秘匿された第十王子は悪態をつく

シュヴァイゼルの思惑

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「…それで、誰を婚約者にするつもりじゃ？」

そっぽを向いたままナターシャが尋ねてくる。

数人まで絞り上げたものの、そこからが難儀だった。唯一の一人を選び出すには決め手に欠けたからだ。

ならばノアに選ばせてやろうと、剣術大会への観戦を認め、その者らを目立つ席で観戦させたと言うのに、あれは失敗だった。

家格もいい、見た目もいい、悪い噂のない者たちだ。大会に参加する騎士同様、若い男女の視線は彼らに釘付けであったと言うのに、ノアときたらどうだ？

ユリウス以外目に入っていない様子だったではないか。

「……シュヴァイゼル？」

ナターシャの声で我に返る。

「…ああ、すまない。少し考え事をしていた。」

思い返すだけで、あの日の苛立ちがぶり返えりそうだ。

ナターシャが怪訝そうに見上げてくる。

「今現在のこの国においては、これ以上ない人物だろう。シオンにしようと思っている。」

ただ一人、例の渡り人に何の興味関心も示さなかった唯一の者、それがノアの相手だ。

「ほう、確かに、あの者であれば…。妾も反対はしないが…」

他の妃達はどの人物かいまいちピンと来ていないのであろう。互いに顔を見合わせて首を傾げている。

「…シオンとは、あのシオンでしょうか？」

「ああそうだよ、ルドルフはよく知っているだろう？シオンは今騎士団に所属しているからね。」

「…やはりあのシオンですか…。確かに…」

ルドルフもユリウスもよく知っているはずだ。

若手ながら実力もあり、実家は裕福な侯爵家、且つ現宰相の三男である人物。シュヴァリエの学友でもある。

「…わたしはノアが望むのであれば、ユリウスで良いと、そう思っています。」

こういった場ではあまり発言することのないニイナが声を上げた。

「そうじゃ、ノアはユリウスが良いと言っておったのだろう？」

ナターシャの発言は間違えている。

「ナターシャ、ノアはそんなこと言っていないよ。」

「ノアは、ユリウスがいいと言っていました。なぜ、お許し下さらないのですか？」

「ニイナ、君も間違えている。ノアはそんなこと言っていないじゃないか。」

ユリウスが、なんて言っていない。

ユリウスで、が正解だ。

「とにかく、顔合わせをする準備は整えてある。話しは以上だ。」

妃達は皆物言いたげな顔をしているが、これ以上はもう話すことなどない。

ナターシャはそんな雰囲気を感じとったのか、ルドルフを促すと妃達を連れて部屋を出て行った。




なぜユリウスではだめなのか？

妃達の目はそう言って、わたしを責めているようだった。

「なぜなら、家格と出自と…」

……そんなもの、本当はどうにでも出来るのだ。

なのにわたしは、それをしたくはない。

ノアが剣術大会の日に送ったユリウスへの視線。

ユリウスがノアへと送ったというアミュレット。

晩餐会の出来事。

二人のやり取りがあまりにも自然で、ただ見ているだけしかできなかった。

ああしていつも、二人きりで過ごしていたのだろう。

ノアは今、護衛としてのユリウスにほんの少し依存しているだけだ。

他の王子達やシオンと過ごす時間が増えれば、きっとそれに気がつくはずであろう。

なぜユリウスではだめなのか？

わたし自身にもよく分からない。

なぜか許し難いのだ。

あの者は、きっとノアを傷つける。

ノアがユリウスを理由にシオンを拒絶しようとしたときは、仕方がない。

戯言だと思われているかもしれないが、その時は本当にユリウスとマホを婚約させるしかないだろう。

ユリウス、其方は気が付いているのか？

ノアを抱きかかえる其方の表情に……

ただの護衛だと、本当に言い切れるのか？