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邂逅
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彼女たちは密かにユリウスの行方について調べ始めたが、隣国へ立ってからの足取りを掴む事はできなかった。
分かったことは、ユリウスは一人ではないと言うこと。
ユリウスだけに懐いていたシロと呼ばれる子が、付き従っていったようだった。
あの晩、ユリウスは待っている人がいると話していた。
ユリウスの帰りを待っていたのは、きっとそのシロと言う子だ。
直接話したことは数える程だけで、ユリウスの後ろから常に牽制するような視線をノアールへと送っていた。
あの子もきっとユリウスを慕っていたんだろう。ノアールの隠し通していた筈の想いを、あの子は何処かで感じ取っていたのかもしれない。
何のしがらみもなくユリウスに付き従って行けるシロが羨ましい。
建国祭を目前に控えた頃、ノアールは心身共に疲弊しきっていた。
伴侶と世継ぎと、周囲からの重圧も日増しに大きくなる。
国の安泰と平穏と懺悔と、それらを祈るために通い続けていた教会で、ノアールの祈りはいつしか変わっていった。
世継ぎさえいれば、ユリウスは戻ってきてくれるだろうか、自分もシロのようにユリウスを追いかけていく事ができるだうか。
何故同性を慕う事を禁忌とするのか。異性も同性も想い合う気持ちは同じなのに。
禁忌とされている今の状況を解禁することをノアールは決心していた。
あの晩以降、既に男としての機能は失われている。
仮に誰かを娶っても、もう世継ぎを設けることは不可能だ。
これが罰ならば、この先の罰も全て受け入れる準備がノアールにはできていた。
日増しに食欲がなくなり、青白い顔をしたノアールのことを心配していた女たちは、ある日その様子が子を宿した女たちのそれと似ていることに気が付いた。
医療に心得のある一人が、確認できる全ての方法で調べ上げ、結果ノアールが子を宿していることが明らかになった。
建国祭の前日、長い回廊を渡った奥深く、一際重厚な扉で閉ざされた部屋の中には、限られた人物たちが集められていた。
ノアール、十人の女たち、父親、全ての教会を治める神殿の長だ。
「…そんな馬鹿な事があるか!?こんな日に急遽呼び出しておいて、お前たちは何を言い出すんだ?」
ノアールの身体に起きている事実を告げた女に、父親は血相を変えて怒鳴り出した。
女たちは寝台に横たわるノアールを守る様に、その周りを取り囲んでいる。
神殿の長は神妙な面持ちで、黙り込んだままだ。
「信じられなくても当然です。ですがありとあらゆる方法で確認したのです。間違いありません。」
「ノアールは男だ。冗談では済まされない話しをお前たちは信じているのか?」
「冗談ではありません。」
真新しい部屋の中はまだがらんとしている。
長くか細い吐息が、横たわるノアールから苦しげに吐き出されている。
「そんな話しを信じられるか!誰か、他の者に…」
「領主様、ここは冷静にお話しすべきです。」
口籠る父親を、神殿の長は静かに嗜めた。
他の医者にノアールの診断を委ね、その結果が同じであれば、建国祭どころではなくなる事が明らかだったからだ。
混沌としたこの地の安泰を望んでいたのは神殿も同じだ。
ノアールたちと志を共にし、神殿も協力してきた。
今のこの状況が漏れてしまえば、混乱をきたすことは間違いなかった。
建国祭を先延ばしにすることは出来ないと、翌日ノアールは身体を引きずって務めを果たした。
初代国王と認められた瞬間だ。
もう誰も後戻りは出来ないと理解していた。
身重になったノアールは後宮内に閉じ込められ、そこで大半の時を過ごし、執務を執り行った。
その身体の変化に父親も神殿長も、現実を理解せざるを得なくなった。
誰の子なのか、父親は認めたくなくとも分かっていたし、神殿も察していたが、既に罰することなど出来ない状況の中、ノアールは密かに小さな男の子を産んだ。
ノアールによく似た愛らしい姿の子を、女たちは大層可愛がってくれたし、父親もその子の前でだけは険しい顔を緩ませてくれた。
「…神殿長、わたしが何をしたのか、もうお分かりでしょう?男の身体のまま子を産むなんて、世の理に反していることです。」
口を閉ざしたままずっと見守っていてくれた神殿長にノアールは言った。
「この子が生まれるまで、咎めずにいてくださった事に感謝しています。いつでも罰を受ける準備はできています。」
「あなたが、ずっと教会に通い続け祈りを捧げていたことは知っていました。何か懺悔することが、あったのですね?」
「ええ…。わたしの祈りは、もしかしたら邪神に届いたのかもしれません。それでも同性同士の交わりを禁忌とすることは、もう解禁したいのです。」
「…とても、愛らしい子です。あの子を見ていたら、あなたを罰すべきなのか、わたしにも分からなくなってきました。」
「…多分、わたしはもう長くはありません。自分でわかるのです。この国は父とあなたと、生まれた子がいれば、この先きっと安泰です。ですから、どうか…」
「分かりました。検討しましょう。ノアール様の身に起きたことが神の意に反いた罰なのか、赦しからきたものなのか、正直わたしにも分かりかねるのです。」
ノアールは首を振った。
いいや、罰だろう。
罰じゃなきゃいけない。
ふいに泣き出した子を、その手でぎゅっと抱きしめる。
この子もノアールも、きっとユリウスから抱きしめられることは、叶わない。
分かったことは、ユリウスは一人ではないと言うこと。
ユリウスだけに懐いていたシロと呼ばれる子が、付き従っていったようだった。
あの晩、ユリウスは待っている人がいると話していた。
ユリウスの帰りを待っていたのは、きっとそのシロと言う子だ。
直接話したことは数える程だけで、ユリウスの後ろから常に牽制するような視線をノアールへと送っていた。
あの子もきっとユリウスを慕っていたんだろう。ノアールの隠し通していた筈の想いを、あの子は何処かで感じ取っていたのかもしれない。
何のしがらみもなくユリウスに付き従って行けるシロが羨ましい。
建国祭を目前に控えた頃、ノアールは心身共に疲弊しきっていた。
伴侶と世継ぎと、周囲からの重圧も日増しに大きくなる。
国の安泰と平穏と懺悔と、それらを祈るために通い続けていた教会で、ノアールの祈りはいつしか変わっていった。
世継ぎさえいれば、ユリウスは戻ってきてくれるだろうか、自分もシロのようにユリウスを追いかけていく事ができるだうか。
何故同性を慕う事を禁忌とするのか。異性も同性も想い合う気持ちは同じなのに。
禁忌とされている今の状況を解禁することをノアールは決心していた。
あの晩以降、既に男としての機能は失われている。
仮に誰かを娶っても、もう世継ぎを設けることは不可能だ。
これが罰ならば、この先の罰も全て受け入れる準備がノアールにはできていた。
日増しに食欲がなくなり、青白い顔をしたノアールのことを心配していた女たちは、ある日その様子が子を宿した女たちのそれと似ていることに気が付いた。
医療に心得のある一人が、確認できる全ての方法で調べ上げ、結果ノアールが子を宿していることが明らかになった。
建国祭の前日、長い回廊を渡った奥深く、一際重厚な扉で閉ざされた部屋の中には、限られた人物たちが集められていた。
ノアール、十人の女たち、父親、全ての教会を治める神殿の長だ。
「…そんな馬鹿な事があるか!?こんな日に急遽呼び出しておいて、お前たちは何を言い出すんだ?」
ノアールの身体に起きている事実を告げた女に、父親は血相を変えて怒鳴り出した。
女たちは寝台に横たわるノアールを守る様に、その周りを取り囲んでいる。
神殿の長は神妙な面持ちで、黙り込んだままだ。
「信じられなくても当然です。ですがありとあらゆる方法で確認したのです。間違いありません。」
「ノアールは男だ。冗談では済まされない話しをお前たちは信じているのか?」
「冗談ではありません。」
真新しい部屋の中はまだがらんとしている。
長くか細い吐息が、横たわるノアールから苦しげに吐き出されている。
「そんな話しを信じられるか!誰か、他の者に…」
「領主様、ここは冷静にお話しすべきです。」
口籠る父親を、神殿の長は静かに嗜めた。
他の医者にノアールの診断を委ね、その結果が同じであれば、建国祭どころではなくなる事が明らかだったからだ。
混沌としたこの地の安泰を望んでいたのは神殿も同じだ。
ノアールたちと志を共にし、神殿も協力してきた。
今のこの状況が漏れてしまえば、混乱をきたすことは間違いなかった。
建国祭を先延ばしにすることは出来ないと、翌日ノアールは身体を引きずって務めを果たした。
初代国王と認められた瞬間だ。
もう誰も後戻りは出来ないと理解していた。
身重になったノアールは後宮内に閉じ込められ、そこで大半の時を過ごし、執務を執り行った。
その身体の変化に父親も神殿長も、現実を理解せざるを得なくなった。
誰の子なのか、父親は認めたくなくとも分かっていたし、神殿も察していたが、既に罰することなど出来ない状況の中、ノアールは密かに小さな男の子を産んだ。
ノアールによく似た愛らしい姿の子を、女たちは大層可愛がってくれたし、父親もその子の前でだけは険しい顔を緩ませてくれた。
「…神殿長、わたしが何をしたのか、もうお分かりでしょう?男の身体のまま子を産むなんて、世の理に反していることです。」
口を閉ざしたままずっと見守っていてくれた神殿長にノアールは言った。
「この子が生まれるまで、咎めずにいてくださった事に感謝しています。いつでも罰を受ける準備はできています。」
「あなたが、ずっと教会に通い続け祈りを捧げていたことは知っていました。何か懺悔することが、あったのですね?」
「ええ…。わたしの祈りは、もしかしたら邪神に届いたのかもしれません。それでも同性同士の交わりを禁忌とすることは、もう解禁したいのです。」
「…とても、愛らしい子です。あの子を見ていたら、あなたを罰すべきなのか、わたしにも分からなくなってきました。」
「…多分、わたしはもう長くはありません。自分でわかるのです。この国は父とあなたと、生まれた子がいれば、この先きっと安泰です。ですから、どうか…」
「分かりました。検討しましょう。ノアール様の身に起きたことが神の意に反いた罰なのか、赦しからきたものなのか、正直わたしにも分かりかねるのです。」
ノアールは首を振った。
いいや、罰だろう。
罰じゃなきゃいけない。
ふいに泣き出した子を、その手でぎゅっと抱きしめる。
この子もノアールも、きっとユリウスから抱きしめられることは、叶わない。
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