めている。」
「…駄目なのか。信頼している部下だし、生家だって辺鄙な場所にはあるが貴族だ。」
空になったグラスに無言でリキュールを注ぎ込み、二口三口で飲み干す。年代ものの奥深くいい味だ。量を重視するルドルフには勿体ない代物だ。
「先日ニイナの事を知らせていなかったことをお前は責めてきたが、お前はどうだ?」
ニイナが渡り人であったことを伝えていなかった事に対し、ルドルフは何度も不平を漏らしていた。ニイナが自由に動き回るためには、極力秘めておく必要があったのだからしょうがない。
ルドルフに知らせていれば、やれ護衛が必要だなんだともっと大事になっていただろう。だから知らせなかったのだ。
変装したニイナに気がつく者は誰もいなかった。とても面白い女だ。
「急に、何のことだ?」
ルドルフは全く心当たりがないと言う顔をしている。
「…ユリウスは、生家と言われているあの家の本当の子ではないだろう?」
「調べたのか?」
「ふん。当たり前だ。ノアを預けているのだからな。何故黙っていた?」
「それは……、ユリウス自身知らない事だ。本当にあの家の子だと思っている。生まれてからこの方、本当の親という者は誰一人現れなかった。怪しげな者が訪ねてくるようなこともなかったと聞いている。」
「…本人も知らないのか。詳しく聞かせろ。」
ユリウスは本当の親が誰かも分からない、恐らく捨て子だろうとの事だった。
そんな者をノアの護衛につけていたとは。
「出自の怪しい者をノアの婚約者、いや伴侶とすることなど、尚更できないであろう。ルドルフ、子を産める王族が皆幸せに生涯を過ごせたと思っているのか?」
ルドルフの手は、グラスを強く握りしめたまま離さない。あれではグラスが割れてしまうかもしれない。
貴重なグラスだと言うのに…。
翌日、ルドルフを含め妃らを全員王宮へと呼び寄せた。
ノアの婚約についてだと、そう思って集まっている事だろう。
十人も揃うと、我ながら壮観だなと思う。十人ともなると幾ばくかの杞憂はあったが、ナターシャは上手くやっているようだ。後宮で揉め事など面倒でしょうがない。
ノアを任せたのも大きいか?
ノアがいなければ、十人がここまで纏まることはできなかった筈だ。
「さて、皆んな集まったね。どうしてわたしがノアを君たちに託していたのか。秘匿し続けていたのか。そろそろ話してもいい頃だろう。ニイナもね、初めは反対していたんだよ。他の王子たちと同じように過ごさせたいとね。」
ニイナは今日はまた、先日の晩餐会とは打って変わり、奇妙な出立ちをしている。
こちらの姿の方が見慣れてしまった。
奇妙な出立ちのニイナは、長い歴史と共に飴色に変色した古めかしい綴り本を妃たちの目の前に差し出した。
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