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アミュレットとメダル
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予定通り、ユリウスはマホを連れ立って生家へと旅立ってしまった。
結局、色々あったが、俺は振られたんだ。
「見送りに行かなくて良かったんですか?」
シオンはそう言うが、笑顔で見送る自信なんてない。
無様に引き留めようとして、振り払われるのがおちだ。
これ以上惨めな気持ちを味わいたくない。
「…ユリウスがマホを受け入れるなんて、想定外だった。…その、すまなかったな、ノア。」
シオンの横には一番がいる。
仲が良いのか、悪いのか、結局この二人はいつも一緒だ。
「ユリウス様は気が付いていないだけだと思うんだが…、ノア様、やはりわたしとの婚約解消を解消しますか?って、おい、シュヴァリエ!」
だんっと音を立てて、シオンの爪先を一番の足が踏みつける。
「お前は、一度ノアに振られたはずなのに、まだそんな事を考えていたのか?」
「ユリウス様がダメなら、俺以外適任はいないだろ?」
さらに強くぐりぐりと踏みつけられ、シオンは悲鳴を上げた。
「お前……どの口がそんな事、」
ぐりぐり、ぐりぐり…
シオンは踏みつけられている筈なのに、どこか嬉しそうだ。
「嫉妬か?そんな一面もあるんだな。」
ん?
「誰が嫉妬なんか。」
ふんと顔を背ける一番は、今まで見たことがない表情をしている。
「相変わらず、素直じゃないんだなあ。冗談だよ。」
んんん?
そういう事に鈍感な俺でも、この二人の変化に色々と察してしまう。
……そう言うことか。
……くそ。
一人にしてくれと、二人を部屋から追い出して、やっと一息つく。
二人が傷心の俺を気遣ってくれているのは分かるけど、二人の様子にかえって傷が抉られる。
ユリウスはシオンとなら、なんて言っていたけど、まさか兄さんとシオンが、なんて考えもしなかっただろう。
シオンのことがなくても、ユリウスがここに留まる理由はなかったはずだ。
ごろごろと寝台の上で寝転ぶたびに、ちゃりちゃりと首すじから音が鳴る。
このアミュレットを貰ったあの日が懐かしい。
毎日ユリウスと過ごして、明日も明後日も、それが当然続くものだと過ごしていたあの頃が。
……もうとっくに王都からは出てしまっただろう。
二人でどんな話しをしながら旅して行くんだろう。
ユリウスの気持ちがマホへとなくても、ただ一緒に隣にいられるマホのことが羨ましい。
ノアールのことを除けば、ユリウスにとっての俺は、結局ただの護衛対象でしかなかったんだろうか。
……やっぱり、見送りに行けば良かった。
最後にもう一度、顔ぐらい見とけば良かった。
……くそ。
父さんから呼び出され、抜け出した晩のことを咎められるのかとひやひやしたが、言い渡されたのは、成人の儀の日取りについてだった。
すっかり忘れていたが、後数日で俺も成人の仲間入りだ。
何かを探る様に、じっと見つめてくる父さんの目から、きっと父さんは抜け出したことを分かった上で、あえて見逃しているんだろうと理解した。
俺がこうして、ここに残っているから。
食欲もないし、早めに寝床に着くが、いかんせん眠れない。
ユリウスの生家は遠いから、今晩は宿を取っていると耳にした。
今頃宿に着いて、二人で夕飯を食べて、一緒に寝床についたりしてるんだろうか。
考えてもしょうがないことが、頭の中でぐるぐると駆け巡る。
終いにはノアールまで脳裏に浮かんでくるから、今はそっとしておいてくれとかき消そうとするのに、ノアールは出て行ってくれない。
何かを必死に伝えようとしてくる。
俺の役目はもう終わっただろう?
ユリウスに伝えるべきことは伝えたし、ユリウスがノアールのことだけをずっと想い慕っていると知れたんだから、もういいじゃないか。
これ以上何を伝えることがあるんだよ。
かき消してもかき消しても、ノアールは脳裏に居続ける。
『ノア、ノア!聞こえているだろ!ノア!』
あまりのしつこさに、ずっと逸らし続けていた目を向けると、ノアールが小さな子を抱いて必死に呼びかけている姿がそこにはあった。
切迫した様子のノアールと違い、その子は親指をちゅぱちゅぱと口に咥えて、機嫌が良さそうに笑っている。
『ユリウスが危ない。急げ。今ならまだ間に合う!』
危ない?
何のことだ?
今頃宿で寛いでいる筈だろ?
『本当に、もう二度とユリウスに会えなくなってもいいのか!?』
???
ずっとノアールを見上げていた子が、ふいに俺の方に視線を向けると、堰を切ったように泣き始めた。
ぎゃあぎゃあと泣き叫ぶ声が頭の中に鳴り響く。
『急げ、ノア!』
急げって、何を、どうしたら……
ぱっと目が覚め、いつの間にか眠っていたことに気が付く。
夢?
ノアールは何を伝えようとしていたんだ?
子どもの泣き声で、頭ががんがんとする。
水でも飲もうと起き上がると、いつもとは違う明らかな違和感がそこにはあった。
違和感の先、首元のアミュレットに手をやると、アミュレットは完全に二つに割れていた。
『急げ、ノア!』
さらに逼迫した声が、もう一度頭の中で鳴り響く。
これは、幻聴なんかじゃない。
結局、色々あったが、俺は振られたんだ。
「見送りに行かなくて良かったんですか?」
シオンはそう言うが、笑顔で見送る自信なんてない。
無様に引き留めようとして、振り払われるのがおちだ。
これ以上惨めな気持ちを味わいたくない。
「…ユリウスがマホを受け入れるなんて、想定外だった。…その、すまなかったな、ノア。」
シオンの横には一番がいる。
仲が良いのか、悪いのか、結局この二人はいつも一緒だ。
「ユリウス様は気が付いていないだけだと思うんだが…、ノア様、やはりわたしとの婚約解消を解消しますか?って、おい、シュヴァリエ!」
だんっと音を立てて、シオンの爪先を一番の足が踏みつける。
「お前は、一度ノアに振られたはずなのに、まだそんな事を考えていたのか?」
「ユリウス様がダメなら、俺以外適任はいないだろ?」
さらに強くぐりぐりと踏みつけられ、シオンは悲鳴を上げた。
「お前……どの口がそんな事、」
ぐりぐり、ぐりぐり…
シオンは踏みつけられている筈なのに、どこか嬉しそうだ。
「嫉妬か?そんな一面もあるんだな。」
ん?
「誰が嫉妬なんか。」
ふんと顔を背ける一番は、今まで見たことがない表情をしている。
「相変わらず、素直じゃないんだなあ。冗談だよ。」
んんん?
そういう事に鈍感な俺でも、この二人の変化に色々と察してしまう。
……そう言うことか。
……くそ。
一人にしてくれと、二人を部屋から追い出して、やっと一息つく。
二人が傷心の俺を気遣ってくれているのは分かるけど、二人の様子にかえって傷が抉られる。
ユリウスはシオンとなら、なんて言っていたけど、まさか兄さんとシオンが、なんて考えもしなかっただろう。
シオンのことがなくても、ユリウスがここに留まる理由はなかったはずだ。
ごろごろと寝台の上で寝転ぶたびに、ちゃりちゃりと首すじから音が鳴る。
このアミュレットを貰ったあの日が懐かしい。
毎日ユリウスと過ごして、明日も明後日も、それが当然続くものだと過ごしていたあの頃が。
……もうとっくに王都からは出てしまっただろう。
二人でどんな話しをしながら旅して行くんだろう。
ユリウスの気持ちがマホへとなくても、ただ一緒に隣にいられるマホのことが羨ましい。
ノアールのことを除けば、ユリウスにとっての俺は、結局ただの護衛対象でしかなかったんだろうか。
……やっぱり、見送りに行けば良かった。
最後にもう一度、顔ぐらい見とけば良かった。
……くそ。
父さんから呼び出され、抜け出した晩のことを咎められるのかとひやひやしたが、言い渡されたのは、成人の儀の日取りについてだった。
すっかり忘れていたが、後数日で俺も成人の仲間入りだ。
何かを探る様に、じっと見つめてくる父さんの目から、きっと父さんは抜け出したことを分かった上で、あえて見逃しているんだろうと理解した。
俺がこうして、ここに残っているから。
食欲もないし、早めに寝床に着くが、いかんせん眠れない。
ユリウスの生家は遠いから、今晩は宿を取っていると耳にした。
今頃宿に着いて、二人で夕飯を食べて、一緒に寝床についたりしてるんだろうか。
考えてもしょうがないことが、頭の中でぐるぐると駆け巡る。
終いにはノアールまで脳裏に浮かんでくるから、今はそっとしておいてくれとかき消そうとするのに、ノアールは出て行ってくれない。
何かを必死に伝えようとしてくる。
俺の役目はもう終わっただろう?
ユリウスに伝えるべきことは伝えたし、ユリウスがノアールのことだけをずっと想い慕っていると知れたんだから、もういいじゃないか。
これ以上何を伝えることがあるんだよ。
かき消してもかき消しても、ノアールは脳裏に居続ける。
『ノア、ノア!聞こえているだろ!ノア!』
あまりのしつこさに、ずっと逸らし続けていた目を向けると、ノアールが小さな子を抱いて必死に呼びかけている姿がそこにはあった。
切迫した様子のノアールと違い、その子は親指をちゅぱちゅぱと口に咥えて、機嫌が良さそうに笑っている。
『ユリウスが危ない。急げ。今ならまだ間に合う!』
危ない?
何のことだ?
今頃宿で寛いでいる筈だろ?
『本当に、もう二度とユリウスに会えなくなってもいいのか!?』
???
ずっとノアールを見上げていた子が、ふいに俺の方に視線を向けると、堰を切ったように泣き始めた。
ぎゃあぎゃあと泣き叫ぶ声が頭の中に鳴り響く。
『急げ、ノア!』
急げって、何を、どうしたら……
ぱっと目が覚め、いつの間にか眠っていたことに気が付く。
夢?
ノアールは何を伝えようとしていたんだ?
子どもの泣き声で、頭ががんがんとする。
水でも飲もうと起き上がると、いつもとは違う明らかな違和感がそこにはあった。
違和感の先、首元のアミュレットに手をやると、アミュレットは完全に二つに割れていた。
『急げ、ノア!』
さらに逼迫した声が、もう一度頭の中で鳴り響く。
これは、幻聴なんかじゃない。
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